一応『神』という名がついている
「紫鏡……言いたくないけど、なんでこんな家についてたんだ?」
井戸の景色を見ながらクロは紫鏡に問う。
紫は通に言いくるめられ、結局紫鏡が庭に落ちていた件をうやむやに誤魔化されていた。
そして、ロクデナシ――通は、首尾よくまたも紫鏡を紫から取り上げて、玲が帰宅する前にそそくさと賭場へ……。
「まぁ、あんな幼い子じゃあ、騙されるのも仕方ないのかもしれないけどさぁ……。紫鏡を大事にしてないって、ばあ様に叱られたって言ってたよな?」
まさか兄が賭場に行ったなんて思いもしないのだろうが、叱られたくせに、また貸すのはダメだろ――と思う。
まるでダメな男に絆され騙されてしまう、お馬鹿な女の見本のようだ。
「あのばあ様が若干きつめなのも、わかる気がするなぁ……」
孫二人がロクデナシと考え足らずな幼子では、家長としては頭が痛いだろう。
通は出かける前にちゃっかり風呂に入って身だしなみを整え、家にある値打ちのありそうな物をコソコソ物色して風呂敷に包んでいた。
売って賭けの軍資金にする算段なのがモロわかりだ。
紫鏡によると、持ち出した物品は亡くなった紫と通の両親のもので、屋敷からなくなったところで、亡くなった二人と打ち解けていなかった玲には気付かれにくいものだという。
「せこいよなぁ……。てか紫鏡、あれって咎めなかったのか?」
座敷童であれば、さりげなく玲や紫に報せる方法もあったはず。
(別に……)
「なんでだ?ああいうのって、気にいらなくないか?」
自分ならめっちゃムカつくから、きっと家鳴りくらいは起こすぞ――と、クロは思う。
『家』を大事に思う座敷童にとって、亡くなった両親の形見を賭け事のために持ち出すなんて、許せないことだ。
(座敷童じゃない)
「え……?あ、あー。そうか、そうだったな……」
紫鏡の返答で、クロはこの時の紫鏡がまだ付喪神だったと思い出す。
付喪神とは、物が人と長く接している内に意識が芽生え、いつしか思考と力を持ったもの――。
家というものに執着がある座敷童とは違うものだ。
親の形見がどうとかなんて、気になるはずもない……。
(そう…どうでも良かった……。なのに…なぜ……)
「なにが?」
紫鏡の呟きにクロは聞き返すが返事はなかった。
因みに……。
通は門を出る際、紫鏡が落ちていたという場所を確認し、そこに茶色い馬の毛が落ちているのを見つけた。
「そうか、あの時の馬車か……!」
紫鏡を落としたとき、目の前を横切った馬車。
あれが行き過ぎた後に、必死であの場を探しまわったが見つけられなかった。
「なんてこった!見つからなかったのは、あの馬車にくっついて行ってたってことか……。ははっ、なるほどな……」
足がないただの銅鏡が、いったいどうやって家に戻ったのか……それが気味悪かったが、たまたま通りかかった馬車に引っ掛かった結果と思えば納得がいった。
今度は落とさぬようしっかりとさらしで腹に巻き付け、着物の上からポンと叩く。
気味悪ささえ払拭できれば、通にとって紫鏡は勝ちを約束してくれる心強いお守りだ。
「また頼むぜ、山師の鏡さんよ!」
そしてまたもや賭場で連勝し、ちやほやされる通。
が……。
「無いっ!」
三日後、風呂に入っている間に紫鏡は無くなった――。
盗まれた!と探し回るが見つからず、結局そのまま懲りずにまた賭場に入って負け越して……。
「なんでだよ……」
素寒貧になって玉石家に帰ると……。
紫鏡はまたも、家に戻っていた――。
愕然とする通を、井戸を通して見ていたクロはため息をつく。
「……紫鏡、あんなワンコリレーさせるくらいなら、最初っから持ち出されない方向でなんか対策した方が良かったんじゃないのか?」
(……)
最初、通の元から紫鏡を盗み出したのは、酒場で通をちやほやしていた女の弟だった。
酔った通が、自分が大勝できるのは紫鏡のおかげだと言っていると女が弟に話し、その話を真に受けたその弟がやらかしたのだ。
女は酔った男の戯言と思って、世間話のように弟に話したのだが、賭け事に嵌る人間にとって、ゲン担ぎや縁起物というのは大事なこと。
常識では考えられない連勝を続ける人間が、霊験あらたかだと言ってるお守りなんだと、心の弱い人間が聞けば、盗んででも手に入れたいと思ってしまうのも不思議ではない。
「それにしたってさぁ…。盗んだはイイもんの、賭場に入る直前に野良犬に吠え付かれて落として、その犬に奪われて……。あわてて追っかけたものの追い付けなくて、その犬も咥えて走っているうちに疲れて落として、そしたら今度は別の野良が来て……」
野良犬数匹によるワンコリレーだ。
ゴールは玉石家の庭。
最後の野良が、さらしで巻かれた紫鏡を門の中に転がしていた。
そうやって、紫鏡はまんまと玉石家へと無事帰宅。
「こんな面倒なことしてでも家に帰りたいなら、最初っから出ないですむ方法なかったか?」
野良犬を複数操れるほどの力があるのなら、通に持ち出されないような対策がとれるはず。
玲や紫の夢枕にたつとか、色々方法はあるだろう。
(暇…だったから………)
「はい?」
紫鏡の返事に、クロは意表を突かれる。
探宝の鏡として、玉石の祖先と山々に行っていた紫鏡にとって、大事に保管されるだけの環境はつまらなかったという。
だから、通が持ち出すのを阻止しなかった。
「賭場で勝たせてやったのは、暇つぶしさせてくれた褒美ってことか……」
紫鏡の肯定が返る。
「まったく……。でもさぁ、このまま出たり入ったり、何回やらかす気だ?」
(次で、終わり)
「うん?」
(やっぱり…嫌だった……)
暇だった……。だから最初の二回は、お出かけ先が賭場でもまぁ良いか……と思った。
でも、やっぱり賭場は嫌だった。
なのに、紫鏡に二度も逃げられていながら、通は懲りなかった。
仏の顔も三度という言葉があるというのに――。
(神は、祟る。座敷童とは違う……)
この時の紫鏡は付喪神。
「ちょ……紫鏡っ!」
不穏な言葉にクロは慌てるが……。
(もう過ぎた……。起こった、こと……)
紫鏡の返答に、ああ…そうだったと、思い出すクロだった。
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