気楽とは?
河原に立つと、さらさらとした川の音がよく聞こえる。
風が髪を軽くなびかせるが心地いい。
きっと風の精霊が近くにいるのだろう――。
そんなことを考えながら、クロは足元にあった石ころを一つ拾うと、川面に向かって投げた。
石は水面を一回スキップして水に沈む――。
「ちっ!」
お行儀悪く舌打ちしたクロは息を吐くと、「あーあ…」というように下を向いて、その場にしゃがみこんだ。
「気楽って…なんなんだ?」
「あんまし悲観せずに気負わずにってことだろ?」
クロのすぐ後ろには風の精霊――ではなくアオが居た。
干芋が詰まった紙袋を抱え、カジカジと干芋を齧りながら言うアオに振り向き、クロはぶすっくれた顔をする。
いい年したおっさんが、河原で胡坐をかいて干芋を齧っているなんて、結構滑稽なあり様なのだが、それを見て笑える気分では無い。
「悲観なんてしてない」
「そっか?てか、不調だねぇ…一回しかスキップしないなんてさー。いつもなら三回は跳ねて向こう岸に届くよな?」
「るせー」
クロは言い返しながら立ち上がり、アオの側まで行って紙袋に手を突っ込む。
リンゴが四~五個くらい入りそうな大きさの紙袋いっぱいに、干芋がぎっしり詰められていた。
「作りすぎたって言ってたの、マジだったんだな……」
なんでもそつなくこなす白波の珍しいミスで、ちょっと感動さえ覚えてしまう。
「気兼ねなく食べれて、オレは非常に嬉しい」
そういうアオの顔を見て、クロはおやっと思う。
「アオ、もしかしていっときのことと比べると、かなり力戻ってる?」
顔の肌の張りと照りに、若さが戻ってきている気がした。
「ほっほー!わかるか?」
にんまりとアオが笑う。
「この調子なら、今の家の子らの息のあるうちに、また人界に戻れるんじゃないかと思うんだよねー」
「帰る気満々だな、アオは……」
「当たり前だろーが!オレ、そのためにここに居るんだ。帰る気なかったら、たぶん消えてなくなってるぞ」
「……」
黙ったクロに、アオは淡々と言う。
「オレや紅は、紫鏡や銀河みたいに本体って言われるもの無いだろ?それにクロや黄魚、緑花みたいに前身とされるものもない……。人だったから、人の輪廻の輪に戻るのが筋道だったんだと思う。だから、きっと座敷童じゃなくなったら、その本来の筋道に戻ると思うんだ」
輪廻の輪に入ったらこのオレは消えるだろ?と、アオはへらりと笑う。
「思う?」
「そ、実際のところは、どーなるかわからん。スズメに聞いたことあるけど、知るようなことじゃないって教えてもらえんかった。てか、オレは紅と違って、産まれることすら無かったしなー」
アオの前身は水子だそうだ。
「今までそうじゃなくなった、人由来の童って…いなかったのか?」
「居たけどさぁ……。その後、ここに戻って来てないから、話しを聞きようもないだろう?」
「それもそうか……」
「ま、そんなこと言ってたって、先はどうなるかわからんけどな。紫鏡だって、付喪神に戻る気で座敷童になったわけじゃ無かったはずだぞ」
「それは…うん……」
「だから、あんまし悩まないでさー、もうちょっと気楽に行こうや!ってことだろ?」
「その気楽ってのが、俺にはわからんの!アオが気楽にやってんなー、ってのはよくわかるんだけどな!」
「失礼なっ!」
これでも色々真面目に考えているんだと、アオは笑う。
「つーか……スズメが言うほど、俺、気難しい感じなのか?」
「紫鏡のこと言ってた時は、思いつめ過ぎじゃね?とは思ったぞ」
「や、だって…頑張ったら、報われて欲しい!てのは当たり前じゃないか?」
「思うのは勝手だけど、無理なこともあるよな?……てか、このネタ堂々巡りになりそうだからやめよう!」
「わかった……。てか、すまん……」
クロはアオの横で足を投げ出して座る。
「やっぱ、こだわっちまってるのかー、俺。スズメに気楽にしろって言われるのも仕方ないか……」
そんなクロを横目で見て、アオが指摘する。
「紫鏡の望んだ夢の家が、クロの家に似てたからじゃないのか?」
アオの指摘にクロは目を見開く。
「は?どこが似てた?」
家族構成も、家業も、持ってる気配も何もかも違っていたはずだ。
クロのついていた八真名家は祖母、親夫婦、子供二人兄妹という構成で、家業は製薬会社。
紫鏡がつきたかった、玲が夢見た玉石家は玲夫婦、息子夫婦、子供(片方は義理)兄妹、外に娘夫婦とその子供が一人という構成。家業は石材や鉱石系の商社だった。
二世代目と三世代目が部分的に一緒と言えば一緒と言えるが、共通点と言うには弱い。
「全然、似てないだろ」
「デカイ屋敷に三世帯一緒に住んでる。あと、紫鏡の夢の方は違ったけど、実の方は末の娘が反抗的だっただろ?そこんとこ一緒じゃないか」
「それはこじつけだろ……」
クロはあきれ顔をアオに向けるが、
「もう一個ある」
アオが自信ありげな顔をクロに向けて、指を一本立てる。
「これが一番似てる点――。幸せな家になって欲しいと、座敷童がその身を削って願ってた」
反論できなくて、クロは黙るが……。
「その条件だとー、アオもー入るよー?」
座ってるアオの後ろからにゅっと手を出し、紙袋から干芋を取り出しながらそう言ったのは紅。
「アオだってー、むっちゃくちゃ身を削ったよねー。だからー、出戻ってきたんだもんねー」
「そだよなぁ……」
「紅ぃ、いつの間に来てたんだよ。オレの推理の邪魔すんなよー」
「推理って……」
むくれるアオを、紅はふふふんと鼻で笑う。
「紫鏡のことわー、理不尽だーっ!て、座敷童ならみーんな思っちゃうーって、ことだと思うー!」
「あ、それが正解だな!」
クロはそう言って立ち上がると、川面に向かって石を投げた。
石は二回水面をスキップして水に沈む。
「二回か……。中途半端だな」
「るせー!」
全快ではないが、さっきより良くなった――。
クロ的には、それで今は良いんじゃないとそう思った。
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