見守る
「これクロ、あまり近づくな。気付かれる。あの二人は座敷童を察知できる者たちなのだろう?」
「あ、ごめん。つい……」
スズメに頭をつつかれ、きまり悪げな返事をしたクロの視線先にいるのは――。
大樹と立夏だ。
橋の上のベンチに仲良く並んで座り、楽しそうに話しながらスィーツを食べている二人を、クロは橋の欄干の上に立って見つめていた。
そんなクロの頭の上にスズメが止まっている。
「ああ…ほっとする……」
久しぶりに目にした家の者――。
しかも大樹は自分のことを察知してくれる稀有な人間だ。
スズメにはあまり近づくと気づかれる――と、ちゅんちゅんと注意されまくっているが、思っていたより元気な姿が見れて嬉しくて仕方ない。
「ま、この者たちは大丈夫だろう。さきほど向こうに居た時も賢く立ち回っていた」
スズメの言葉にクロは頷く。
向こう――華子が今いるリハビリセンターのでのことだ。
「うん、賢かった。惚れ惚れしたよ。華子の嫌がらせを二人で協力してしっかり撃退していた」
スズメに言われ、クロはリハビリセンター内での大樹たちを思い起こす……。
大樹たちは華子の嫌がらせにより、せっかくのデートの予定日に、華子の(故意による)忘れ物を届けに行く羽目になっていた……。
忘れ物で大樹を呼び寄せ、センターの女性スタッフをたきつけて大樹にアプローチさせ、あわよくば立夏から大樹略奪させようという華子の画策――。
大樹にとって非常に迷惑な話だ。
(きっと、華子に道具扱いされているスタッフにとっても迷惑)
華子は大樹と立夏の間が正式なものとは教えられていなかったが(ちなみに……最初はわざとではなく、話せばヒステリーを起こしそうだったので先送りにしていたのだが、そのうちにすっかり教えるのを忘れてしまったのだった)、二人が互いに好意を持ち合っているのは知っているのだ。
自分と同じ年頃の女の子である立夏が、自分よりも幸せそうにしているのが腹立たしいが故の邪魔しである。
もしこんな嫌がらせが成功して、大樹と立夏が別れて違う女性と付き合うことになったら、今度はそっちの邪魔をし始めることだろう。
だがそんな華子の嫌がらせを、真理に聞いて先に知っていた大樹たちは、リハビリセンターに行く前から対策を立てていた。
まず大樹だけが華子のところに忘れ物(笑)を持っていき、華子に付き添っている真理に、立夏が来ていることを華子に悟られぬようそっと伝え――。
伝えられた真理は、華子のことを大樹に任せて立夏のところへ……。
立夏がそのとき何をしていたかというと、さっき二人も食べていたさつまいもスティックを、将来の義妹がお世話になっているリハビリセンターのスタッフのために買いに行っていた。
真理は大量にある差し入れを一緒に運ぶ手伝いのため――というのは建前で、(将来の)嫁と姑が仲が良いということを周囲にアピールするためだ。
華子は真理の代わりに大樹に付き添われ、それを見て、そそくさと寄って来る独身女性のスタッフたちに自慢気に大樹を紹介していたが、立夏と共に戻ってきた母親を見た時、目を見開いて固まっていた。
流石に周囲にまったくの第三者――スタッフがいる状況で「なんであんたがいるのよっ!」とはできなかったようだ。
立夏は買ってきた差し入れを大樹に手渡し、それをにっこり笑った大樹が「ありがとう」と言いつつ受けとり、それを差し入れです――とスタッフたちに渡す。
誰が見ても親しい二人の雰囲気に、大樹にわらわらと集っていた女性陣は、即座にその関係を察知していた。
「あ、ありがとうございます。皆でいただきます!」
「わぁ、これ!今人気のヤツですよね?すっごく並んでいませんでしたか?」
「私この前休み時間に買いに行ったけど、三〇人くらい並んでて休み時間内に買えそうになかったから買わずに帰ってきたんですよ。嬉しいっ!」
口々に立夏とその横にいる真理に話しかけるスタッフたちは、そんな会話の中でさらっと……。
「あ、そちらの方は華子さんのご親戚の方ですか?」
と聞く。
大樹と立夏の間に漂う親し気な空気で、これは恋人同士だな…とはわかるが、その程度を確認したいと思うのは、独身お年頃女性のサガだ。
後で仲間同士の話のネタにぜひとも聞きたい――。
「ええ、将来の家族ですわ。この子は寺宮立夏さんって言いまして、大樹の婚約者なんです」
スタッフたちの問いに答えたのは真理。
「可愛いお嫁さんになりそうでしょ?」と付け加える真理は、可愛らしく頭もよい立夏がお気に入りなのだった。
「えーと…私、そんなに長く並んでないですよ?四、五人並んでおられたけど、五分もかからず買えました。ただ、私が買ったせいで売り切れのフレーバーが出ちゃってました……。今からまた作らなきゃって、お店の方言ってましたから、タイミングによっては、どうしても待ち時間が出るんだと思います」
立夏の言葉に「なるほど、売り切れによる調理タイムかぁ」「そういう事もあるのねー」なんてスタッフたちは納得しあっている。
華子に誘い出され、将来性有望な大樹とお近づきになりたい気持ちは確かにあったが、このセンターの優良顧客であり、名家でもある八真名家に嫌われるような対応をするような愚かなスタッフはいなかった。
なにしろ最上級のサービスやシステムを謳うセンターのスタッフなのだ。
お年頃の女性らしく玉の輿に憧れを持ってはいたが、なんだかんだで自分の力もしっかり持っている。
なんなら「玉の輿なんて自分で作っちゃう!」くらいの気概を持っている者だって中にはいたりする。
そんなスタッフの様子を見た立夏が――。
(あら…ここ、結構いい感じよね?私、将来こんなところで働いてみたいかも?)
なんて思ったりもしていた。
因みにそんな和気藹々な会話が繰り広げられる間、華子はすっかりむくれて車椅子を動かし、その場から離れていた。
(むかつくっ!)
華子の心境としてはその一言。
華子的には、せっかく大樹をここまでおびき出し、ここのスタッフたちと縁付け、立夏と別れさせようと目論んだのに、逆に二人の仲を周知させるような展開になってしまったのだった。
そして、そんな拗ねた態度をとる華子のご機嫌を窺う者はいない……。
クロとスズメは、少し離れてそんな人間たちのやり取りをずっと眺めていた。
「ほんと、なんでアレはあんなに馬鹿なんだろうな……」
つぶやくクロ。
「面白いな」
「どこが……」
面白そうに言ったスズメの言葉に、クロは深ーくため息を付いた。
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