平和な場にはお菓子があります
「おやまぁ…。その包みを持ち出すのを見かけたんで、まさかと思って見てましたが、この家の長男は僕ですよ?だいたい、まだ八歳にもなってない幼女に、そんな大層なもの渡すって……。オバアサン、耄碌されてますねぇ……」
玲が紫に銅鏡を渡すのを見て、それまで黙って二人の様子を見ていた男が口を出す。
「通兄ちゃん……」
紫はいきなり口を出してきた兄にホッとするが、玲はあからさまに眉を顰める。
「あなたは忠さんが勝手に結婚した女性の連れ子――。我が玉石家とは一切血の繋がりがございませんよ」
紫の兄の通は紫の異父兄で、兄妹仲は悪くなかった。
一回り以上離れている上に性別も違うし、通は外出が多くて紫と顔を合わせることもあまりなかったので、諍いが起こる切っ掛けも無かったからだ。
「僕はお父さんの正式な養子ですよ?」
「ええ、忠さんの養子であって、忠さんの家の子――。つまりこの家の子ではございませんのよ」
玲の言葉に、通は驚いて目を見開く。
そんな様子に玲はフンと馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
「まぁ、とは言え……」
玲は「ほう…」と、困ったように息を吐く。
「なんだかんだとは言え、実の息子が引き取った子ですからね……。あの子が死んでしまった今となっては、そちらにも何某かの物はいつか渡すことになるでしょう。今の生活も、ある程度までなら保障してあげてもいいでしょう。その程度の財は持っておりますからね……」
いかにも身の程知らずを窘める言い方で、玲は語る。
「けれどこの紫鏡は、真の玉石の家長から家長へ引き継がれるもの……。巷の法や、他所様からの目などに左右されるものではありませんの」
「はっ!何をのたまわっているのやら。長男が跡取りで、家のすべて引き継ぐのは当たり前のことじゃないか。この家の男は僕だけだ。家を継ぐのは僕に決まってる!」
忠は玲の長男――つまり、この玉石家の跡取りだった。
血の繋がりがどうのと言ったところで、紫が幼すぎるのもあり、一般的な跡取りは忠の長男である通となるだろう。
だが喚く男に、玲はにこやかに笑って告げる。
「他所の家のことなど関係ありませんし、法的な跡取りがどうであれ、玉石家の家長は血筋で決まるのです。そして私の長男の子である紫が一番血が濃い。この子が次の家長ですよ」
「し、晶子叔母様や玉子ちゃんはっ?」
祖母と兄のやり取りを、はらはらしながら聞いていた紫は、やっとの思いで声を上げる。
晶子とは紫の父、忠の異母妹で、玉子はその娘だ。
紫はできれば祖母の申し出を誰かほかの人に押し付けたかった。
欲しくもない鏡を押し付けられるのもイヤだし、なにより兄の目が怖かった。
「あの子は結婚して家を出てしまいましたからねぇ……。そのせいで氏も田中ですから……」
だから玉石家を継げないという玲を通が鼻で笑う。
「はっ!あんたを裏切って、旦那が妾に産ませた娘だからだろーがっ!適当な綺麗っぽい言葉で誤魔化してんじゃねーよ!」
血の濃さだけで言うのなら、晶子の方が紫より血が濃いし、玉子は紫と同格だ。
そう指摘する通に不愉快そうに視線を向けた後、玲は告げる。
「何と言われようと、次の家長を決めるのは当代の家長の役割。そしてそれはこの私です」
「で、でも……」
紫は言いよどむ。
(カチョウって何!?)
「わ、わたし……」
大人二人の間で、子供の紫は只々おろおろしていた。
そしてそんな三人の様子を、井戸越し、そして時越しに、見ていたのは座敷童のクロと紫鏡――。
「あほだな、こいつら……」
おそらく家族という括りになるはずなのだろうが、互いの思いやりや、気配りが全く感じられない。
「同じ家に居る意味あるのか?」
呆れてつぶやくクロの言葉に、頷くように微かに身動ぐ紫鏡――。
そして――。
「え、おいっ!紫鏡っ!」
井戸に落ちないよう抱えていたクロの腕の中で、紫鏡はくたりと力をなくしてその場でうずくまるのだった。
※ ※ ※ ※ ※
「で、紫鏡は部屋に戻したの?」
「ああ、銀河に手伝ってもらって、寝かせてきた……」
囲炉裏部屋にて、紅の問いにクロはぶすっとした顔で答える。
「紅、あとでまたこれを紫鏡と緑花に届けて下さいね」
「いいよー、わかったー。そこに置いといてー」
白波がこれと示したお盆を見て、気楽に答える紅。
お盆に乗っているのは、白い大福だ。
「美味いなぁ…。小豆餡の大福も美味いけど、栗餡の大福もこんなに美味いんだ!」
大絶賛しているのはアオだ。
「あ、そうだ紅。後でオレも一緒に行くから、食い終わるの待っててな。紫鏡の様子、気になるんだ」
「んー、わかったー。てか、あたしも今から食べるんだけど?」
「そか、ならいいなー」
へらりっと笑ったアオは、パクリとまた大福を頬張る。
「俺はさっき栗大福って聞いたけど……。これの中身って、栗餡っていうか栗きんとん?芋入ってるよな?」
クロが言うと、白波が頷く。
「そうなりますね。栗だけだとちょっと物足りない気がしたんで、芋餡と混ぜてきんとんにしてみたんですよ。栗は丸のまま入れずに潰したんで、栗っぽさは減ってしまいましたが……この方が栗の風味が芋餡に移って、より美味しいと思いませんか?」
「思います」
「思うよ」
「思うー」
「思うな…」
白波の問いに、座敷童たちの同意が返る。
「丸のままの栗が入っている方が、栗の触感や風味は楽しめるが、大福として味わうなら、潰してある方が食べやすいし、大福全体としての味わいも上がっておるな……」
銀河がふむふむと、納得しながら味わっている。
「あと、今年はサツマイモが豊作なので、芋系のおやつが増えるかもです……。良いでしょうか?」
少し遠慮しながら聞いた白波に、囲炉裏部屋に居た座敷童たちは構わないと皆頷く。
「白波の作りやすいので良いよ。てか、季節のものが多くなるのは普通のことだし、それが一番美味いんじゃないか?」
クロがそう言うと、皆確かにそうだと頷いた。
色々思うことや、感じることもあるが……。
おやつ時の囲炉裏端は、穏やかで平和な場所なのだった――。
大福の餅は白玉粉から作ります。
白玉粉と砂糖と水をダマが無いようによく混ぜ合わせ、流し缶に入れて蒸し器で蒸す。
➝蒸しあがった生地をこね鉢やボール等に入れて木べらでしっかり捏ねる。
➝餅らしく伸びるくらいに練り上げたら、取り餅粉or片栗粉をまぶした台に出す。
➝ゴルフボールくらいの大きさにちぎって、丸めて、平たくして、餡を包めば出来上がり。
中身の餡は小豆餡の定番以外にも、芋餡、白餡、栗きんとん等々バリエーションは色々。
白餡の中にイチゴなどの果物を入れたら、流行りのフルーツ大福に。
甘露煮の栗を丸のまま、餡で包んで大福に入れると高級感が出ますが、砕いた栗を餡に混ぜた方が味にコクが出る気がします。
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