勝つためには?
紅とアオは、巨大ボールを背もたれにして、外に向かって並んで座っていた。
綺麗に足を揃えてしっかり体育座りしている子供姿の紅と、だらしなく足を投げ出して座る初老男性姿のアオ――。
(なんか…しっかり者の娘に叱られてる、情けない親父みたいだな……)
テレビドラマで見たことがある?な感想を持ったクロだが、銀河も同じような感想を持ったようだ。
「なんだアオ……紅に叱られておったのか?」
そう言った銀河に、アオは苦笑いで返す。
「オレが紅に叱られるのって、いつものことじゃん……」
「アオがー、バーカっ!だからー!だからーっ……!」
アオの返事を聞いていた紅が怒ったように言うが、その言葉は途中で途切れ、紅の目から涙がこぼれる。
「…紅、ごめん……」
「アオはー、いっつも!いっつもーっ!そうじゃないのー!懲りなさいよー!」
紅に責められているアオよりも、責めている紅のほうが悲しそうだ。
クロの後ろで黄魚が困ったように小さくため息をつく。
「アオ……いっつ…も、ああやって、紅……に、叱られる…。で、紅が、悲しむ……」
アオが出戻るたびに毎度繰り広げられる光景らしい。
「なんで紅が泣いてんだ?」
クロの言葉に紅は頬を膨らませる。
「アオが情けなさ過ぎてー!腹立つのよーっ!だってねー……」
「……オレの代わりに泣いてくれてんだよ」
「違うーーーーーーーっ!」
違うと叫ぶ紅の顔は真っ赤に染まる。
その染まり方は、怒りではなく羞恥――。
アオの指摘で合っているようだ……と、クロは思う。
「あんたはさー!毎度、毎度、いっつも、いっつもー!なーーーーーーんで、そんなに甘いのよっー!あたしは怒ってんのーっ!叱ってるんじゃないのー!」
『怒る』と『叱る』は違う。
怒るというのは怒っている側の怒りを相手に向けるもので、叱るというのは、失敗した相手を思いやって戒めること――アドバイスだ。
「うん?さっき紅、懲りなさいよーって言ってたじゃないか。あれは、アオに対する戒めだろ?てことは……」
「うるさーーーーーーいっ!」
クロの指摘に紅が立ち上がって叫ぶが、それを横にいた銀河がどうどうと言うようになだめにかかる。
「これ、紅…クロに八つ当たりはするな」
「八つ当たりじゃないもーん!本当たりだもーんっ!」
「色々腹が立つのはわからんでもないが、行くと決めたのはアオだ。座敷童として当たり前のことなのだから、それに関しては誰も責められんだろ……」
そう言って、銀河は紅からアオへと視線を変える。
「ただ…一応、ワシ等の今後の参考として、なぜそうなったのかは知っておきたいと思う」
「うん……」
アオが頷く。
それを見た黄魚は立っていた紅の横に行くと、一緒に座るように促してお行儀よく二人並んで座る。それをみた銀河はアオの前にドカッと腰を下ろして胡坐を掻き、クロは柵にもたれてアオの言葉を待った。
「なんか…期待と言うか…身構えられちゃってるけどさー。オレたいしたことやったわけじゃ無いんだよ?」
「何もせんで、その姿にはならんだろうが」
「まぁ、そうなんだけど……」
困った風情でポリポリ頭を掻いているアオ。少し言い淀んでいるのがわかる。
「バカなのよーっ!」
「わかってる」
再度叫んだ紅に、アオは頷く。
それで吹っ切れたように話し出す。
「家さぁ、姉と弟の二人きりだったんだ。オレ、あいつらがどうしても不憫でさぁ…」
ぽつりぽつりと、アオが話しだす。
アオが座敷童として入った家は、二十歳そこそこの娘と、まだ高校生の弟の二人家族だったのだという。
「両親が事故で死んじまってさ……。けどさぁ、その親の残した家とか資産とか保険とかで、生活は全然困ってなかったんだ。そしたら、その困らないせいで、あいつら自分の道がわかんなくなっちゃってたんだよなぁ……」
親がいたら、それなりのアドバイスもできただろう。
けれど、亡くなっていない――。
生活に困っていないから、周囲の大人も特に手を貸すこともない。
姉弟の姉の方が成人しているという理由もあった。
完全に子供とは言い切れない、けれど大人でもない中途半端な子供の姉弟は、生きる道――意味を見失っていたという。
「あの家系が裕福なのは、オレが出たり入ったりしながらも、ずっとついてたからだから……」
責任あるだろ?っと、ため息をつくようにアオが言うが……。
「それって、勘違いの罪悪感なんじゃないか?」
クロはアオの言葉を否定する。
座敷童がつくと家に幸運がくる――とはいえ、必ずしも裕福になれるとは決まっていない。何より裕福だからってだけでは幸運とは言えないだろう。
アオの言うその家がいい例だ。
「そうかも?」
へへへっと困り顔でアオが笑う。
「とにかくさ、オレが家に行ったら、そこんとこが動き出すわけよ。いわゆる運がつきだすってヤツ。で、その弟の方が水泳クラブ入ってたんだけど、伸び悩んでてさぁ……。
元々は小学生のころからの習い事の習慣でやってただけのことだったのに、同じクラブの中で世界選手権に手が届きそうな奴が出てきてさ、急になんか自分も!とか感じて、欲が出たみたいなんだけど……」
小学生から高校生まで続けていたわけだから、本人も水泳が好きで、なおかつそれなりの才能もあった――というかアオ曰く……。
「あいつ、その世界に届きそうだって奴よりも才能はあったんだ。ただ、師事する相手を間違っちゃててさ……」
元々才能はあるから、ある程度のレベルまでは行きつくことができた。
だが、本人に合った指導や泳法が無ければ、いくら才能があっても伸び止まりしてしまう――。
こっちの例の井戸で見ていたアオはそれに気がつき、自分が行けば運が回り、才能を伸ばせる指導者に出会う切欠ができて、見失った道も見つけられる。
きっと、栄光だって手にできる――。
「そう思ったから、行ったんだ」
「ふーん。じゃあ、なんでその姿なんだ?」
「うっ……。欲が出るんだよな……。人間って……」
大きくため息をつくと、アオは投げ出していた足を引き寄せ、その膝の間に頭をうずめて両手で抱え込む。
「アオ?」
「いったい、何があったというんだ?」
交互に問うクロと銀河。黄魚は心配そうに見ていて、紅は相変わらずぶすくれた顔を隠そうともしていない。
「姉がさぁ……弟の夢、後押ししたがったんだ……」
「うん?」
「たった二人――。まだ若いうちに取り残された姉と弟なんだから、そういうもんなのではないか?」
「そうなんだよ!そう、わかってるから、オレはっ……」
言葉をとぎらせたアオの姿に、紅がため息をつく。
「弟ねー、良い指導者に出会えてー、すっごーーーーーーーく!いい結果出せたんだってー」
「ほう……」
「へぇ、じゃあアオが狙った通りになったんじゃないか!」
「…弟、そのままガンバレば、いい…」
「だよねー!だよねー、運がついてー、いい先生見つけたんだからー、そのまま弟がー、頑張ればよかったのー!」
後押ししたい姉も、ただ弟を応援すればよかっただけ。
でも、それですんなり行ってたら、アオはこうなっていない――。
「なんかさ、結構大きめの競技会があって……そこでいい成績がとれたら、有名校に特待生で入れるって話が出たんだよ……」
「と、く…たい、せい?何…?」
「特技持ってる子供が、優先的に学校に行けるってヤツか?」
そうだとアオが頷く。
「それになったら、普通の勉強とかしなくても、水泳だけに専心できるだろ?当然、行きたいわけよ……」
「そりゃ、そーだろうな」
「それはわかるが……」
「だから勝たなきゃいけないわけだ」
「そ、う…なの?」
黄魚が首を傾げる。
元河童の黄魚にしたら、泳ぐことでの勝ち負けなど意味が無いことだろう。
「で、本人が早く泳ぐために練習するのは当たり前として……。競争に勝つためにはどうしたらいい?」
「……強敵を、潰す…か…」
アオの問いに、銀河が苦虫を噛み潰したような顔で答えた。
「当たり~」
真顔のまま、声だけおちゃらけてアオはそう言った。
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