元旦
あけましておめでとうございますm(__)m
初日の出、今年は大体7時ころのようです。
(大阪府は7時5分)
年の括りの日、クロが言った。
「陽の光、ここだとどこから見るのが一番最初なんだ?」
「ほえー?」
「なんだ、いきなり?」
「見に行くの?」
問われた座敷童たちは、一瞬怪訝な顔をするが、すぐに御来光目当ての発言だと気がついたようだ。
「ああ、昔……山童だった頃はお山のてっぺんから毎年見てたんだ。この身になってからは出来なかったからさ……」
そう、毎年――。
雨や雪、たとえ雲に隠されて光自体は目に見えなくとも、御来光は確かにこの世に届いていている。
その光は山で生まれた精霊である山童だった頃のクロにずっと力をくれていた――。
山に恩恵を与えるその全てが、山童の力となるのだから……。
座敷童になり、その性質故家から離れられなくて、世に輝く瞬間の御来光は浴びることが出来なくなった。
でも……。
(今なら、見に行っても良いんでは?)
不本意ながら家から出ている今、輝く瞬間の御来光を身に浴びたいと思った。
あの清々しい気持ちの良さをまた感じたいと思う。
「んー…やっぱりー、お山の上が一番ー早いんじゃないー?」
首を傾げながら紅が言う。
「かなぁ?でも、オレ的には畑ってのもありだと思うぞ」
畑は結構開けているから、木々が障害にならないはずだ…と、アオは言う。
「川はどうだ?日の出の向きを考えると、有りではないか?」
そういうのは銀河。
「向きかぁ……」
どっちだっけと首を傾げるクロは、ここに来てから、日の出の向きを気にしたことが無かったと思い出す。
基本において、ここは人の世――現世ではない。
ここで唯一生きる人間――白波のために、昼夜や四季を備えてはいるが、日の昇り下りすらも実ではないのだ。
「だったら、やっぱり山かな……。山頂に行けばどっちから上がろうと見れるよな?」
そう結論付けたクロだったが……。
「御来光を見るのならば海であろう」
スズメが言った。
「海ー?ないじゃーん!」
紅が声を上げるが――。
「こっちが連れて行ってやろう」
「え?」
「ほえ?」
「マジで?」
「良いのか?」
ふふん!とばかりにスズメが宣う。
「良いぞ。海より上がるこの世で一番の御来光。とくと眺めさせてやろうぞ」
座敷童たちはここに居ることで、力を取り戻すことが出来る。
力を取り戻して、魂の傷を癒して……また座敷童として人の世に戻るのが、ここに居る彼らの目標――。
なので、出ていけないことはない。
ただ無理して外に出て、何かの拍子にうっかり力を失うのが怖いだけ。
だが、スズメが一緒にいてくれるのなら、その心配はせずとも良さそうだ。
そう…座敷童ならば、外に出ることは可能――。
「白波は?」
アオの問いに白波は首を振る。
「おやつの準備していますよ。一番の御来光、どうぞ堪能してきてください」
白波はそう言って、スズメに連れてゆかれる座敷童たちに手を振った。
※ ※ ※ ※ ※
「さて……」
座敷童たちを見送って、台所に立った白波は、甘煮のごぼうをまな板に置く。
やわらかく甘く炊いたごぼうは、一晩蜜に漬け置いて、しっかり甘みを滲み込ませてあった。
それを十センチくらいに切ってから、八つに縦に細く割る。
明日、御来光を見て帰ってきた童たちに出すのは花びら餅。
やわらかい餅に、白みそ餡と甘煮のごぼうをはさんだ上品なお餅だ。
丸く型抜きした白い求肥餅(直径八センチ位)の上に、食紅でピンク色にし、四角に切った求肥餅(五センチ角位)を重ね、その真ん中に直径三センチくらいに丸めた白みそ餡とごぼうを置いて、餅を半分に折る。
白い餅を透かして薄いピンクが映える、春を待つ新春の季節にふさわしいお菓子。
赤い丸盆に綺麗に並べ、白波はその出来栄えに笑みを浮かべる。
お留守番となった白波を、座敷童たちは気にしてくれたが……。
「僕、待つのは慣れているんですよね……」
待つということは、そこに希望があるということ――。
「待てるのって、幸せなことでしょう……」
僕の場合、それがずいぶん長いけど――。
そんな白波の呟きを拾うのは、彼が生きるその家だけ――。
※ ※ ※ ※ ※
「わー!きれーい!」
お盆に並んだ花びら餅を見て、紅が目を輝かす。
「美味いな、さすが白波だ」
「うんうん!餅もいいけど、中のごぼうが甘くて美味い。カリっとする触感がいいよなぁ……。あ!ねぇ、ごぼうだけで食う分って残って無い?」
「なに、その邪道?!」
「だって、美味いもん」
スズメに連れられ、しっかりと海からの御来光を堪能してきた座敷童たちは、ご機嫌さが再骨頂だった。
「なんか、すっげー充電された感があるんだよな……」
そういうクロの様子を見ると、確かに出ていった時より艶やかな気配を纏っていて、力を取り戻している感がある。
「ほかの皆も、そうみたいですね……」
「海は海神様のお膝もとだからな……。ただ、急に力を取り戻し過ぎるのは、あまりよくはない。だから、そう長居はせずに戻ってきた」
そう言ってスズメは、抹茶と花びら餅を機嫌よくついばんでいる。
「スズメー、抹茶苦くないの?」
「ない」
花びら餅は初釜に用いられる菓子だ。
なので、白波も茶をたてたが、抹茶を選んだのはスズメと銀河のみ。
ほかの座敷童たちは煎茶だ。
「白波の茶は甘いぞ?」
「さっきそう言うから、ちょっと銀河の椀のお茶、飲んでみたけどやっぱり苦かった……」
そう言って顔をしかめたのはクロ。
「だよねー?抹茶は苦いよねー?」
「オレも普通の茶の方が好きだなー」
「お子様舌どもめ!」
「座敷童だもーん!」
「そうだ、そうだ!」
「とりあえず、今日はアオと紅に味方しとくよ」
口々に言いあう座敷童たちに、白波は苦笑するしかない。
「好きなもので良いんですよ」
「だよね!はいこれ、お土産」
クロが頭が少し欠けている巻貝の貝殻を白波に差し出してきた。
欠けているが、大きさは赤子の拳ほどあり、外は白くて、中は艶々した薄いピンク色――。
恐らく遠い南方から流れてきた貝だろう。
「おやまぁ……」
「耳に当てると海みたいな音がするんだ。白波はここから出れないからな、せめて雰囲気だけでも知ってくれ」
「あ……」
白波は海を知らないわけではないのだが、そのことをクロは知らない。
「ワシからはこれだ」
銀河は白い布袋に砂を詰めてきていた。
「海の匂いがする。寝所に置いておけば、海の夢が見れるかも知れんぞ?」
そう言って白波の手に袋を取らせてくれる。
「オレ、これ。こんな綺麗な青い石、凄くない?」
そう言ってアオが差し出してきたのは、大人の親指の爪くらいの大きさの半透明な青い石。
「これ、青瑪瑙では?」
「知んない」
アオはけろっと言うが、質感的にも、白波の言葉を聞いた途端、少し笑った銀河の反応を見ても間違いないだろう。
「……確かに、凄い……」
天然の青瑪瑙を海岸で見つけてくるとは――。
さすが幸運を呼ぶ座敷童。
白波の好きなところに飾ってくれと、渡してくる。
「あたしは、これー」
紅が出してきたのは、いびつな半円をしたくすんだ赤色のシーグラス。
海に落ち、長い間に波に削られ、角が落ちたガラスの欠片――。
「シーグラスにしては、大きめですね……」
直径三センチ位ある。
「端っこ歪んでるのがー溶けてるーって感じでー、海から出てくるときのーお日様に似てるでしょー」
手に平に乗せられた赤いシーグラスは、そう言われると、もう海から顔を出そうとしている太陽にしか見えなくなった。
「ありがとうございます」
気にかけてもらえたことがただ嬉しくて、返せた言葉はそれだけだった。
そして白波は、座敷童達からもらったお土産をちゃんとお盆の上に片すと、膝を揃えて手をついた。
「あけましておめでとうございます」
それに座敷童達も「あ…」と気付いて居住まいをただす。
「あけましてー、おめでとーございまーす!」
「あけましておめでとうございますっ!」
「あけおめーっ!って、じゃなくて!あけましておめでとうございます!」
「うむ、あけましておめでとうございます」
ちょっと、ふざけたアオが銀河に叱られたが、新年のあいさつが恙無くかえる。
「あけましておめでとう」
軽く羽ばたいて、スズメが白波の肩に止まる。
どうか穏やかで、平和で幸せな新年でありますように……。
そう願う、一年の始まり。
花びら餅の作り方 (大体10個分くらい)
〈ごぼうの甘煮〉
ごぼう:1本 蜜:水300㏄と砂糖300gを煮詰めて作る
〇ごぼうは水できれいに洗って10センチくらいに切る。
〇竹串が刺さるくらいにゆでる(2時間くらい)
〇ゆでたごぼうを蜜に入れて煮立て、煮立ったら火を止めて一晩放置する。
〇使う時は縦に八等分くらいにします。
(ごぼうの細さは色々なので目安です)
〈味噌餡〉
白こし餡:250g 水:200㏄ 白みそ:40g
〇白こし餡に水を加えて中火にかけ、滑らかになるまで練る。
〇白みそを加えて火にかけながら、全体に混ざるまで混ぜる。
〇冷まして丸める。(10等分くらい)
※白こし餡は白いんげんで作った餡です。
〈餅生地〉
上新粉:160g 水:約200cc 砂糖:160g
食紅:適量 打ち粉:適量
〇上新粉と砂糖を混ぜ水を加えながらよく練る。
〇生地の3分の1をとりわけ、食紅で色を付ける。
〇蒸し器に入れて約20分蒸す。
〇できた餅を打ち粉の上に出す。
〇白い生地は麺棒で伸ばして、直径8センチくらいの型で抜く。
〇赤い生地は四角く伸ばして10等分に切る。
※仕上げ
丸い白の餅生地に赤の生地を置き、四角の対角線にごぼうと餡を乗せて、半分にたたんだら出来上がり。
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