怒ってる?
ぽちゃん!ぽちゃん!ぽっちゃんっ!
川面に向かって、いくつも石が投げられる――。
が、それのどれも水面を切ることなく水中へと沈んでいった。
「あーっ!くそぉっ!」
「力んだら余計に失敗するぞ」
「わかってるよっ!」
クロのアドバイスに、がうっと噛みつくように返事した後、アオは手にしていた石を足元に捨て、頭を抱えてその場にしゃがみ込む。
「どうした?」
「うるせー、鈍感野郎っ!」
「なんだよ?」
アオの態度が解せなくて、クロは首を傾げる。
「あれ、ぜってー!オレに腹立ててるだろっ!」
「はい?」
「だろうな……」
「しょうがーないんじゃなーいー?」
「ああああああああっ!」
頭を掻きむしるアオ。
その姿を見ても、紅と銀河の言葉を聞いても、クロには状況がつかめず首を傾げるしかない。
「帰ってきてーすぐはー、労わってくれたじゃなーい?」
「そうだな……。スズメにお前の戻りを知らされて、わざわざアオの好物のおはぎを準備していたな」
「そりゃ、オレのやらかしたことを知る前だからだろ……」
「知ってても、白波なら変わらんのじゃないか?」
「……」
銀河の言葉に、アオは悶えていた体をぴたりと止める。
「白波はー、座敷童がー大好きーだーからー」
「……知ってる……だから、余計に罪だと思うんだ……」
「白波がアオに怒ってるのか?」
凹むアオにクロは問いかける。
一連の流れで、どうやらアオは、自分が白波の怒りを買っていると思って苦悩しているのだとわかったが、なぜそういう判断になるのかがわからない。
「俺はそんな気配感じなかったぞ?アオだけ渋皮煮のこと褒めてたし……。白波が怒ってたのは、手間暇かかった菓子の見た目を貶すような発言をした俺らの方じゃないのか?」
あれも怒っていたというより、不当な評価にちょっとすねてみただけだと言っていたはず……。
クロはそう言うが、紅が首を振る。
「白波、普段はーあーんな程度のことー、素知らーぬ顔してー聞き流すわよー。わざわざ、あーんな態度するのはー、機嫌が悪ーいのー」
「そうなんだ?」
だからって、アオが特別怒りを買っていたようにも見えなかったが……。
「黄魚の行先告げるとき、わざわざアオの家の子が~って言ってただろ?わざわざ言わんくても良くね?」
「え?いや……そう言った方がわかりやすかったからなんじゃ……」
とういうか、そう言われたからそういう関係の家に行ったのか――と、知ることができたのでは?
と、思うクロだが……。
「黄魚が、元は強大な力を持つ河童で、今度も長く守護できるはず……とも言ってただろーが!言う必要あったか、あの話?」
アオの訴えに「あ…」と思うクロ。
そう言われてみれば、敢えて教えてもらう話でもなかった気がする。
「もしかしてあれって、短期で戻って来ちまったアオへの皮肉だったのか?」
「アオがそう捉えたのなら、そうなんじゃないか?」
銀河は言う。
「白波は人だからな、人寄りの見方が出来る。人の立場から見たら、アオが今回したことは座敷童としてかなりの悪手――残酷なことだ。守護家の者にも、その周囲の人にも、この先ずっと様々な害になって残るだろう……」
銀河の言葉にアオは顔を辛そうに歪ませる。
「わかってる。オレ、いっそあのまま力果てるまで、少しでもあいつらに幸運がつくように、残るのも考えたんだけど……」
苦しむ守護家の者のそばにいて、何もせずにいることはきっとできない――。
直接手を出すのは禁忌とわかっていても……。
「アオはー、守護家に対して過保護すぎー!」
「だから、わかってるって……」
紅の言葉に、アオはため息をつきながら頷く。
「でも、アオばかりが悪いんじゃないよな?アオが運んだ幸運に舞い上がって、くだらないこと企むほうが悪いよな?やった悪事の隠ぺいは、座敷童として確かにやりすぎだったとは思うけど……」
「そうさな、だが人の立場にしたらどうだ?今までついていなくて、急につきだしたら焦らないか?このつきを逃したら、またつかなくなるんでは?と、不安になったりしないか?」
「それは……」
「焦るあまりについ悪事に手を出して、あまつさえそのことがうやむやになってしまったら?」
予期していなかった悪事の未発覚事態をも、幸運の一つと捉えたとしたら?
「調子に乗ったりせんか?」
「……乗るかも……?」
たらりと背中を汗が流れる気がした。
今まで真面目に生きていたのに、つい魔が差してやらかしてしまった悪事――。
その原因は家族を思う心。切っ掛けは悪ではない。
でも、やったことは悪いこと――。
本来なら、いくら家族を思ってのことでも罰せられていたはずの罪。
それが座敷童の所業により隠蔽されてしまった――。
「今まで人の道に悖ることなく生きていたようだが、今回のことで躓いた。このまま元に戻れば良し、だがこれが切っ掛けで逸れて行ったら?」
「怖いな…それは……」
「白波が怒っても、おかしくないよなぁ……」
頭を抱え凹むアオを見ながら、クロは自分の守護家だった八真名の家のことを考えていた。
華子があんなだったのは、自分のせいだったのかも……と、ふと思った。
「ま、今さらどうしようもないんだがな……」
「だよねー!しかもー、アオは力戻ったらー、また行く気だしー!馬鹿よ、馬鹿ーっ!」
言いながら紅は石を拾ってぶんっ!と投げる。
石はやっぱり水面を切らずにポッチャン!と、川に沈む。
「むうう……。スキップしなーいっ!」
「あははっ!へたっぴっ!」
「るっさーいっ!あんたー、できんのー?」
「おーっ!」
紅の挑戦を受けて、クロは足元の石を物色する。
「白波は人の身で、人の弱さもわかると同時に、座敷童のことも好意を持って見ているからな……。アオがこの姿になったことも、アオの家の子の道がゆがめられる可能性も……、恐らくどちらも腹立たしいことなのだろうよ……」
銀河がそう言うとアオがなるほどと言う顔をした。
「ぶつけようのない怒りってヤツか?」
「……それ、アオが言う?」
クロが指摘すると、アオはてへへと笑った。
申し訳なく思ってはいるが、後悔はしていなさそうだ。
本人の言う通り、力が戻ればまた座敷童として、しれっと人の世に戻っていくのだろう。
「よっ!」
クロは川面に向かいサイドスローで、勢いよく石を投げた。
石は川面を二回スキップしたあと、向こう岸近くでポチャと沈む。
「こいつ…空気よまねーヤツだ……」
ぶすっと、アオがつぶやいた。
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