祟り
ワンコリレーで玉石家に戻ってきた紫鏡を最初に見つけたのは紫だ。
前回のことがあった為、もしかしたら……?と、いつもより気にかけていたのが功を奏したのだった。
「ほ、本当に帰ってきた!」
門の内側にさらしの包みが落ちていて、その中に紫鏡が包まれているのを見つけたときはさすがに一瞬目を疑ったが、すぐに通が言っていた通りに宝物のところを目指してきたんだと納得した。
紫鏡がここにあるということは、何らかの理由で通が手放したと言うことになるが、紫はそれを責める気はない。
〝探宝の鏡は宝物のところに行く――″
通はそう紫に言った。
だから紫鏡はここに……紫のところに、戻ってきた。
(通兄さんの宝物は私……)
通が紫鏡を家から持ち出すのは、紫が宝物だってことを紫に教えてくれるためにしているのだと、そう思い込んでしまった。
そしてこのことは玲には知らせない。
紫鏡の持ち出しがバレないよう、すぐに自室へと隠してしまう。
玉石家の家宝である紫鏡を、通に貸していると知られれば絶対に叱責されるとわかっていた。
貸した紫だけでなく、借りだした通もその対象にされるのは目に見えている。
「意地悪だもん、おばあ様は……」
血がつながっていないからと言って、母や兄にきつく当たる祖母のことが紫は大嫌いだった。
紫に対しては、二人に対に対して程きつくはないが、それでもうるさく感じるほどには言ってくる。
今暮らしている家は祖母の物で、自分はそこで養われている――ということは、幼いながらもなんとなくわかっているので、あまり相手にわかるほどには反抗しないが、バレない範囲でなら積極的に逆らう気持ちを強く持っていた。
なので……。
数日後帰宅してきた通から、また紫鏡を貸すよう頼まれたら、何の疑問もなく渡してしまう。
(ちゃんと、帰って来るもんね!)
そんな風に思っていた。
すでに二回、通に持ち出された紫鏡はいつの間にかここに帰ってきた。
そして紫鏡が帰ってきたら、それを追って兄の通も帰ってくる……。
今度も数日したら帰ってくる、紫鏡そして通も――。
の、はずだった……。
三日後、確かに紫鏡は帰ってきた……警察の手に寄って……。
でも通は、帰って来るには帰ってきたけれど――。
「え……死、え?え……?」
その日、玉石家を前触れもなく数人の警官が訪れた。
紫鏡はその警官が運んできた。
通が死亡したという、凶報と共に――。
「これは当家の家宝、紫鏡で間違いありません。それで、いったいなにがあったというのでしょう?」
嫡男夫婦の事故死に続く、玉石家長男(玲と血の繋がりは無いとはいえ)の死――。
一瞬、瞠目するものの、冷静に警官に問い返した玲は、相手の警官たちからすれば立派と呼べる態度だった。
そうして対応した玲に告げられ、その後紫にも伝えられたのは――。
通が出入りしていた賭場に、違法品の取引疑惑が掛かったため、一斉捜査がはいったこと。
その際居合わせた客たちは身体検査を受け、所持品の全てを警察が念のために一時預かることになったこと。
客たちも取り調べのため止め置かれ、そこで隔離されたこと。
その隔離先は、賭場が屋形船であった為、出動させていた警察の船の一隻であったこと。
所持品の預かり場とした船は、客たちを隔離した船とは別であったこと――。
「違法品の取引を行っていた犯人の確保が済めば、関係ないと判明した人間の所持品は、のちにちゃんとお返しする予定でした。そのように、ご子息にも取り調べの者がお伝えしていたはずなのですが……」
通は何を思ったのか、隔離された船を抜け出し、紫鏡が預けられた別の船へと乗り移ろうとし――水に落ちたのだ……。
「同じ船に乗っていた他の客が、音に気がついてすぐに報せては来たのですが、何分夜半のことで……」
発見に時間がかかり、警察の手により水から引き揚げられた時には、もう息をしていなかったと――。
「まさかご子息が命がけで、無理やりにこんなものを取り返そうとするとは……。誰も、思いませんでした」
申し訳なさそうに警官はそう告げるが、捜査に違法性はなく、通の死は本人の過失による事故とされる旨が告げられた。
「なんと、恥知らずなっ!」
警察が帰った後、玲はそう吐き捨てた。
「勝手に家宝を持ち出し、賭場など行って!罰が当たったのです!」
怒り狂う玲を、涙を流しながら紫は見ていた。
紫のただ一人の兄――通が死んだというのに、泣きもせず、一欠けらの悲しみも見せず、ただ文句を言って怒っている玲の姿は、紫にはありえなかった。
「嘘つき……」
そうつぶやく。
「……え、紫?」
「護ってくれるって――それ、持ってたら…護ってくれるって、言ったじゃない!」
警官から返された紫鏡を、大事に抱え込むように持っていた玲の、その手の中に有るものを紫は示す。
「嘘つき!通お兄ちゃん、返してよっ!」
「紫……警察の人が言っていたでしょ、通は……」
「嘘つきっ!」
玲の言葉を一切受け付けず、ただ嘘つきと叫ぶ紫に玲は宥める様に言う。
「嘘ではありません。この紫鏡は玉石の家の者を護るのです。護られなかった通は、この家の者ではなかったということでしょう……。賭場などという、ふしだらな場所に持ち出した罰が当たったのですよ……」
「違う……。違うもんっ!」
握りこぶしを作って腰だめにし、紫は叫ぶようにして玲の言葉を遮る。
「罰って、悪いことした人にあたるんだもん!通お兄ちゃんは何も悪いことしてない!実験してただけだもんっ!罰なんか当たんないっ!」
「実験?」
「紫のところに帰る実験よ!紫は通お兄ちゃんの宝物だから!」
「……」
紫の言葉の意味が解らず、玲は困惑する。
玲は紫鏡が山師の鏡とも呼ばれていて、賭け事の際に男どもがお守りとして持っていくことが、以前あったと知っていた。
だから、通が賭場に持って行ったことに疑問は無かったのだが、帰る実験というのは皆目わからない。
「紫、あなたはいったい何を……」
「…そっか……祟りだ……」
ふいにハッと気がついたように、紫が言った。
「田中のおじさんに聞いたことある、古いものって、祟ることあるって……。だから、古いものを触るときは、気をつけなくちゃいけないんだって……」
「違います!紫鏡は玉石家の……」
「いやあっ!通お兄ちゃん、返してっ!祟らないでよっ!」
「紫っ!」
「その鏡が…紫鏡がっ!お兄ちゃんを祟ったんだーっ!!」
絶叫した紫は、玲を振り切って家の外へと駆け出て行く――。
「なぁ、紫鏡……」
井戸を見ていたクロが紫鏡に言う。
「これ、普通に事故だろ?」
井戸は通が水に落ちる場面を見せていた。
だからわかる。
「紫鏡は警察を呼び込むように力使ってたけど、あの通ってヤツには何もしてなかったよな?」
(あの娘は、祟りと言った……。だから、祟りだ……)
「いや、違うって……」
頑なな紫鏡の主張に困惑するクロだった。
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