気になるけど…
「黄昏てんなー」
クロがマイルームの窓辺にもたれてぼんやりしていると、アオが来てそう言った。
「ふーん……山なんだ。しかも頂上じゃないってのが、クロらしいかな?」
「六合目あたりだ。このお山だとこの辺が、山菜とか薬草がたくさん採れて良いんだぞ」
場所にもよるけど、このお山はそうなんだ――と解説するクロに、アオはほーっと感心した声を出す。
「なんだかんだで人目線だよね、クロは……」
「人目線?」
「そう、人の価値観っての、オレより持ってるなーって思う」
人由来じゃないのになぁ…と、アオが不思議そうな顔をする。
「座敷童のクセに、人の世に染まりすぎてるってことじゃね?」
「クセに…って、悪いことだとは言ってないぞ。むしろ良いことだって思ってるんだけど?」
「どうだかねー」
「拗ねてるねー」
「拗ねてない!」
「じゃあ、ふてくされてる?」
「それも違う!」
「じゃあ何?」
「知らんよ。何にもない……」
不機嫌そうに言って、窓枠に腕を置いて顔を伏せる。
アオはその横で、窓を背にしてもたれて座る。
「黄魚に言われたことが、気になって仕方ないんだろ?」
「……」
黄魚はみたらし団子を三本食べ、言いたいことを言うだけ言った後。
「そわそわ、するからもう帰る!」
と、とっとと帰って行った。
「あんなにそわそわ不安になるなら、わざわざ無理して来ることないのに!」
「教えた方がいいと思ったからだろ?」
黄魚の言うおせっかいとは、クロのついていた家ーー八真名家の末娘、華子の今をクロに教えることだった。
「気にはなってた…。タロの子孫…俺の大事な家だから……。でも、さ…」
頭を抱えてクロはうめく。
「ははっ!うちの家の姉娘も、大概なことやらかしたけど、クロんちも凄いよなぁ」
アオが指折り数えるようにして追い打ちをかける。
「なんだっけ…えーっと。ちっとも真面目にリハビリしなくて、一メートルも進まないうちに、シンドイ辛いって座り込む。
付き添いの家族や療法士の言うことちっとも聞かない。
無理にやらそうとすると、死んだ方がよかった!なんで死なせなかったんだ!って怒鳴る……。
あげく、他の患者も通行している廊下で、ヒステリーおこして車いすを無茶苦茶操作して、他所の人にぶつかって怪我させて、自分もこけて怪我――。
当然、そのリハビリセンターは出禁……となるはずだけど、家が高名な医薬関係者であったため、今もお情けで治療継続中っと……」
「……みっともないし、情けない……」
打ちひしがれるクロに、聞いてる限りかなりアレな娘だねぇ……とアオは呑気に言う。
「座敷童がついてる家の人間なんだから、リハビリなんかしなくたってそのうち歩けるようになる……とも言ってたとかって…どんだけお馬鹿?」
「ありえない!愚かすぎて、どうしていいかわからん!」
嘆くクロに、アオは首を傾げる。
「なんだか、座敷童のことを盛大に勘違いしているみたいだけど、どうしてそんなことに?」
「わからん……」
「確かにオレら自分ちの人間が大好きで、時々手出し過ぎることってあるけど、努力しない人間に手貸すことってまずないよな?」
「そうだな…」
「だいたい!頑張って生きない人間なんてそもそも嫌いだもんな!」
オレ、生きたかったのに、産まれすらできなかったんだぞ――と、アオは頬を膨らます。
「おっさんの姿で、そーいう顔すんな。見た目暴力だ」
「しっけいな!」
ふざけた素振りで怒る振りをするアオ。
クロはため息をつきつつ言う。
「華子は、自分は座敷童の居る家の人間だから、物事は自分の都合の良いように進むと思っている風情が昔からあった……」
「でも、努力が足りなくて、高校の受験とかダメだったんだよね?」
「そうだ。でも、まだわかっていないということなんだろうな……」
やっぱりあの時、助けたのが間違いだったのか……と、クロはさらに凹んでいく。
色々気に入らないことは多々あるが、それでも華子は大好きなタロの血を引く大切な子供――。
あんなことで死なせたくなくて、無理やり力を振るって助けたけれど、当の本人は命が助かったとはいえリハビリが必要な怪我を負い、その治療の過程で周囲に迷惑をかけ、他所の人に怪我までさせるなんて……。
「命を助けたこと、恨まれていそうだ……」
「いや、でもまー、その華子さんのおかげで、黄魚んとこの上の子が、真面目にリハビろーってなったって話だから、その愚かさも無駄ではないよね。オレ的にはものすごくありがたいと思う」
「そんな感謝受けるなんて、情けなさすぎる!」
余計に凹むクロ。
黄魚曰く。
船山家(黄魚がついた家)の長男千早がリハビリセンターに通うほどに回復し、そのリハビリの手伝いに行く美矢に好奇心からついて行って、そこで華子を見つけたらしい。
千早はそれこそ、座敷童たちにとっては因縁の存在だ。
水泳界のホープとされていた千早が泳ぐどころか歩けなくなったのは、アオの家の子の所業のせい。
しかもその所業を座敷童であるアオが隠ぺい工作(この隠ぺい行為のせいで、アオは出戻りした)したため、犯人不詳となっている……。
そしてなぜか、アオの告白を聞く過程で船山家が気になった黄魚が、千早の妹の美矢に惹かれ、気がつけば船山家付の座敷童になったという――。
不幸なのか、幸運なのか……。
謎である。
「オレ、その千早君って子に、歩けるようになって欲しいって、ものすごく思ってるんだ。てか、願ってる……。自分ちの子可愛さに、その罪隠ぺいした身で何言ってんだ!って話かもしれないけどさ……」
「それはだって、アオはその子が怪我をすることを望んでたわけじゃないんだから、当然だろう?あと、アオんちの子の所業については、アオが代わりに罰を受けたんだからさ」
「そのことを、被害者の千早君は知らないからね……」
困った顔でアオは肩をすくめる。
自分が受けた罰は、千早への罪滅ぼしにはならないとわかっている。
「千早君も最初はリハビリが辛くて、美矢ちゃんに愚痴言ったり、歩ける奴は良いよな!的な辛く当たる態度とったりしてたのが、華子さんの悪行……というか、みっともなさを目にして改善したって。彼女と同じことをしたら自分もそう見られる……って悟って……」
「千早君は、真面目にリハビリに取り組むようになった……っと。反面教師ってヤツだよっ!たははは……」
情けない!と、クロは顔を両手で覆う。
因みに千早の回復は、医者がびっくりするほど早かった。
というか、けがをした最初の頃は、恐らく歩けなくなるだろう――と言われていたのだ。
が、頑張ってリハビリすれば、杖を使って自力歩行できるんじゃないか?という診断に、しばらくしたころ変化した。
それは黄魚が船山の家に入った故の効果だ。
人間たちは気づきようもないことだけど……。
「黄魚は、なんでクロにこんなこと教えに来たんだろうね?」
「ん?」
「おせっかい……って、言ってたよね」
「ああ……」
「ここにわざわざ来ることで、外に出ることを身をもって教えに来たんだろーね」
「……」
「ま、出たくないだけで、出れないわけじゃ無いってのは、クロも知ってはいただろうけど。ああやって、ちょっとおっせっかいーって程度でも出てこれるって、なんか目からうろこ感あるよね?」
「……」
本当は、アオに指摘されなくてもわかっていた。
クロは自分がいた八真名家を常に気にしている。
華子のことだって、命が助かっただけじゃダメなことだってわかっていた。
でも今八真名の家に戻っても、見に行っても、力を失った今のクロには大したことが何も出来ない。
力を取り戻しても、八真名の家に戻るかどうかすら決めてはいない――。
「できなくても、良いと思う」
「なんの手助けもできないのに、何のために行くんだよ?」
「華子さんのリハビリ見るため」
「見てどーすんだよ。見てるだけじゃ意味ないだろーが」
だいたい、たとえ十全な力を取り戻したところで、人の身体を治癒させるような力は座敷童には元々ない。
せいぜいリハビリを効率よく受けられるような環境になる程度だろう。
なる程度――ならない家からすれば、十分贅沢な話だが……。
「うん。だいたい、リハビリセンターって、家の外にあるんだから、元々力が使える場所じゃないよ」
アオが言う。
最初っから、座敷童の力を頼れる場所では無いのだ。
要するに、華子自身が頑張らないとどうしようもない。
「でも、見るしかできなくても、見たくて行くなら意味あると思う」
「は?」
アオに言われたことに、クロはきょとんとする。
「見るだけって、ある意味凄いよ?」
「……」
アオがなぜ出戻ってきたのかを思い出す。
人外の存在である座敷童が、人の理を乱すことをしてはいけない。
座敷童の居る家に幸運がついてくるのは、座敷童がそういうものだからだ。
いわば霊験あらたかなお守りみたいなもの。
「気になって、見たいんだから見に行って、何にもしないで戻ってきたらいい――。てか、しちゃいけないんだからさ」
気楽そうにアオが言う。
「……ただ見るだけしか出来ないのに、見に行く意味なんてあるか?」
「クロが見たいならあるよ。見に行きたいんだろ?華子さんのリハビリ風景」
「見たい。気になる」
「だったら、見に行くことはクロにとって意味があることだよね」
へらりとアオが笑ってそう言った。
座敷童たちはただその家に居るだけで、幸運を呼びます。
たまーに力を使うこともありますが、自分ちの中だけなら多少は目こぼしされる模様。
(八真名家に居た時、クロは華子を護る為にアルコールを消してます)
お読みいただき大変ありがとうございますm(__)m
よろしければぜひまた続きを読みに来てください(o_ _)o))




