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紫鏡

「白波ー!」


 山遊びからの帰り、畑の畦道に白波の後姿を見つけてクロは声をかけた。

 

 畑で収穫をしていたらしい白波は、背に籠を背負っている。


「クロ…川ですか?山ですか?」


 クロの声に振り返り、追い付いてくるのを待った白波がそう聞くと、クロは一言「山」と言って、手にしていた何かを白波に突き出した。


「これ、やるよ。綺麗だろ?」

「はい?」


 唐突だったので、すぐには反応できなかった白波だが、受け取ったものを見て、ほう…という顔をした。


「これは…水晶?黄色かかってるから、黄水晶(シトリン)ですね……。せっかく見つけたんでしょう?僕がいただいて良いんですか?」


 なかなか立派な単独結晶で、長さは三寸(約九センチ)ほどで、径は七分(約二センチ)ほど。

 凛とした六角柱で、薄く黄色がかかった透き通る石。

 透明度が高いほど、水晶は良質とされる。

 一般的に水晶は貴石とされ宝石ではないが、黄水晶でこの透明度ならカット次第で宝石になるだろう。


 とはいえ……座敷童であるクロも、()()の管理人である白波も、いわゆる人の財とされるものに左右されることはないが……。

 

「さっき川の飛び石渡るときに、川の中にきらって光るのが見えてさ。なんだろって拾ったらそれだったんだ。多分、黄魚を癒して人界に戻したお礼なんじゃないか?」

「ああ、なるほど……」


 姿を見せることは滅多にないが、実はあの川にも河童は住んでいる。

 彼らが自分たちの長であった黄魚を今も慕っているのは、白波も知っていた。


 一度は何もかも諦め、海に溶けようとした黄魚――。

 その黄魚が()()()を再度得て、また座敷童として人界に行ったことは、彼女を慕う者たちにとって『良かった!良かった!』という事なのだと、伝えたかったということか……。

 はっきりと言葉にされたわけではないが、同じ人外である座敷童のクロがそう受け取ったのなら多分間違いはない。


「黄魚の面倒一番みてたの白波だろ?だから、白波にやる」

「わかりました。ありがとうございます」


 納得すれば、素直にもらう。

 ここで遠慮するのは無粋なことだ。

 手拭いを出して大切に包み込むと、作務衣の懐へ入れる。


「それはそうと、籠の中、何入ってるんだ?」

「芋ですよ。サツマイモです」

「おやつ用?」

「ですね。ただ干芋にするので、食べるのはしばらく先ですが……」

「えー」


 白波に返事に、クロが不満の声を上げた。


「焼き芋するのかと、期待したんだけど……」

「うーん……今日は栗大福の予定です。というか、クロは焼き芋が好きなんですか?」


 栗大福も美味しいですよ?と言った白波に、クロはわかっていると言う。 


「焼き芋が好きというより、焚火がしたかったんだよなー。今日ちょっと寒いだろ?」

「囲炉裏では足りませんか?」

「足りないって言うかー、寒い時に焚火するのがいいんじゃないか!」

「ああ……」


 座敷童らしい子供っぽい理由に、白波は納得して頷く。

 要するに焚火で遊びたいのだ。文字通りの火遊び希望。


 だいたい、座敷童に寒いも暑いも基本的には関係ない。

 人間ではないのだから……。


「栗大福はもう作っちゃってますから、焼き芋は今度ですね。干芋作りもしなくちゃですし……」


 クロはちぇっ!と少しすねた顔をする。


「干芋もうまいけどさ、焚火で焼けないのがつまんないよな……」

「水分を飛ばしている干芋を焚火に入れたら、真っ黒に焦げて炭でしょうね」


 焚火にご執心なクロに白波は苦笑いする。


「干芋ねぇ……。あれって、作るの難しいのか?」

「まったくです。とても簡単ですよ」


 クロの問いに白波は首を振る。


「蒸してから皮を剥いで、一センチくらいにスライスして、表面がカラカラになるまで天日干しするだけです。ただ、干すのに時間がかかるんですよね」

「どれくらい?」

「だいたい四~五日ですね。干し過ぎて固くなっては美味しくないから、しっかり様子見ながら干さなきゃいけないのが、面倒といえば面倒ですが……」


 つまみ食いしながらですから、楽しみでもあると白波は笑う。


「じゃあ俺、つまみ食いの時だけ参加するわ」

「おやおや、手伝ってはくれないんですか」

「だから、つまみ……じゃなくて、干し具合を確認する試食係だろ?」


 つまらないことを言い合いながら、屋敷の方へ歩みを向ける。


 ちらっと子供っぽい我儘を口にしたクロだが、その意見を強引に押す気はない。

 あくまでもここのおやつは、白波により提供されるものだ――ということをちゃんと理解していた。


「でもまぁ、期待はしてて下さい。お待たせするだけのものは出来ますから」

「へぇ?」


 白波の言葉にクロは片眉を上げる。


「囲炉裏で炙るだけでも、しっとりして甘みも深まりますが。バター焼きにしたり、チーズ焼きにするとさらに味が引き立つんですよ。あと、チョコレート掛けもいいですね」

「え、バター?チーズ?チョコレート?干芋に???」


 きょとんとしたクロに、白波は笑いかける。


「熱したフライパンにバターを入れて溶かして、そこにサイコロ状に切った干芋を入れて炒めるんです。バターが回ったところに、甘いのが好きな人は粉砂糖、それほど甘党じゃない人は胡麻塩をパラっ!とかける……」

「おおっ!なんか美味そうっ!そういうのはやったことない」

「こうご期待ですよ」


 ちなみに、チーズやチョコはフォンデュ風にしてもいいし、乗っけて焼くのも有りだ。


 と、二人が屋敷のそばまで来たところで、静かに勝手口が開いた。


「ん?」


 誰か出てくるのか?と、足を止める二人……が、戸は開いたのになかなか人影(童影?)は出てこない。

 何かあったのか――と、様子をみようと白波がいぶかし気に足を踏み出したとき、ゆらりと白い着物姿が揺れるように出てきた。


「「?!」」

 

 よろよろとわずかづつ進む老女。

 真っ白でパサついた髪、かさつき、骨のように細い腕や足首、白い着物を身に纏っているが、着ているというよりまるで枯れ枝に巻き付いているようだ。

 顔はうつむいていてよく見えないが、皺が深く刻まれているのはわかる。


「……紫鏡(しきょう)!」


 ハッとした白波がその名を呼ぶ。


 紫鏡――。


 力を使い果たし寝たきりになっていた座敷童。

 窓の外に砂丘を創った座敷童――。


 そんな座敷童が、数十年ぶりに館の外に出てきたのだった。

お読みいただき大変ありがとうございますm(__)m

(月)(金)を目安に更新しております。

よろしければぜひまた続きを読みに来てください(o_ _)o))

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