出戻ってきた座敷童。
「さて、と……」
台所の土間に降り、本日の仕事に取り掛かろうか――と、気持ちを固めていた白波。
そこへ、パタパタパタっと軽い羽音と共に、肩に気配が下りる。
「ん?スズメ、どうしたの?」
白波の肩に止まったのは金目の小鳥。
肩に感じる重みはない、でもしっかり気配を伝えてくる――鳥ならぬ鳥、スズメ。
「今日のおやつにおはぎを作れるか?」
「おはぎ?んー、出来るよ。大福もちの予定だったから、材料はほとんど一緒だね」
大福もちの外身の餅を作るのをやめて、おはぎの中身に変更すればいいだけだ。
どちらも作るのに時間がかかるのは餡で、その餡は既に用意してあった。
「足りないのは黄な粉くらいかな……。黄な粉は臼で曳かなきゃいけないけど、時間はそんなにかからないし。もち米は出してあるから、後はうるち米と混ぜて水に漬けて……」
スズメを肩に乗せたまま、白波はてきぱきと作業を進める。
石臼を床下収納から軽々出して、乾燥大豆をごりごりと曳いて粉にしていく。
白波は寿命が長いだけのただの人間。
重い臼を一人で移動させるなんて、普通なら出来るはずがない。
いつもなら童の誰かに手伝ってもらって、臼を収納から出している。
なのになぜ今は一人で出来るのかというと――肩に乗っているスズメの力だ。
「で、何があったの?」
スズメの力を利用――いや……力に助けられて作業を進めながら、白波は聞く。
スズメは基本的に、人として不自然になるような力を、白波には出来る限り使わせないように立ち回る。
白波が人であるその身の程を、うっかり誤ることの無いように――という配慮からだ。
そんな普段の配慮を超えて、おやつのメニューをわざわざ変えさせるなんて……。
「童が一人、帰って来おる」
「……」
臼を惹く手が一瞬止まり、はぁ…と白波は息を吐く。
「だから、おはぎね……。今回は、一ヶ月も持たなかったってことか……」
ずいぶん短かったな……と、声を出さずにつぶやく。
「うむ。おはぎはアレの好物だ。せめてそれぐらいなければ、門を入っても来れんだろう」
「……そうだね」
白波はスズメに頷いて、またごーりごりと、臼を回し続けるのだった。
※※※※※
「今日はぼた餅か……」
囲炉裏部屋に入ってきたクロは、ちゃぶ台の上に置かれた皿を見てそう言った。
「違いますよ。今は秋だからおはぎです」
クロの声を聞きつけた白波が首を振る。
「おはぎもぼた餅も同じ菓子だが、季節で名前が変わるんだぞ。知らんかったか?」
クロ後ろをついて来ていた銀河が言葉を添える。
「あー、そういえばそんな話を聞いたことあるかも?」
「ぼた餅のぼたは牡丹の意で、おはぎのはぎは萩なんだそうだ」
「わざわざ春と秋で分けなくたって、同じものなら同じ名で良いのに……」
恥――と言うほどでもないが、間違いを指摘されたクロは少しふくれっ面をする。
「どちらもお彼岸に供えられるお菓子ですからね……。春の彼岸も、秋の彼岸も、どちらも大切な行事だってことを示したかったんじゃないですか?」
いわれに関しては、違う地方もあるそうですが――と、白波が言い添える。
ちなみにぼた餅とおはぎ、作り方も一緒だ。
もち米とうるち米を二対一で混ぜて炊く。
⇒炊けたらすりこぎ等で半づきにする。
(あまりつき過ぎると餅になるので、米粒がつぶれ過ぎないように注意!
餅になったらあんころ餅になってしまう)
⇒半づきにした米を、塩水を手に付けながら食べやすい大きさの俵に握る。
(俵の中に餡を入れても美味しい)
⇒砂糖を混ぜた黄な粉をまぶしたり、餡で包んで出来上がり!
(餡を平たく伸ばして、その上に握った俵をのせて包むようにする。
餡で包んでから黄な粉をまぶしてもいい)
出来たてもいいが時間をおいて味が馴染んでからのほうが美味しい。
(好みによる)
「米と小豆と砂糖で出来とるんだ。贅沢なごちそうだ」
銀河の言葉に、そうだな――とクロは頷く。
「大切な日の特別なごちそうってことで、それぞれに名前をつけたってことかなぁ?」
牡丹も萩も、その季節を代表する美しい花だ。
「さあ?人間の決めたことだからな。まぁ、どちらも美味いぞ」
「いや、だって、同じものじゃん!」
そうだった!と、銀河がからからと笑う。
「あー!おはぎだー。やったーっ!もちろん、黄な粉もあるよねー!」
「おい、しそう……」
紅と黄魚が部屋に入ってくる。
「なーにが、美味しそうよー!すーっかり忘れてー、また山に行こうとしてたくせにー」
黄魚はブラウスの裾を、しっかりと紅につかまれていた。
どうやら、また一人気ままに山へ遊びに行こうとしていたところを、紅に捕獲されたらしい。
「相変わらずだのぉ……」
「黄魚だし」
紅と黄魚のやり取りに、苦笑いする銀河とクロ。
「紅」
と、そこへスズメの声が割って入った。
「上の分は今日はこっちが持っていく。そなたはちょっと門まで行ってきてくれ」
「はい?」
唐突なスズメの言葉に、首を傾げる紅。
スズメを見て、次に白波を見、今度はちゃぶ台の上に並べられたおはぎのお皿を見る。
と、つられて見たクロはあれ?と思う。
「お皿、一人分多くない?」
クロの言葉に、はじかれたようにスズメを見る紅。
白波の肩にとまっていたスズメは、誤魔化すように片足で頭を掻くしぐさをする。
「スズメ?」
「門から入って来れんらしい。呼んできてやれ」
その言葉に、紅は黄魚のブラウスから手を離すと、身を翻して囲炉裏部屋から飛び出していく。
「あ、紅っ!」
驚いて声をかけるクロだが、銀河と黄魚はやれやれと言う顔で白波を見ていた。
「はや、かった、ね……」
「そうだな、二ヶ月くらいか?」
「いえ、一ヶ月ほどです」
銀河の言葉を、白波が訂正する。
「えーと、なにごと?」
状況がわからず、首を傾げるクロ。
「アオ、の好…物」
「はい?」
「クロが来た時に、一度会っているだろう……。青羽のことだ」
「ああ……」
クロがこの療養所に来た時、入れ違いに出所していった男の子だ。
「おはぎ、は…アオ、の…好物」
「新しい家とうまくいかずに帰ってきた――と、言うことだ……」
「ああ、そう言う……」
銀河のその言葉にクロは息を吐き、黄魚は悲しそうに眉を下げた――。
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