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昔々、あるところに…

「ああ、そういえば……」


 夜空の星を見ていたスズメが、ふと思い出したように聞いた。


「うん?」

「さっきの婆さまが言っていた、悪代官的な豪族というのはどうなったんだ?」

「ああ、あいつらね…。風の精霊たちから、あの後没落したって聞いてる。馬鹿な連中だったなぁ……」

「ほうほう」


 自分たちが根を張る村の一つに、守護――座敷童がついた家があると聞きつけ、その家が名を賜るほどの栄誉を受けたのは、その守護のおかげだ――。

 と、考えたのは確かにその通り。

 そして、それを羨ましがる気持ちはわかるが――。

 

 その幸運を横取りしようと、屋敷の襲撃を企てるのは人として間違っている。


「それになんでか俺のこと、屋敷に居ついてると思い込んでたみたいなんだよなー」


 俺はタロの血筋についていたんだが――。


 襲撃は屋敷の乗っ取りを目的としていた。


「もし、風の精霊の忠告が間に合わなくて、守護家の人間を殺して屋敷を乗っ取れたところで、俺が味方するわけないのになぁ……」


 根本的なことをわかってない連中はマジで困ると、クロは眉をしかめた。


 結果として、クロが護る八真名の一族は、襲われる前に屋敷を放棄して逃げたので、連中はご希望通りそのまま居ぬきで屋敷を乗っ取ることとなったのだが……。


 その奪った屋敷に、座敷童(守護)はついていない――。 


「けどその連中、俺が居なくなってることに全然気付かなかったんだってさー」


 居ないのに、(守護が)居るものと思い込んで、意気揚々と奪った屋敷での生活を開始したそうだ。


 呆れたように言うクロを、スズメは鼻で笑う。


「ふん……。人でないモノの存在を感じ取る力を持つものは、古来よりそう多くは無い。持たぬ者の方が大半よ」

「まぁね……」


 ただ、八真名の家に座敷童がいて護っているというのは、周囲では有名なことだった。

 

 そう大きくも無い村で、元々は裕福ではない――というか貧しい猟師とその子と孫が、色々なことに恵まれて、豊かになって行くのを周囲は見ていた。

 代が変わっても、その幸運をつかむ運気は衰えなかった。


 当然「なぜあの家だけ?」となる。


 そして周囲の者にそう問われたら、その時分の家の者たちは「座敷童がいるから」と誤魔化すことなく答えていた。


 その頃はまだ、自分たちの得る幸運の理由を誤魔化すなんて、考える必要のないそんな時代だったから――。

 

 また、見える者と見えない者がいるなんてことも、聞かれれば話していた。


 だから八真名の家を乗っ取った者たちは、たとえ自分達の目に見えなくても、屋敷に座敷童(守護者)がいるのだと思ってしまったのだろうが……。


「でさー。そいつらいわゆる武士(もののふ)の家だったんだ。でも、八真名の家は薬師だろ?」


 もし、俺が残っていたところでどうしようも無かったよなぁ――。

 クロは天を振り仰いでため息をつく。

 

「何があった?」 

「薬作れって、言われたんだってさ……」

「作くれんだろう?」


 武士に薬師と同じことは出来ない。


「うん。なのに、引き受けたんだって」

「なぜだ?」


 スズメが首を傾げる。


「自分達にも薬を作れるって思っちゃってたらしい…」


 座敷童のいる家を分捕って、そこに暮らすようになったのだから、自分達だって薬効高い薬を作れる!となぜか思い込んだらしい……とクロは言った。


「馬鹿なのか?」

「だからそう言ってる」


 クロの守護家に名を与えた尊い方は遠い都に住んでいた。

 まさか贔屓の薬師一家が、襲われそうになって逃げだしたなんて知りようもなかった。


 そして、前と同じように効果をあてにした薬を所望した……。


「出来るわけないんだよ。いきなり薬作れって言われて出来るわけがない。なのに真似して薬を作ろうとしたらしい」


 若干投げやりにクロはぼやく。


「ほー」

「でさ、その献上した薬って、蜂の巣――ま、いわゆるローヤルゼリーを使った薬だったんだけど、どうやらそれを中途半端に知ってたらしくて、山に入って蜂の巣集めようとしたんだと」

「蜂の巣……刺されるんではないか?」

「そ、エライ目にあったらしい。何人かそれで死んだって、風の精霊に聞いた」


 アナフィラキシーショック死である。

 現代でも蜂が活発に動く季節になると、毎年何人かそれで亡くなっている。


 蜂の巣の採取なんて、熟練の者でも刺されることがあると言う。

 つけ焼き刃でやって良いことではない。


「本っ当に!馬鹿な連中だよ。おまけにその採ってきた蜂の巣から絞った蜜を、甘いからって子供に舐めさせたんだ……」

「ああ…」


 うんざりした声をスズメがあげる。


「呼吸困難でも起こしたか……」


 ボツリヌス菌によるボツリヌス症――。

 みんながみんなかかるわけじゃ無いのが厄介なヤツだ。


 引っかからなければ、蜂蜜は甘くて美味しい。

 幼い子ならなおさら、喜んで口にするだろう……。

 が、いざ症状を引き起こしたら、命の危険が非常に高い。


「…うん。赤ん坊が何人か……。うちの子たちには、元服過ぎるまで与えないように言いつけてたんだけど……」


 他所の家のことまで気にしてはいなかった。


 なのに……そんなにも、いくつも不幸をかぶったというのに、彼らは無理やり薬を仕立てて都に送った――。


「薬なんて効果が無けりゃすぐばれる。というか、とてもじゃないが薬とは呼べないもんを送ったらしい」


 蜂の巣や葛の根、麦粉やなんかを団子にして、薬だと言って使いの者に持たせたという。


 当然バレる豪族の暴挙……。


「なぜそんなことを……?」

「どうやら適当に作っても、座敷童が薬にしてくれると思い込んでたらしい」

「無知にもほどがあるな……」


 他力本願極まれり――。

 呆れたスズメは首を軽く振る。


「で、どうなった?」


 スズメの問いに、クロは天を振り仰ぐ。


「村ごと焼かれちゃったらしい……」

「村ごと?」

「そ…。うちの薬をものすごく気に入ってたらしくて、真相知って激怒だって。兵を派遣して、村に盛大に火を放ったんだってさ……」

「処罰はその豪族だけではいかんかったのか?」

「他の連中も、そいつらの暴挙を止めなかったのが罪ってことらしい」

「やり過ぎだろう」


 スズメは呆れたように羽をパタつかせる。


 内心では反発しつつも、力のある豪族に反抗できなかった村人もいるだろう。

 何のことか知らなかった者もいるだろう。

 村ごとということは、罪のない者も一緒に処罰されたということだ。

  

「俺も最初聞いた時、そう思ったよ。けどさ……八真名を助けてくれなかった村人の中には、八真名が助けてやったヤツが何人もいたんだよな…。助けてくれなかったどころか、豪族側についてたのまでいたって聞いたし……」


 薬に蜂の巣使ってたとか、混ぜて団子にしてたとか、座敷童は見える者と見えない者がいるとか――その豪族が知らないはずのことを知っていたのは、そんな連中が情報を流したからだ。

 だから、仕方ないな……といつの間にか思うようになったという。


「ふむ……ではまぁ、簡単に言うとこういうことだな――」


 そういうと、スズメは声色を変えて語り出す。


 『昔々あるところに、お馬鹿な豪族がいました。


 お馬鹿豪族は幸せに暮らしていた善良な者たちを羨み、その生活を奪おうとしましたが、善良な者たちはそうと知って逃げだしました。


 住み慣れた場所を奪われた善良な者たちは悲しい思いをしましたが、皆で頑張って苦難を乗り越え、末永く幸せに暮らしました。


 けれど、お馬鹿な豪族はその後天罰受けて没落しましたとさ』


 めでたし、めでたし!


 スズメはそう締めくくり、拍手をするようにパタパタと羽ばたきをする。


「昔話かよ!」

「細かいことを気にしなければこういうことだ。間違ってはおらんだろ?」

「う…まぁ、確かに……」


 スズメは屋根から飛び立つと、クロの頭の上に止まる。


「さて、帰ろう」

「わかった……」


 パタタ!と、スズメの羽ばたきの音の後、屋根の上からクロたちの姿がふぃっと消える。

 去った気配を慕うように、ざーっと風が山から桜の花びらを乗せて吹いてきて、屋根屋根をまだらに染めていった――。


お読みいただき大変ありがとうございますm(__)m

ぜひまた続きを読みに来てください(o_ _)o))

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