マウント失敗
――私も、座敷童の居る家の人間になりたいの。
初対面の相手にそう宣言されて、華子はかなり面食らう。
正直、何言ってんだコイツ?の心境だ。
相手の身なりからして、結構いい家の子だろうと推測されるし、頭もけっして悪いようには見えない……というより、かなり良さそうな顔つきだ。
なのになぜ、こんな突拍子もないことを言い出したのか……。
座敷童の居る家とは、=八真名家のことだ。
八真名家にはちゃんと跡取り長男の大樹がいるし、長女の自分もいる。
今まで親から養子をもらう予定など聞いたことが無いし、必要もないのはハッキリしている。
「うちの家はドラッグストアーをチェーン展開していまして、業績はとても順調です。製薬会社である八真名家とは、昔からご縁が深いんです」
「はあ……」
立夏はまっすぐに華子の目を見て訴える。
「ですので、うちの両親は大賛成しています。私にも兄が二人いて、寺宮の家業は兄二人が引き継いでいってくれますから、私は自分の将来を比較的自由に決められます」
「――それが何?何が言いたいの?」
立夏の家と華子の家の縁が深いと言われても、華子にはそれがどうした?としか言えない。
そんな華子に、立夏は少し困り顔をした。
「あの……私、今申し上げましたよね?座敷童の居る家の人間になりたいって……」
「聞いたわ」
「つまり、八真名の家に入りたいんです」
「ええ」
「……」
華子の何なんだ?という表情は変わらず、立夏の困惑顔は深まり――。
「えーっとですね……」
こてんと、小首を傾げて立夏は言う。
「お見合いを申し入れているんです、大樹さんに……」
「は?ええっ?」
華子は驚くが、立夏の顔には『ここまではっきり言わなきゃわかんないのか?』と、書いてあるようだ。
立夏の言う、座敷童の家=八真名家の人間になりたい――とは、つまり嫁入りしたいという事。
華子としては、学生である兄の結婚なんて、まだまだ先に思っていたためピンとこなかったが、一般的には家に入りたいと言われれば、『嫁入り』というワードのほうが、養子より先に頭に浮かぶだろう。
「あ、あんた、いくつよ?」
「十六才。高校二年です。華子さんと同じ年だと聞いています」
「なに、それ……」
十六才――結婚を意識するには少々若すぎると思える年齢だが、大樹との年の差を考えると、組み合わせとしては悪くない。
が――。
「私、そんなの聞いてないわよっ!」
初めて聞いた華子は、自分が家族にハブられたように感じて怒る。
「あ、あの……お申し入れしたのはつい先ほどです。それで、冬也社長と奥様にお会いして、座敷童に興味があると申し上げたら、蔵に行っておいでと……」
少し気弱な調子で立夏に言われ、華子はハッと我に返る。
「ああ……。あ、あれ?兄貴には?」
「まだお会い出来ていません。今日はお申し入れだけで、お見合いに来たわけではありませんから……」
とてもお忙しそうでした……と、少し寂しそうに立夏は言った。
何と言っても、大樹は今日の主役。四六時中色々な人に囲まれていたのは華子も知っている。
「でも、妹さんとお会いできて良かったです」
にこにこと
立夏が笑う。
「……」
また立夏に妹さんと呼ばれるが、華子は指摘しない。
黙っていることもできたのに、わざわざ立夏は大樹に見合いを申し入れしていることを華子に告げた。
それはつまり、華子をすでに義妹の位置に見ていて、そのことを隠す気はないということ。
(ふん!なんかムカつくわ、こいつ!)
内心で華子は毒づく。
同い年と言うのも気に入らないし、良い子ぶった感じも嫌だ。
男受けが良さそうな、清楚な美人系なのも腹が立つ。
もし大樹が気に入って結婚するとしたら、年齢的にすぐと言うことはないだろうが、頻繁にこの家に訪れる可能性がある、そうなったら自分がないがしろにされそうな気がした。
いや――大樹が気に入る気に入らない関係なしに、とにかく自分が気に食わない。
(これって、上下関係はっきりさせとかないといけないヤツよね……)
「蔵に行くんだ」
「ええ、座敷童に会えるとしたらそこでしょう?」
嬉しそうに言う立夏を、華子は鼻で笑ってやる。
「何言ってんの?一般の人間に座敷童が見えるわけないでしょ?八真名の家系でだって、見えたって人はほとんどいないのよ」
「ほとんどってことは、見ることができた方がいらっしゃるんですね!」
立夏の目がキラキラする。
「だーかーらー!八真名の家系でもほとんどいないって言ってるでしょ!」
「でも、いらっしゃったってことは、やっぱり座敷童はいるんじゃないですか。素晴らしいわ!子孫に何か残されているんですか?」
両手を握り締め感激する立夏は、書付等が残っているのかと聞いてくる。
「そういうのは、ちゃんとした研究家に写し渡してるの」
「写しってことは、原本はこちらに?」
「当ったり前じゃないの!うちの家の大切なものなんだから、他所に渡すわけないじゃない。当然、研究者でもない他所の人間になんか見せないわよ」
「うーん、まあ……そうですよね……。残念です。今は、諦めないと仕方ないですよね……」
しっかり『今は』と言ってる立夏に、華子はむかむかするが、流石に面と向かって指摘はしない。
「そういう事じゃなくって!私が言いたいのは、他所の人間が蔵に行ったって、座敷童に会えないってことよ!」
「それはそれで、しかたないと思ってます」
華子の言葉に、立夏はあっさり頷く。
「特別な人で無きゃダメなんですよね……」
「そうよ。まぁ、でもとりあえず、蔵の前には私の花壇があるから、うちに来た記念にそれでも見てくればいいわ」
「花壇…ですか?」
立夏が会いたいのは座敷童なのに、花壇の話題になって首を傾げる。
「ええ、もう飽きちゃったけど、昔私がポプリに凝っててね……。その時に兄貴が私のために、蔵の前に花壇を作ってくれたの。蔵の前なら座敷童の加護が他より強くて植物が育ちやすいじゃない?そこにポプリの素材にしやすい植物植えてくれたのよ」
私専用のポプリ花壇よ!と、腕組みして自慢げに言う華子。
「まぁ!ポプリ専用の花壇なんて、素敵!きっといい香りなんでしょうね」
華子は『大樹が華子のために座敷童の加護の強い特等地に花壇を作った』――と教えることで、大樹は妹の華子をとても大切にしているのだと、立夏に自慢しているのだが、立夏はそれに対して羨んだ気配はなく、ただ称賛する。
「あ、そろそろ私行きますね。華子さんの花壇、楽しみに見てきます。では、また!」
爽やかに立夏はそう言うと、蔵の方へと去って行く。
その背を見送る華子は、イライラとした未消化な腹立たしさで、お腹の中が沸騰しそうな気分だった――。
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