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報われて欲しかった

なんか悩んでしまったクロ君です。

「あ……」


 囲炉裏部屋の戸を開けて、ちょっとクロは怯んだ。


 そろそろおやつの時間かと思ったが、少し早かったようで白波がいない。

 代わりに緑花以外の座敷童たちが囲炉裏端に集合していた。

 恐らく皆、紫鏡の去就に思うことがあったのだろうとクロは思う。

 特別沈んでいるというわけではないが、いつもならあるおやつ前の浮き立つ気配がなかった。


(なんか、気まずいなぁ……)


 とはいえ、回れ右!するのも何か違う……。

 そんな風に思いながら、囲炉裏端に近寄る。


「まさか座敷童やめるとは、思わなかった……」


 気がつけば、そうぽろりと言葉をこぼしていた。

 囲炉裏の火を見つめていた銀河が顔を上げる。


「…紫鏡が決めたことだ、仕方あるまい」

「そうなんだけど……。俺がここに来る前から紫鏡って、ずっとあの状態だったんだろ?あんなに力が枯渇するまで百年以上あの屋敷を護ってたのに、それが無駄になって、挙句の果てに座敷童もやめちゃうって、なんだかさ……」

「理不尽か?」


 クロが言おうとした言葉を、銀河が先取りして言う。


「……うん……」


 クロはしょんぼりした声で言う。

 仕方がないのはわかっている、でも割り切れない。


「紫鏡が必死で護っていたのに、なんで人間たちはあの家壊したんだよっ!て、思っちゃってさ……」

「危険があるからだと言ってたろう?それに紫鏡が座敷童としてあの屋敷を護っていたなんて、ワシらも気付かんかったんだ。人間が知りようも無かったろうよ」

「そうなんだけど……」

「しっかしまぁ…。いつまでたっても目覚めねぇなぁ。おかしいなぁ?とは思ってたけど、まさか力を使い続けているなんてなぁ……」

「思いもしなかったよねー。よーっぽどー、思い入れがー深かったのねー」

「……綺麗な、家族だったよ……」


 紫鏡と一緒に見た、玲の中にあった家族の様子を思い浮かべる。

 あの家族の中に入って、座敷童として過ごしたかったという紫鏡の気持ちが、同じ座敷童として、クロには痛いほどわかった。

 あの家を護り続けていたのは、()()()()の実現を望む思いの、寄る辺としていたからだろう。

 

「でもさぁ、あの家の人間は、自分の血筋に座敷童がついているなんて、知る機会はなかったんだもんなぁ……」


 人間側を責めることはできないとアオが言う。 


「だよねー、紫鏡はずーっと付喪神だったでしょー?んでー、座敷童になったのはー、孤独死したおばーさんのー、死に間際ー……。自分ちに座敷童がついてるなんて、だーれも知りようがないわよねー?」

「だよなぁ」


 アオと紅が顔を見合わせそう言う。


「わかってるよ!俺の方が理不尽なこと言ってるって!」


 クロはむくれるしかない。


「今度はせめてー、付喪神がいる!ってー、誰かが気がつけばいいのにねー?」

「どうかねぇ?」

「付喪神かぁ……」


 紫鏡は玉石の家の家宝として大事にされてはいたが、玉石の人間たちはそこに()()()()()()が宿っていることに誰も気がついていなかった。

 山師の鏡と呼んで、賭け事の助けに使う機会はあったようなので、人外の存在を察知する力が皆無な血筋というわけではないだろう。 

 が、紫鏡を『鏡』という()としてしか認識できない限り、その中にある存在を察知することはなかなかに難しい。


「付喪神からまた座敷童になる可能性って、あるのかな……」

「どうだろ?」


 冷めた見方をすれば、紫鏡が勝手にあの一族に期待を寄せて座敷童となり、勝手に諦めてまた付喪神に戻った……。

 それだけのこと――。

 ならば、紫鏡が思いを寄せられる家族が現れたなら、また座敷童となることも無きにしはあらず……。


「可能性は(ゼロ)ではないから、乞うご期待ってとこだな……」

「何十年もかかっちゃうかも?」

「何百年かもー?」

「……それは、紫鏡の本体が持たないんでは?」


 銅鏡の日持ち(年持ち?)ってどれくらいだろう?と、くだらないことを言いかけた時、部屋の戸が開く。


「おや、皆さん早いですね?」


 お盆を持って、白波が入って来た。


「声が聞こえておった。紫鏡のことが皆心配なのだそうだ」


 白波の肩に、スズメが止まっている。


「だってさ……」

「白波ー、今日のおやつ何?」


 ぐずったことを言いかけたクロを遮って、アオが大きな声で白波に問いかける。


「おい、アオー!俺、話してんのに!」

「ここで何言ったって、変わンない。紫鏡は付喪神になったの!割り切ろうぜ!」

「それはわかってる!わかってるけどな……」


 なんか、言い(ぼやき)たいんだよ……そう小さくクロはつぶやく。


「まあまあ……。とりあえず、おやつにしましょう。干芋の蒸しパンと胡桃入りの黒糖蒸しパンです。美味しいですよ」


 白波はいつもと同じで、ゆったり笑みを浮かべて、其々の皿に四角く切り分けた二種の蒸しパンを乗せて渡してくれる。


「抹茶とー小豆ー、ないのー?」


 渡された皿を受け取りながら、紅がそう聞く。


「あんまり沢山作りすぎるのもどうかと思ったんで、今日はこの二種です。今度作るときに、違うのも作りましょう」

「うん、お願ーい。あたし抹茶の蒸しパン大好きなのー!もちろーん、これも美味しく食べるけどねーっ!」


 そう言って、紅は干芋の蒸しパンをパクっと齧る。


「うっまーい!あれ?この干芋、なんかしてる?」


 蒸しパンの中の干し芋を、しげしげながめた紅がそう聞くと、白波が頷く。


「サイコロに切って、軽くバターで炒めてから生地に混ぜ込んでみました」

「へー!なんか贅沢ー。干芋のくせにー、なーま意気ー」

「あと、今日は特別にこれも……」


 そう言って、白波が菓子鉢を囲炉裏の傍に置く。


「干芋です。軽く囲炉裏の火で炙って食べると絶品ですよ」


 ちょっと作りすぎてしまったんですよね……と、白波が眉を下げる。


「おお、いいなそれは……」


 銀河がニッと笑うと、囲炉裏に金網を置いてそこに干芋を乗せる。


「ガシガシ齧るのも美味いぞー。噛んでると、すっげえうまみ出てくるんだ」


 そう言いながら、菓子鉢からつまみあげた干芋を、炙らずに齧るのはアオ。


「アオー、蒸しパン食ってからの方が良くないか?」


 クロがそう言うが、アオは器用に干芋を齧りながら蒸しパンも口にしている。


「行儀悪ーい!」


 紅がそう言って窘めるが、アオは我関せずの風情で、ちょこちょこお茶を飲みながら呑気に口を動かしている。


「両手に花ならぬ、両手にお菓子!サイコーだろ?」

「知らんわ……」


 クロはおちゃらけるアオに呆れた目を向ける。


「お菓子ならさ、こうやって両方選べたりするけど、選べないこともあるよな……」

「……」


 アオの言うのが、紫鏡のことだとクロは気がつく。


「どっちが良いか、どっちが悪いか……わかんないけど、選ばなきゃいけなくて選んだんなら、選んだ方が当たりだって認めてやんなくちゃ。な?」

「……そだな……。でもさ、なんか……悔しかったんだ……」


 紫鏡はあの美しい家族――家を見たさに、全ての力を使って、あの屋敷(建物)を護っていたのに結局報われなくて……。


 勝手にやったこと――。

 力を向ける対象が間違っていた――。

 そう、言ってしまえばそれまでだけど……。


「幸せそうにしていたぞ」


 胡桃入り黒糖蒸しパンをつつきながらスズメが言った。


「あ、様子見に行ってきたんだー」

「あの引き取りに来た男が、一生懸命磨いておったわ」

「ピカピカ?」

「ああ、引き取ってから毎日磨いておるそうだ。付喪神としての力なら以前より強くなっておったぞ」

 

 スズメの報告に、座敷童たちの中にホッとした気配が漂う。

 が……。


「でも、俺。報われて欲しかったんだよな……」

「ん?」

「大事にされて、今幸せなのは良いことだって、ちゃんとわかってる。でも……」


 困った顔でクロは言う。 


「俺、報われて欲しかったんだ。頑張ったんだから、頑張っただけ報われて欲しい……」


 そう言うクロの言葉を聞いて、スズメはため息をついた。


「……クロよ。そなた、もうちょっと気楽にならねば、たとえ力を取り戻しても、まだ人の世に戻ってはいかん気がするぞ?」


 ぱたたと羽ばたきスズメはクロの頭に止まると、つんつんと頭をつついた。


蒸しパンの基本レシピ(15センチ角型)


 薄力粉:200g  ベーキングパウダー:10g

 卵:2個  砂糖:100g 牛乳:160ml サラダ油:50g


1)ボウルに卵と砂糖を入れてもったりするまで泡立て器で混ぜる。

2)牛乳・サラダ油を入れる。

3)薄力粉・ベーキングパウダーをふるって混ぜる。

4)油を塗った型に流してトントンと空気を抜いてから、中火で20分ほど蒸す。

  串をさして、串についてこなければ出来上がり。


※白砂糖の7割くらいを黒砂糖にしたら黒糖蒸しパンに、サラダ油をごま油にしたらマーラーカオ風になります。

※中に何か入れるときは、3)の工程のあとに混ぜ込みます。

 サイコロに切った干芋、レーズン、胡桃、甘納豆、甘煮のリンゴ、チーズ等々。

 大概のものがあうのでバリエーション無限大です。

 

 あと、蒸しパンはパンでも洋菓子でもなく分類は和菓子になるそうです。なんかちょっと不思議……。   


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