かまわないで!
「帰るようだな」
スズメの声に、華子の醜態を思い出していたクロは、はっ!とする。
大樹と立夏がベンチから立ち、駐車場の方へ並んで歩いて行くところだった。
二人はそれぞれ、自分たちが食したあとのゴミを手にしていて、大樹が立夏を気遣い、立夏の分のゴミも持とうとしていたが、立夏は笑顔でそれを断っている。
自分のものは自分で――。
そんな日常習慣が、立夏にはしっかり備わっているようだ。
そしてさりげなく立夏を気遣う大樹の心遣いが、クロは見ていて嬉しいと思う。
「ああ、良いなぁ……」
クロがしみじみという。
「うむ。ああいう、良い人の行いというのを目にするのは、心地が良いな…」
スズメの言葉にクロは頷く。
「力をもらえる気がする……」
「そうだな。良い気を持つ人間の言動は、我らに良い力をくれる…。有り難いものよなぁ…」
因みに悪い気にさらされると、良く無いモノになることも間々ある。
いわゆる悪鬼というモノだ。
出来ることなら悪いものになどなりたくないのは皆同じ。
スズメの言葉に、クロはそっと自分の手を見た。
はっきりそうと認識はできなかったが「気がする」ではなく、ちゃんと良い気をもらえているようだ。
(さすがは大樹!タロの血筋だ!)
と、クロは密かに喜ぶが……。
「良い人の気は、たとえその家の者でなくとも、側にいたり、目にするだけで我らの糧になるのが特に良い」
「そ、そっか……」
今のクロは、元八真名家の座敷童であって、今は違う――。
さりげなく釘を刺されたことに、クロは少ししゅんとする。
クロはまだ療養中。
元の家に戻るにも、他家に気持ちを変えて行くにしても、座敷童だと胸を張れるほどに力は戻っていないし、心の傷も癒えてはいない――。
「まぁ、良い。そろそろ屋敷に帰るか……」
スズメが言うと、クロはちょっと困った顔をした。
「なんだ……」
「なんだってか…。俺、ここに来たいってなったのは、黄魚から、華子がこのままじゃ歩けないって聞いたからなんだよ……。それが気になって……」
「見ただろう、さっき」
「あ、うん……。見たけど、なんか俺が見たかったのと違う気がする」
「そうか?せっかく親が金を出し、ここまで連れてくる手間も時間もかけているのに、肝心の本人が本来の目的を果たさず、ぐだぐだと時を過ごしているのを見たではないか」
あれではいつまでたっても、歩けるようになるわけがない。
スズメの言葉に、クロはむーっと口をゆがませる。
「黄魚が言うのは、あれじゃない気がする…」
「ふむ…。だが、見てどうする?」
「どうって……」
「どうもできんぞ?」
そうスズメに言われたクロだったが……。
「何やってんだ、あれ……」
なんとかスズメを説得し、リハビリセンターに戻ったクロが見たものは、いわゆる修羅場的なもの……。
車椅子に乗った高校生くらいの少年と、それを押す少女。
少女の方は、少年より少し幼い。
中学三年か高校一年か――いわゆるミドルティーン、それくらいの年頃。
(少年の方はハイティーン)
顔立ちがよく似ているので、きっと兄妹だ。
で、その前に立ちふさがる――というか、こちらも車椅子なので立ってはいないが――進路妨害しているのは、華子……。
華子の車椅子を押す人の姿はない。
どうやら真理は何かの用事で離れているようだ。
「あんた、いったい何なのよ!ズルくない?いっつも、いっつも、スパ独占してさ!元有名選手かなんか知らないけど、そーいうの利用するなんて、卑怯よっ!」
甲高い声で華子が相手を糾弾している。
が、エキサイトしている風情の華子に対し、相手の少年はただただ面倒クサそうに華子に視線を向けるのみ。
「……すいません、どいてください」
車椅子を押す少女が穏やかに言う。
大人のように力が有れば、華子を無視して、その横をとっとと通り過ぎることが出来るだろうが、車椅子を普通に押し進めることはできても、妨害してくる相手をスルーして安全に素早く――というのは、まだ子供な少女の力では物理的に無理だ。
華子はそんな相手に、キツイ視線を向け言う。
「どいて欲しければ、なんであんたたちがスパ利用の優先されているのか、白状していきなさいよ!いったいどんな卑怯な手、使ってるの?!」
「卑怯じゃないです。兄の治療の一環の中で、スパが取り入れられてるんです」
「はぁ?そんな治療聞いたことないわよ!」
女の子の説明を、華子は一切受け入れようとしていない。
白状しろと言いながら、相手の言葉を全く聞く気が無いと知れる。
そんな華子の態度に、見るのも嫌そうにしていた少年が口を開く。
「あんたの治療と、俺の治療のプログラムが違うだけだろ。赤の他人に、俺の治療内容を話す理由は一切ない。そこどけよ」
「何言ってんのよ!あんたがいっつもスパ独占するから、あたしの使う順番が全然回って来ないのよ!」
「独占なんかしてねー」
「嘘つき!」
「嘘じゃない。どけ」
きーきーと理不尽に騒ぐ華子と、それに対する冷静な兄妹の図――。
あっけにとられてその様を見るしかできないクロとスズメ、そこに話しかけてくる者がいた。
「スズメ…クロ、困った……」
そう言いながら、クロの足に抱き着いてきたのは黄魚――。
幼女姿の黄魚の背丈は、クロの腿の真ん中くらい。
クロの膝に腕を回し、困り顔でクロを見上げてきた。
それを見下ろし、クロは聞く。
「いったい、何が起こってるんだ?」
「クロんちの子が…うちの、千早に喧嘩、売ってきたの……。美矢も、困ってる……」
クロの頭に止まっていたスズメが、パササっと羽ばたいて黄魚の頭に飛び移る。
「なるほど……。あれは、黄魚の家の子等か…」
スズメの言葉に、黄魚は頷く。
「美矢と千早――。千早の、リハビリ…プール使うの…。体、冷えるから、プールの後、温泉治療するの…。ズルくない…」
水泳選手だった千早だ、リハビリにプールを利用するのは、そうで無い人以上にきっと有効な効果があるだろう。
プールでのリハビリは、水に浮くことで膝や腰に負担がかかりにくく、また水圧で無理なく筋肉に負荷をかけることが出来るので、歩くための筋力作りに向いているのだとか……。
ただ身を濡らすと、たとえ温水プールでも身体が冷える。冷えて血行が悪くなるのは良くない――。
なのでスパ――温泉治療を併用している。
千早は悪くないと訴える黄魚。
「うん、あれ見る限り、黄魚んちの子は悪くないってわかるよなぁ……」
遠い目をするクロ。
いつの間にか、スタッフがやって来て華子をなだめている。
困り顔――というか、迷惑顔なスタッフたちは、華子をうっとうしがっているのが丸わかり。
誰が見たって、悪者は華子――。
「なんか、この前から…あの子、千早にかまってくるの…。美矢も、千早も、困ってる……」
「ああ、ごめん……」
謝るクロ。
そんなクロを見ながら、スズメは黄魚の頭をつついた。
「黄魚…。さては、それでクロをここに来るよう唆したな?」
「……」
プイっと横を向く黄魚。
スズメの言葉は正しいようだ……。
プール治療に関しては、昔々の聞きかじり――。
裏を取った情報ではないので、間に受けないでくださいm(__)m
記憶はかなりおぼろげです。すんません(;^_^A
施設にしてもこんなリハビリ施設あったらいいのになーって、想像で書いてます。
実際にある施設ではありません。悪しからずm(__)m
でも、天然温泉付きのリハビリ施設……あったら、なんか効果ありそうな気がしません?
お読みいただき大変ありがとうございますm(__)m
よろしければぜひまた続きを読みに来てください(o_ _)o))




