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あなたに会うため努力しました!

「あら、素敵!」


 華子と別れて木立の中を抜けた立夏は、座敷童の蔵の前で、(くだん)の花壇を見て声を上げた。


 正直なところ、華子の自慢気な物言いに思うところはあったのだけど、実際にその花壇を見ると、これは自慢されても仕方ない――と、悔しいと同時に、見ることができて良かったとも思う。ちょっと複雑な気分だった。


 花壇の大きさ――というか広さは、畳にすると六畳より少し狭いめと言ったところか。


 畳で表現してしまうのは、その造詣(ぞうけい)が結構特殊だからだ。

 かなり凝った石積み花壇で、数段の波紋状の階段に(しつら)えられている。

 端の低いところは地面から高さ十センチほど、高いところで四十センチほどか――。


 似た形状を思い起こすと、テーブル珊瑚が恐らく一番似ている。一般的に大きさを表す、縦〇〇m横〇〇mとはちょっと表現しずらい形状だ。

 そこに色や高さのバランスが良く考えられた、ハーブがメインとなった草花が多種類植えられている。

 

 テーブル珊瑚状花壇の横には、周囲に溶け込むようそれぞれな高さの吊り台が数本あり、そこには趣のある鉢が吊られていて、ミントテロで有名なペパーミントなど、他の植物と混ぜて植えると問題があるが、香りが良いものはそちらの鉢に植えられていた。

 

 ポプリの材料だと華子が言っていたが、そこに植えられているハーブを風が揺らす度に爽やかな芳香が立ち上がり、花々に見とれる立夏をさらに楽しませてくれる。


 この花壇は見た目だけでなく、混じり合うその香りのバランスをも考えて作られているのだ。


 そして、植わっているその花々はどれもこれも瑞々しく、葉も、花も、茎も、ピンっと隅々まで力が漲っている。


 庭師の力量も高いのだろうが、土――この場がとても植物に良いのだとよくわかる。

 

「これは…凄いわ。こんなに見とれてしまう花壇なんて、初めてかも……」


 ハーブは元々強いので、育てやすいとは言われているが、その分勢いが良すぎて花壇にするとバランスが崩れがちで、一緒に植えると植生が喧嘩になったり、香りが濁ったりすることが良くある。

 混ぜて植えることで雑種化してしまい、肝心の香りが無くなってしまうことも多い。

 扱いを間違ったら、ハーブは簡単に雑草になってしまうのだ。


「どうもありがとう!でも、そんなに大絶賛されると、ちょっと困るかな?」


 花壇を見ていた立夏は、背後から楽し気に声をかけられビックリする。

 慌てて振り向くと、そこには蔵の扉にもたれるようにして、今日のパーティーの主役――八真名大樹がいた。




 ※※※※※




「す、すみません!あ、あの、あの、私、寺宮立夏と申します!」


 立夏はびっくりしてボヤっとした思考のまま、大樹に手招きされて蔵の中に入り、靴を脱いで蔵に一歩入る。 

 そこでやっと我に返って、慌てて自己紹介した。


 そんな立夏に、大樹は苦笑いする。


「あはは……びっくりさせてごめんね!僕は八真名大樹。さっきパーティーで会ってるよね?」

「は、はい…」


 そうだった……と、内心で頭を抱える立夏。

 ほんの数分――どころか、自分の親の挨拶のついでの事だったので数秒ではあったが、パーティー会場で自己紹介は済んでいたのだった。


「すみません……舞い上がっちゃいました……」


 眉を下げて、申し訳なさそうに謝る立夏。


「いいよ。君が蔵に行ったって聞いて、さっさとお見合い済ませちゃおう!って、勝手に追いかけてきたのは僕の方だから」


 からりとした口調でそういう大樹。


「え?あ、あら……。お、お見合い……ですか?」


 申し込みはしたが、受けてもらえるかどうかさえ、返事はもらってなかったはず……。と、立夏は首を傾げる。


 確かに、立夏の父が人を介して大樹の父親である八真名冬也にお見合いを申し込んだとき、前向きな返事をもらえたとは聞いたし、立夏が座敷童に興味があると知った大樹の両親が、快く座敷童の蔵に近寄ることを許してくれはしたけれど、お見合いの是非は大樹の意見を聞いてから――という話だったはずだ。


「うん。でもどうせ僕がお見合いするとしたら、ここしかないからね。それに正直、今すっごく忙しいし……」


 忙しいと言いながら、大樹が軽く眉をしかめる。


 若干二十一才での新薬承認――忙しくないはずがない。


「ごめんなさい……」


 立夏は頭を下げた。


 忙しいのはわかっていた、それでも今を逃せば自分にいつチャンスが回ってくるかわからないと思ったのだ。





 一生懸命やっているのに、運が無い――立夏はそんな風に自分のことを思っていた。

 真面目にやれば、きっと報われる――そう思って日々頑張っているのに、なぜかうまくいかなくて、涙を呑むことが多い……。


(世の中って、理不尽だわ!)


 そんな風に感じていた時、座敷童は幸運をくれるという伝承を知って興味を持った。


 興味を持って色々調べたり、話を聞いたりしているうちに、座敷童のいる家に暮らしたいと思うようになるのはごく自然な流れ。

 そして、寺宮家の仕事の関連で付き合いのある人から、座敷童付きの家として八真名家のことを教えられた。

 そのとき、「ついてない!」と立夏が嘆いていた時に、しっかり幸運をつかんでいたのが、八真名家の娘だと知った――。


(八真名の家に入りたい!)


 立夏は心底そう思い、ピアニストになる夢を親の言う通りにすっぱり諦め、勉学へと道を変えた。

 華子の話を聞いたときに、長男の大樹がとても優秀で、本人も努力を怠らない人柄だと教えられたからだ。


 座敷童のいる家の人間になりたいのなら、その家の人と縁を結べば良い――。


 まだこの時は大樹に会ったことも、見たこともなかったが、成績優秀で高校に首席で合格するような人と縁を結ぶには、自分もそうならなくては……そう思ってそれまで以上に努力するようになった。


 立夏の動機は恐らく不純と言われるだろう。


 座敷童のいる家に入りたいから、その家の嫁入りのきっかけをつかむために、勉学に励むなんて――。

 

 でも、その努力は純粋だ。


 それに、最初は座敷童が目的だったが、目標としているうちに、大樹はいつしか本当に、立夏が憧れ恋慕(こいした)う相手になっていた。


 その大樹が今回打ち立てた功績――。

 今までならまだ学生だからと、見逃していた他の女性たち(しかも自分より近くにいる年上女性たち)が、大樹に目をつけることは間違いない。

 手をこまねいていては、現在高校生の立夏なんて、あっという間に出し抜かれてしまう。

 

 幸い今回のパーティーには、八真名家と関係が深いところしか来ておらず、しかもどちらかと仕事関係が多くて、会場に年頃の女性は数人しかいなかった。

 立夏にとっては最大で恐らくは最後のチャンス、逃すわけにはいかなかった。



テーブル珊瑚状な花壇――見たことないけど、有ったら素敵なんじゃないかと思ったんです(;^_^A


誤字報告いただきました。気づいていませんでした、ありがとうございます!(o_ _)o))


お読みいただき大変ありがとうございますm(__)m

(月)(金)を目安に更新しております。

よろしければ、ぜひまた続きを読みに来てください(o_ _)o))

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