お出かけ希望
囲炉裏部屋の戸がスッと開いた。
「ん?」
「へ?」
「あれ?」
「うそー?」
淑やかに入室してきた姿に気がついた座敷童たちが声を上げた。
入ってきたのは、いつも自室でずっと機織りを続けている緑花。
緑花は胸に大事そうに風呂敷包みを抱えていた。
「どーしたのー?珍しーっ!」
今日も後で緑花の部屋に柏餅を配達する気でいた紅が、少し大きな声を出す。
「だよなー、今頃人間界には雪でも降ってんじゃないか?」
一応まだ雪が降ってもおかしくはない季節だ…とアオが言うと、緑花は少し馬鹿にしたように肩を竦めた。
「私ごときで天候が動くことなんてありえない」
「えーと……。なんか、そう冷静に返されると悲しいんだけど…」
アオはそう言って泣きまねをする。
「やめんか、二人とも」
とりなす銀河の言葉を聞きながら、緑花はスズメに視線を向ける。
「帯が織りあがったの……」
そう言って、胸に抱えていた風呂敷包みをスズメに示す。
「わかった。ではいつも通り持って行ってやろう」
囲炉裏端で柏餅をつつきながらスズメがそう言うが――。
緑花は白波から柏餅の乗った皿を受け取りながら首を横に振った。
「いいえ、スズメ…今回は私を連れて行ってちょうだい。私、自分で持って行きたいの」
餅をつつくスズメの動きがピタッと止まり、怪訝そうな視線を緑花に向けた。
「どうしたのだ?いつも通り、井戸から見ておれば良いではないか?」
「クロを外に連れて行ったと聞いたわ。では、私を連れて行くのも同じでしょう?」
「同じではないが、連れていけなくはない……」
スズメの返答を聞きながら、緑花は柏餅を黒文字で切って口に運ぶ。
「美味しいわ…」
そう言ってホッと息を吐く。
それと同時に緑花の白すぎる顔色に、ほわっと少し朱がついてくる――。
白波の菓子に含まれる、座敷童にとって良い力が緑花に取り込まれたからだ。
「私、こんなに疲れ果てるほど、ずっと嫌がらせ続けているのよ?嫌がらせの成果を、実際に見てみたいと思うのは当たり前だと思わない?」
「まったく……」
緑花の言葉にスズメが息を吐く。
「嫌がらせ?」
スズメと緑花のやり取りを、わからないまま聞いていたクロは、緑花の言葉に首を傾げる。
嫌がらせなんて、本来座敷童としては縁遠い言葉のはずだ。
だがそんなクロに緑花は「そうよ」と、凛とした口調で言いきる。
「私、ずっと嫌がらせをしているの。だって腹が立つんだもの」
怒り続けているのだと緑花は言う。
「誰に?」
「もちろん、私の元守護家の連中によ!」
クロの問いに、緑花は何を当たり前のことを聞いているのだと眉を逆立てた。
「あの連中!私がずっと護ってあげてたのに、いつの間にかそれをすっかり忘れて、私を捨てて行ったの。許せないのよ、私……」
だからずっと嫌がらせを続けているのだと緑花は言った。
「いや…でも、嫌がらせって……」
ものすごく不毛なことだとクロは思うのだが……。
「クロも一緒に行くか?」
スズメが言った。
「え?」
「せっかくだから、緑花の嫌がらせを見てみるのも良いのではないか?クロはどうも、他の座敷童のことを知らなすぎる気がするのでな…」
座敷童にも色々いるのだと、知ることも良いだろう――。
「えーと…」
どう答えるのが正解か――考えて言葉に詰まったクロより先に、紅が手を上げた。
「はいはーいっ!じゃあ、あたしも行きたーい!」
「あ、オレも!なんか面白そう!」
アオも声を上げるが……。
「却下だ」
スズメはつれなく断る。
「なーんでよー!」
紅がふくれっ面をするが……。
「そなたらはここでの生活が長く、今まで色々な他の童と会って来とるだろう……必要ない。緑花の郷に行ったところで、はしゃいで暴れまわるがオチだ」
連れて行っては面倒ごとが増えるだけ――。
「そこまで言うー?」
アオも不満を述べるが、知らんとばかりにスズメはつーんと横を向く。
「紅もアオも、人のことを好き過ぎる……。もし人界に行っている時に、良さそうな気配を察知したら、そのままそちらに駆けていくやもしれん……。そなたらからは、そういう危うさを感じる」
だから、連れて行かない――。
「むぅ…」
「言い返せない自分がちょっと悔しい……」
唇を尖らす紅と、地味に凹むアオ…が、二人ともそんなことは無い!と抗議しないのは、ちょっとした切っ掛けで、人に惹かれすぎることへの自覚があるのだろう。
「座敷童が人を好きなのは仕方ない。そういう存在だからな……。けれど、そなたらはここで療養して力を戻し、長く付き合える家へ行きたいと思っておるのだろう?ならば、突発的に情に引っ張られる可能性がある場所には近づかない方が良い」
連れて行かないのは、紅とアオを思いやった故のことだとスズメは言う。
「クロは……」
「元の家の者を見て惹かれはしておったが、暴走するほどではなかったな。まぁ、普段のこれの様子を見ておれば、その程度の判断はつこう」
「ちなみに……きっとスズメは、銀河なら連れて行ってもいいって言いますよ?」
それまで黙って様子を見ていた白波が口を挟んだ。
「え、なんでー?」
「銀河だって、根っこは人好きだぞ?」
紅とアオは抗議するが……。
「日頃の行いというものではないかしら?」
薄く笑いを浮かべた緑花にとどめを刺されるのだった。
「どうする、銀河この事態……」
「知らん顔をして茶でも飲んでおれ」
こそっと聞いたクロに、銀河はずずっ!とお茶をすすってそう答えた。
ちょっと不穏な気配漂う……騒々しい座敷童たちの囲炉裏端だった――。
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