柏餅の葉っぱ
「で、どーなんの?その子の足ー。歩けるようになんのー?」
いつもの囲炉裏部屋――。
柏餅の葉をぺりぺりはがしながら紅が問う。
「本人次第だよ。華子がやる気で頑張れば、そのうち歩けるようになるけど、頑張らなきゃ無理」
それも普通の頑張りではなく、必死の頑張りでなければ無理だ。
無理かもなぁ…とクロは紅に答えながらそう思う。
「うーん……。今までのクロたちの話を聞く限り、とてもそんな頑張り見せてくれるような子じゃない気がするなー」
唸るように言ったアオも、クロと同じように感じているようだ。
「ならば、このまま歩けぬままになるだけのことよ」
スズメがあっさりと言った。
「おー、スズメ突き放すねぇ!」
「哀れとは思うが、こっちに関係の無いことだからな」
「そりゃそーだけどー」
冷たいスズメの物言いに座敷童は騒ぐが、だからと言って何か出来るわけでもないことは皆知っている。
「まぁ、自業自得としか思えんことでもあるしな……」
銀河が落とした声音で言うことは、座敷童にとっては共通の感想でもあるだろう。
座敷童が好きなのは人の『良』の気。
他人を妬んだり、傷つけようとする『負』な気は好きではない。
というか大嫌いで、側に居られるだけで力を削がれてしまう。
華子は他所より恵まれた座敷童の守護家に生まれながら、座敷童が嫌う負の気を纏ってしまった人間だ。
しかも、その負の気を持つ原因が座敷童にあるというのだから――。
そんな存在知りたくもなかった――。
「人って、ホント厄介だよなぁ……。ただ護ってるだけじゃ、護り切れないってなんなの?」
「ねー、むずかしいねー」
「色々いるから、共に暮らして楽しいし、嬉しい……。こちらも満たされ、相手を護る――。だけで済まされないこともある……」
困りきったしかめっ面で、口々に言い合う座敷童達。
「俺は華子のこともずっと護ってきたつもりだったんだ。でも、昔からあれはすぐに、そんな俺の気持ちを裏切るようなことをする……」
どうしたらよかったんだろう?
そう言って、クロは柏餅に手を伸ばす。
「これ、良い香りだよな…」
葉をはがす前に、そっと鼻の前に持ってきてその香りをかいだ。
「そう言う菓子ですからね」
桜餅とは違い、柏餅の葉は食べるのではなく香りをつけるのものだと言った。
「柏餅の柏の葉には、子孫繁栄の願いがあるそうですよ」
「そうなんだ……。あ、じゃあこの葉っぱも食った方が良いのか?」
その問いには白波は首を振る。
「いえ、外して食べてください」
「食べてもー、害はないんでしょー?」
「ええ。でも美味しくはないですよ」
「もしゃもしゃするよなー」
「おや?もしかしてアオは食べたことあるな?」
銀河の指摘にアオはバレたかと笑う。
「だってさ、子孫繁栄を願ったもんだろ?だったら食っとけばもっとご利益あるかなー?とか思わない?」
「思わなーい!」
「あえて不味いものを食わなくても良いだろうが……」
口々に言う座敷童達――。
「俺、今思ったけど…。華子には、子孫繁栄なんて願い…きっとないよな……」
「……」
柏餅を見つめながらそう言ったクロの言葉に、他の童たちは「ああ…」という納得顔を浮かべた。
「最近の人間、大体がそうじゃね?」
「子供が生まれたら喜ぶけどー、あれってー自分ちの繁栄とかー頭の片隅にもーないって感じー」
「そうだな……。己が子が出来たことに対する喜びはあっても、それが家や血の存続に繋がるなど考えてはおらぬだろう……」
口々に言って、座敷童同士で顔を見合わす。
人が血――家の存続を願わないのなら、何のための座敷童なのか……。
そこへパタタタっと、スズメが羽ばたきして注意を引く。
「それは人に任せておけば良い。人がどうあろうと座敷童は家を護るもの。それさえわかっておればよい……。ただし、人で無いものとして、やり過ぎないことは肝に銘じておかねばならんがな」
「う……」
スズメの念押しに、華子の今が気になって仕方ないクロは言葉に詰まる。
そんなクロをスズメは呆れた目で見る。
「クロよ。あの娘は十分すぎるほど恵まれておるぞ。我儘で、哀れで、愚かな娘だが、この先たとえ歩けないままだとしても、生きていくのに支障は無かろう」
というか、環境が恵まれすぎているから、必死になって歩こうという気になれないだろうとスズメは言った。
「スズメ……それは……」
「家が裕福だから、どんなに治療費が掛かろうと生活に困ることがない。自分の足で歩けなくとも車椅子があるし、介助してくれる人の手もある。生まれてこのかた、食べるに困ったことなど一度も無い……。だから辛い思いや、痛い思い、惨めな思いをしてまで歩きたいと思わない――」
そういう恵まれた立場にある娘だ。
歩けないことで色々不便な思いはするだろうが、生きていくに困ることは無いだろう。
だから必死になる必要が無い……。
「座敷童が家についたことによる弊害――とも言えるだろうな」
弊害――と言われて、座敷童たちはショックを受けた顔になる。
「……オレたち、害なの……?」
「守護を受ける人によっては、そうなることもあるということだ」
「護り切れない…んじゃなくて、害……」
「そうだ。アオも心辺りはあるだろう」
「ある……」
護り過ぎによる害――。
「まったく……!座敷童とは、ほんに面倒な存在よの……」
スズメが大きく息をつく。
「スズメ……。何に腹を立てているのか知らないけど、そんなにイジメなくてもいいと思うんだけど……」
いつもならここまで言わないでしょ?と、白波がスズメを諫める。
が……。
「人は弱い――。甘えられるものがあれば、甘えてしまうものだ……」
八真名華子のあの状況は、座敷童の存在に甘えすぎたがためのことだ――。
スズメはそう言った。
座敷童=甘えの元。
家の繁栄は座敷童のおかげ。
でももし華子が座敷童のいない家に生まれていたら、彼女の今のあの状況は無かっただろう…。
「座敷童も柏餅の葉と同じようでいいのだ。お守りや験担ぎ、食べるときにははがして捨てる――」
「……あの子もタロの血、引いてるんだよ……」
構いすぎてはいけないというスズメに、クロはつぶやくように言った。
クロにとっては力を失う原因にもなった腹立たしい娘だ……けれど、それでも大事に思う気持ちは今もある。
「大事に思うのも、その幸せを望むのもいいと思うぞ?だが、人が人として生きていくのを、人で無い者が力を貸して歪めることがあってはいけない」
「それは…わかってる……」
スズメの念押しに頷くクロ。
「んー?もしかして、クロ。その子に同情してまた余計なことするんじゃないかと、スズメに危惧されてんじゃね?」
アオがそう言った。
「え?」
「そうかも、しれぬな?」
「う……しないよ。大丈夫……」
クロはそう言うが……。
「『大丈夫』あとに多分と入りそうな気がしたぞ?」
スズメの追撃に、絶対しないと誓わされたクロだった。
「クロ、こっちの味噌餡の柏餅も美味しいですよ?」
しょんぼりしたクロを気遣って、白波が味違いの柏餅を勧める。
「うん」
白波に差しだされた柏餅を素直にクロは受け取る。
ぺりりっと葉をはがし、パクっと餅にかぶりついた。
「…美味い……」
「でしょう?白隠元の餡に、白味噌を混ぜただけですが、味噌の塩気があっさりした白隠元餡にコクをつけてくれて、味に深みが出るんですよね」
ニコニコと白波が言う。
「先に食べたこし餡のヤツも美味かったけど……」
「ええ、ありがとうございます。そう言っていただけると、作り甲斐がありますよ」
白波はそう言って笑ってから言葉を足す。
「それはそうと――クロは幸せですよ。座敷童として……」
「え?」
「スズメがお説教していたので、僕まであまり言いたくはありませんが……。何百年も、一つの血筋についておられるなんて、座敷童として幸せ以外に何があります?僕からすると、それを当たり前として過ごしていたクロは、ある意味、華子という哀れな娘さんと同じなんじゃないかと思いますよ?」
「そうなのかな……」
白波の指摘を聞いて、クロは遠いタロとの約束をぼんやり思い出していた……。
お読みいただき大変ありがとうございますm(__)m
よろしければぜひまた続きを読みに来てください(o_ _)o))
てか、柏餅の季節ですよねー!(大好き♪)
こし餡、粒あん、味噌餡、鶯餡……。ヨモギ餅にしてもいいですよねー^^
柏餅の材料(5個分)
上新粉 200g
砂 糖 大さじ1
熱 湯 200ml
お好みの餡 200g
柏の葉(山帰来の葉でも可)
5枚
※山帰来の別名はサルトリイバラ。柏の葉でなくても、葉で包むと柏餅と言っていいそうです。
因みに古いのは山帰来の方。関西は柏葉より山帰来の方が主流だとか…。
(ぐらごんは関西人なので、柏の葉より山帰来の方が馴染みがあるし、手触りがつるっとしているので好きです。柏葉はざらっとしてる)
葉で巻くのは乾燥防止(昔はラップとかないから)、香りつけ、殺菌作用、手の汚れ防止等々なのだそうです。
あと、柏葉は兜飾りに似ているというのもあるそうな。
柏の葉に子孫繁栄の意味があるのは、新芽が出るまで古い葉が落ちないからだそうです。
1. ボウルに上新粉と砂糖を入れて菜箸で混ぜ合わせます。
2. 熱湯を注ぎ、菜箸でポロポロになるまで混ぜる。
3. 生地がまとまるまで手でよくこねる(でっちる)。
4. 蒸し器に餅生地を一口大にちぎって並べ、中火で5分〜10分蒸す。
5. 蒸しあがったらボールに移し、熱いうちにへら等でこねる。
※やけどに注意!でも熱いうちでないとなめらかにならない…。
6. まとまったら5等分に分け、楕円形に伸ばしてあんを包む。
7. 柏の葉で巻き、冷めるまで置く。




