魔がさした
将来は世界に通ずる選手になる――そう有望視されていた少年が、大怪我を負い、車いす生活となり泳げなくなった……。
それが、アオの守護した家の娘が企てた所業の結末。
そうと知った座敷童達は押し黙る。
が、その沈黙をぶち壊して紅が叫んだ。
「だからー、馬鹿なのよーーーーーーっ!そんなヤツをー、なーんでアオはーっ……」
「だって、家族だから……」
叫ぶ紅の言葉をアオは遮ってそう言うが……。
「違う。ワシ等は座敷童。人の家族にはなれん」
銀河に言われて、悔しそうに口元をゆがめる。
「ぎ、銀河達は、オレや紅とは由来が違うから……。だからそうやって割り切れるんだろうけど、オレ等は違うから…っ」
「由来?」
「あたしとアオは元人間ー。でもー、あたしは間引きで死んだ子でー、一応人として生きた時間あったけどー、アオは生まれる前に死んじゃってるからー、人として生きた時間はなかったんだよぉー?」
アオの言葉にクロが首を傾げると、紅が理由を教えてくれた。
「でも、人だったんだよっ!青羽って名は、母さんがつけてくれたんだ!」
「ふーん?てかねー、オレ等ってなにー?『等』ってしないでよー。アオはー自分の血にこだわってるけどぉー、あたしはそれ無いからー。家族とかさー、家に対してもう期待なんかーしてないんだからぁー」
もう期待していない――。
こだわっていたことが、紅にもあったという事だ……。
クロはため息をつく。
「つまり、アオは座敷童として、自分の血族をずっと護ってるってことなのか……」
アオは頷く。
「そっ、だから見捨てられないんだ……。オレと同じ血を継いでくれてるんだもんな」
「でも…悪いこ、と隠すの……。良くな、いよ?」
「わかってる……」
そう言ってアオは頭を抱える。
「本人、めちゃくちゃ苦しんでる……。だって、元々はものすごく優しい、思いやりのある子なんだ……。魔が差したんだよ……」
アオによると、姉にとって一連のことは、天国と地獄を何度も行ったり来たりするようなものだったという。
「びくびくしながら、でも弟のためにって…ブレーキワイヤーにペンチ入れて……。でも何も起きなくて、えっ?ってなった後、自分のやった事が怖くなって、大反省して。何事も無くて良かったってホッとしたんだ。
けど弟がレースに負けて悔しくて、やっぱりしっかり切れば良かった…とか、また悪いこと思って。そのあと特待生になれて、おめでとー!って大喜びして……。
そうやって喜びに浸ってたら、今度はとんでもねー事故のニュースが飛び込んできて……」
思惑とは違うところで起きた事故。
姉は自分が切ったワイヤーのせいだと、八割わかっていながらも、時間差があることで「自分は関係してない事故の可能性も有る!」と、自分で自分を誤魔化しているという――。
「警察は調べに来なかったのか?」
「自転車のブレーキワイヤーにペンチの跡残ってねーの?」
アオの情報から考えると、かなりの大事故。事故の原因はきっと調べられ追及されたはず。
動機を考えると、一番疑われるのはライバルだった守護家の弟だ。
「証拠は、オレが消した……」
「消した?」
「ああ、コンビニの防犯カメラに、あの子が自転車のワイヤーを切る様子が映ってた。オレ、それ消したんだ……。そしたらさ、こうなった……」
くたびれた中年男となっている自分の身を示して、アオはハハハっと、乾いた声で笑う。
「…………良くその程度で済んだもんだな……」
アオをじっと見つめた後、銀河がつぶやく。
座敷童は家の守護者。犯罪者の守護者ではない。
いくら家の者とはいえ、その犯罪の証拠を隠蔽するなんて、座敷童がしていいことじゃない。
ましてやコンビニは家の外。十全に力を振るえる場所でもない。
「そうだな……。消滅だって、ありえたんじゃないか?」
クロの言葉に、アオは肩をすくめて見せた。
「だって姉の行動は、家族を思ってのことだったからさ……。やっちゃいけない事ではあったけど、家族を大切に思ってのことなのは確かだったんだ……」
「そういうの、有りなのか……?」
「納得しかねる…というか、したくないが……」
「で、も…アオ…が消えなくて、良かった……」
マイナス要素のほうが大きくはあったけれど、座敷童にとっては糧となる理由もあった……。
そのおかげで、ぎりぎり存在は確保されたということのようだ。
「自首はせんのか?」
「ああ……」
銀河の問いに、苦しそうに返事をする。
「あの子自分に対して、今、必死になって言い訳してる」
「ふんっ!」
紅が怖い顔をして鼻で笑う。
そんな紅にアオは苦笑いを返した。
「自首した方がさぁ、本人は楽になれるんだよ……。ホントに本来は真面目なイイ子なんだってば!でもさぁ、出来ないんだ……。家族思いな優しい子だから……」
弟は今、前途洋洋だ。
優良な指導者の下、整った場でトレーニングを積んでいる。
最大のライバルは不幸な事故で消えた――。
「言い出せんか……」
「ああ、墓場の中…いや、その先々まで、自分の罪を持っていく気でいるよ」
もうどうしようもない――。
「そういう事も、人はあるか……」
この先、その姉の魂がどうなるか――考えたくもない。
「アオ……パン、ダさん乗る…から、コインちょう、だい」
ふいにそう言って、黄魚がアオに手を出した。
「あ、ああ……」
急な黄魚の言動に、アオは慌てて服のポケットを探るとコインを取り出す。
「コイン?」
「ああ、あれ動かすのって、コインがいるんだよ。てか、黄魚…いつも亀に乗ってたのに、今日はパンダなのか?」
数枚のコインを黄魚に渡しながらアオがそう聞くと、黄魚はパンダたちの方に視線を向けながら頷いた。
「たまに…は、違う…のも、いいかなって……」
「ふーん?」
黄魚はすっと立ち上がると、幼女の姿に変化し歩き出す。
「お?」
「…だって、足が…ついちゃうから……」
「ああ、そういえば、亀の時は上に正座しておったな。パンダの上で正座は出来んか……」
「あー、なーんか、本気でー遊ぶって感じー」
紅も銀河も立ち上がる。
どうやら遊びモードになったようだ。
「ワシ等も行くか」
「うん!」
「そうだなー!あ、俺はこれが気になってるんだ」
クロは背後にある巨大ボールを示す。
「ああ、これは中に入って飛び跳ねて遊ぶんだ!面白いぞー!」
「じゃあ、俺はこれから遊ぶ!」
座敷童たちは各々好き勝手に遊びだす。
思う存分遊びまわり、十分満足して自分の部屋に帰った次の日――。
「あー、黄魚ー!またいなーい!」
囲炉裏部屋に紅の声が響く。
が……。
「居ないんじゃなくて、黄魚は行きました」
白波がそう言った。
「人の世に、座敷童として行きました」
そう教えられた――。
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