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黄魚の行先

 どうやら白波的には、栗の渋皮煮は手間はかかるが、自慢の一品らしい。皆から見た目の地味さを指摘されたことで、ちょっとおかんむりの気配を漂わせている。


「えー、白波怒んないでよー!美味っしいってばーっ!」

「うむっ!毎年、栗の時期に食べさせてもらっているが、いつも美味いと思っているぞ」


 紅と銀河が、あわてて白波のご機嫌を取っている。


「俺も美味いと思うよ。昔、家で出されたのも美味かったけど、今日食ったヤツのほうが美味いって思った」


 クロも素直にフォローに回る。

 さっきだって、見た目の地味さに言及はしたが、美味しさに関しては決して否定はしていなかった。


「オレは見た目も悪くないと思う」

「アオはー、黙ーれーっ!」


 紅がアオの口をふさぐ。

 そんな様子を見て、白波はどうしようもない……という風情で肩をすくめた。


「別に、怒ってなんかいませんよ……。ただ、黄魚が最後に手伝ってくれて、僕が一人で作るより綺麗にワタや筋が取り除かれたから、いつもより見た目も悪くないんじゃないかなぁって思ってたから、ちょっとね……」

  

 なんとなく拗ねてみたかっただけだと、白波は言った。


「黄魚がねぇ……」


 やっぱり黄魚が面倒で地味な下ごしらえをしたというのが、クロとしてはイメージがわかなくて首を傾げる。


「黄魚が元は河童だって言うのは聞いたんですよね?」

「ああ……」


 白波の問いに頷くクロ。


「河童は水妖です。水妖は川の性質を大きく受け継ぎやすい……特に、力の強い水妖は生まれの川に似ると言います」

「……」


 いきなり河童の話になり、困惑するクロはただ黙って白波の言葉を聞く。


「黄魚は非常に力の強い河童で、そこで長とも言える存在だったそうですよ」

「へぇ……」


 少々ぼんやりしているイメージの黄魚からは、とても長という言葉に結びつかないが……。


「川って、水量によっては流れを変えることもあるし、暴れることもある。浅瀬などはパチャパチャ落ち着きがないですが、深いところに行けば流れは静かで力強い……。尖った石を根気よく転がして、丸めていくような根気もあります」

「ふむ、確かに……」


 クロが頷くのを見てから、白波は言葉を続ける。


「豪雨の時は荒れることもありますが、基本的に流れの大きな川ほど、ゆったりのんびりして見えるものでしょう?」


 クロ的には、ぼやーっとしてマイペースというのが黄魚のイメージだが、水妖が川の質を受け継ぐというのは、山童の頃聞いたことがある気がする。


「黄魚はデカイ川の河童だったってことか?」

「ええ。大河川と言われる川の主とも言われていたそうです」

「信じられん……」


 白波に頷かれたが、クロ的にはやっぱり黄魚にそんなイメージは抱けない……。


「こんなに丁寧に根気よく栗の渋皮の下処理をしてくれた黄魚は、確かに大河川の水妖の気質を持ってるってことですよ。だからきっと、今度もまた長きにわたって家を護れるだろうと、言いたかった……」

「ん?今度も?」

「はい」


 白波の言葉に首を傾げたクロに、銀河が説明する。


「クロも長く家を護ってたようだが、黄魚もかなりだ。ここに来たのは数十年前だが、家を護る気持ちが強すぎてやりすぎたって話だったな……」

「彼女が悪いとは僕には思えない」


 白波がきっぱりと言う。


家護(いえもり)である座敷童は基本的に外に出ることがありません。つまり昔の黄魚にとって、情報源は家の者の会話や感情の動きのみ。やりすぎたのは確かですが、外の世界が彼女が外にいた頃とは様変わりしていることに気がつけなかった…。黄魚を責めることはできないと、僕は思ってます……」


 罰で力を失ったので、座敷童として罪を犯してはいるのだが……。


「昔はテレビなんてなかったからなー」


 アオが言う。


「あ…そういえば、そうか……」


 クロも頷く。

 今でこそ、クロも家の者が使うラジオやテレビ、PCなどを目にすることで、家の外のことを知ってはいるが、昔は全く知らなかった。

 山や川、そしてタロの家だけがクロの世界だった。


 世の中には海や砂漠があって、海を渡った先には他の国、空のずっと向こうには星々が連なる宇宙がある――そんなことを知ってから、まだ百年もたっていない。

 

「知りようがない状況の中で、力加減を間違ってやりすぎたんですよ……」

「結構ー大ーーーーっきな、災害を引き起こしたんだよねー?たーくさん、巻き込まれて死んだってー」

「え、災害?」


 自分ちの家人はしっかり助けたらしいけど……。という紅の言葉に、クロはちょっと驚く。


「ええ、家に嫌がらせをする権力者を排除するために、元配下の河童たちを使って大河川を氾濫させたそうです。

 彼女の守護家が代々その川の主権を持っていたんですが、権力者にそれを狙われたそうで…。

 でも、権力者は確かに排除できましたが、同時にそれが原因で、黄魚の仲間の河童たちはその川に居られなくなり、守護家も散り散りになったそうです」


 人を死なせ過ぎたのだと、白波がため息をつく。


「元が強大な力を持つ河童だったのが、仇になったんですよねぇ……。そして彼女は自分の生まれた川の周囲がいつのまにか開けていて、多くの人が住むようになっていたことを知らなかった…」

「……イメージが……」

「無いですけどね」


 苦笑いする白波。


「だが、今度はそういう失敗も無かろうよ」


 スズメがくちばしで羽繕いをしながら言う。


「行った先に川は無い」

「そういえば、前の家となんの縁もない所に行ったんだっけ。どうしてまた?」

「なんかー、別の縁ーあったー?」

「でも、外に出てないんだろ?井戸だけで見つけられるもんなのか?」

「そうだな……ワシの知る限りでは、黄魚が外に出たとか聞いたことはないし、風の精霊もそれらしき噂を持ってきたことはないが……」


 いぶかし気な童たちに、白波が告げる。


「アオの家の子が怪我をさせて、その将来を奪ってしまった――その子の家に行きました。つまり、昨日のアオの話から、縁を見つけたという事ですね」


「へっ?」

「なぁー?!」

「は?」

「……」


 唖然と固まる座敷童達。



 ただクロは……。


(話の前におかし食べさせたのは、俺たちがこうなるってわかってたからかぁ……。妙に昔話してたのも、ショックを少しでも和らげようとした?)


 固まりながらも、そんなことを思っていた。



お読みいただき大変ありがとうございますm(__)m

(月)(金)を目安に更新しております。

ぜひまた続きを読みに来てください(o_ _)o))

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