発覚!
(しっかりしないと!がんばれ、私!)
憧れていた相手の目の前に立ち、びっくりしたせいで自分のペースを乱した立夏だったが、すぐに立ち直る。
せっかく掴んだチャンス&アドバンテージ、活かせなくてはきっと後々後悔するのは間違いない。
大樹が忙しいと知りつつも、親に頼んでお見合いの申し入れをしてもらったのは他ならぬ立夏自身だ。
まだ先だと思っていたお見合いが即日となったからって、慌てて動揺していても仕方ない。
それならそうと腹をくくって、自分を自身をアピールすべき!
「お忙しいだろうとはわかっていました……。でも、だからこそ、今日でなければお話しを聞いてもらえないと思ったんです。身勝手なこと言って申し訳ありません」
まずは率直に、自分の気持ちと謝罪を述べる。
ぺこりと頭を下げた。
そんな立夏に、大樹はちょっと困ったように笑う。
「うーん……。まだ学生なのに早いだろ!って、びっくりしたのはあるけどね。身勝手だとは思ってないから、そんなに畏まらないで……。あんまり畏まられちゃうと、なんかお見合いっぽくなくなっちゃうでしょ?」
「えっと……。はい、ありがとうございます」
そう言って、また頭を下げる立夏。
「……」
「……」
数秒、無言が続く。
何しろまだ学生の二人。
お見合いなんて初めてで、やってみるまで分からなかったが、いきなり二人きりと言うのはハードルが高かった。
一般的には慣れた大人の介添えがあって互いの紹介をしてもらい、その後、その紹介情報を参考にしながら互いに言葉を重ねていくものだ。
大樹は自分が年上と言うのと、本来ならまずは申し入れを検討してから、正式なお見合いの受け入れ――という手順をすっ飛ばし、勝手に蔵に追いかけてきたのだから、自分がリードを!と思うのだが、実際相手に会ってみると、なんだか感じの良い子でちょっと緊張してしまったのだった。
妹の華子と同じ年と聞いていたので、基準値が華子になっていたのだが、ずっと大人な雰囲気で、知性の高さも感じられ、なんだかついこの子の前では恰好つけたい――って思ってしまうタイプだった。
立夏にしても、自分がお見合いを申し込んだ方だし、何より憧れの相手。失敗したくない!という思いが先に立って、なかなか言葉が出てこない。
要するに互いに相手を好ましいと思い、悪く思われたくない――良く思われたいと思って、双方言葉を探してあぐねて先に進めないのだ。
気まずい膠着状態に陥りかけた時、立夏はなぜか空気が動いたような気がして、蔵の扉に目を向けた。
が、扉は開いていない。
一瞬首を傾げかけるが、大樹が自分を見ているのに気がついて、動きかけた首の筋肉を慌てて止める。
「どうぞ座って。座敷童の部屋だから、ここにある座布団は座敷童の物なんで、人間は畳に直座りになっちゃうけど、御免ね」
大樹は自分が率先して先に畳に胡坐をかいて座ると、自分の斜め前辺りを立夏に目で示す。
「足は楽にね。しびれたら、立ち上がれなくなっちゃうから」
「あ、はい!」
大樹が自分の視線より下になったことで、慌てて立夏は大樹に従い、足を軽く流して畳に腰を下ろす。
「こんなに立派な座布団が置いてあるのに、直に畳にお客さんを座らせるなんて変な家……って、思わない?」
大樹がそう言うが、立夏は首を横に振る。
「だって、そのお座布団は座敷童の物なんでしょう?だったら人が座るのはいけないと思います」
「ありがとう……」
軽く微笑む大樹は、立夏が座敷童に興味があって好きだということを聞いているのだろう。
「あの…私、座敷童に興味を持っていて、そのぉ……えっと………」
立夏は俯いて、少し言いよどむが、すぐに顔を大樹に向けて言わなければいけないと、自分が思っていたことを告げる。
「私、座敷童の居る家の人間になりたいと、ずっと思ってました。だから、お見合いの申し入れを父に頼んで……でも!それだけじゃなくって、私…私、八真名先輩にずっと憧れていました!」
そう、最初のきっかけは幸運が欲しくて、座敷童のついた家の人間になりたい!と言うものだったが、大樹の後を追い、その高校の後輩として大樹の噂や足跡を追っかけているうちに、けっして運だけで好成績を残しているのではないと気がついた。
立夏が今の高校に入学したときには、大樹はとっくに卒業していたが、それでもその優秀さは後輩や教師たちに伝説のように申し送りされるほどで、大学に入ってからの研究成果も、華々しい情報として入ってきていた。
授業に集中する姿や、与えられた課題をただクリアするだけでなく、しっかり考察し吟味する姿勢、そして示される一つ上を行く成果の数々――。
本人が生まれつき持ってる頭脳も確かに優秀なんだろうが、それ以上に努力を続けることで、より高みに進んでいく――そんな尊敬できる人。
「お会いするのは、今日が初めてです。でも、私…ずっと先輩のことを知っていました。憧れていました。お会いしたかった……。だから…今日はお会いできて、とても嬉しいです!」
大樹の顔を見て、会えて嬉しいことをしっかり言い切った。
「先輩……?」
「はい、私、八真名先輩の高校の後輩です。大学も一緒のところに行くって決めてます!」
きりっと言い切られて、大樹は笑うしかない。
「あはは、ありがと!座敷童のことで気味悪がられたり、卑怯者呼ばわりされることはよくあるけど、こんなに情熱的に迫られたのは初めてだな」
「えっ、情熱的?!」
大樹の言葉に、立夏は目を白黒させる。
実際、かなり熱烈な宣言だったのだが、立夏本人は自覚がなかったらしい。
「見た目はお淑やかな美人なのに、なんか面白い人だね。僕も今日会えて良かったと思うよ」
「え?あ、ありがとうございます?」
会えて良かったと言ってもらえたのはいいけれど、面白いというのはどうなんだろう?
と、思う立夏――と…また何か気配を感じて、お菓子が沢山乗せられた二月堂の方を向いた。
「ん?それも座敷童のだよ。もうちょっとしたら、祖母がお供えの替えにくるから、気に入ったお菓子があるならお下がりもらえるよ?」
大樹がそう言うが、お菓子を見ていたわけではない立夏は、ちょっと首を傾げる。
理由はわからないが、この蔵に入ってから何かに気が惹かれている――。
「どうしたの?」
「いえ、何も……」
立夏は何も…と言いながら、今度は大樹の傍らが気になって視線を向けた。
不思議な気分を感じる。何もないその大樹の傍らから、こっちを不思議に思う感覚――見えないのだが、自分に対し首を傾げるモノがいるような、そんな気配を感じてしまう……。
「え、まさか……?」
急に大樹が何かを言いかけ、言いよどむ。
「なんですか?」
大樹の言葉を促す立夏だが、大樹は立夏に目を向けず、自分の傍ら――立夏が気にした方に目を向け言った。
「彼女の方へ行ってみて」
「は?」
大樹のその言葉が発せられた流れが理解できずに首を傾げる立夏だが、すぐにぎょっと目を見開く。
「え、何?これ、何?……え?」
その様子に大樹は確信を持って言う。
「君、座敷童の気配がわかるんだね……。うちの家以外にも、いるんだ……。驚いた……」
「え?」
大きく目を見開いたまま、大樹を見返す立夏。
「今、君のそばにいるの、うちの座敷童だよ」
大樹の言葉に立夏は一瞬息を飲み――。
「えーっ!!」
そして、叫び声を上げた。
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