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出来の悪い娘

ちょっと長くなりました。

「華子、声が大きいですよ」


 パーティ会場が自宅になったことに不満を言う華子を、穏やかに祖母のカナが(たしな)める。


「お義母様の言う通りよ。大樹は八真名家の長男なんだから、お祝いを八真名の家で行うのはあたり前のことじゃないの」

 

 母親の真理もそう言うが、華子は不満を納めない。


「だってさー、兄貴ふざけ過ぎじゃない?家でやる理由が、座敷童もパーティーに参加させたいからってありえない!」

「あなたの言い分こそありえませんっ!」


 最初は穏やかに窘めていたカナだが、この華子の言葉には目を吊り上げる。


「蔵の王様はこの家の守り神です。蔵の王様を尊重して今回のことを決めた大樹の判断は、八真名家の長男として褒められることはあっても、非難されることなどありえません!」


 一瞬でマジ切れ状態になった祖母に華子は一瞬面食らうが、すぐに言い返そうとした。

 

「いるわけないじゃん、そんなの!だいたい、今どきね……」

「華子っ!」


 真理が華子の言葉を遮った。


「落ち着きなさい。それから、周りを見なさい……」

「う……」


 真理から静かに言われ、伏し目になって周囲を窺うと、自分たち三人が招待客から距離をとられているのがわかる。

 華子が文句を口に出すまでは、客たちは自分たちの様子をそつなく伺いながら、話かけるタイミングを見ていたのに――。

 今日の主役は大樹。だが、その家族も招待客から注目されているのは当然のことだ。


「八真名家が蔵の王様の守護を受けているというのは有名なこと――。ここは座敷童の護る家なんです。蔵の王様あっての八真名家。それを否定する孫なんて……。距離を取られて当たり前です」


 穏やかさを取り戻したカナが言う。


「今日いらしているのは、八真名と関係する中でも選りすぐりの家の方々よ?皆さん、うちが座敷童のつく家だとご存じで、喜んで足を運んでくださった方がたくさんいるの」


 真理も言う。


「それにね――」


 真理はほうっとした表情で付け足す。


「この会場に入ってきてすぐに、(わたくし)の作品を、手法や意匠も読み取って称賛してくださった方が何人もいるの。華道という芸術に造詣が深い方々が、こんなにたくさん来て下さるなんて……」


 さりげなく座敷童の話題から華道の話題――いや、自分の自慢話へ変えた真理に、華子は目をパチクリさせる。


 真理の趣味は華道で師範の免状も持っている。


 ホテルではなく家で大樹の祝いをやると決まったとき、妙に張り切って新しい花器を購入したり、花屋と打ち合わせをしていたのは華子も知っていたが……。


 パーティー会場となっている大広間内には当然多くの花が活けてあり、それ以外にも玄関前や玄関ホールにも豪華な生け花が飾ってある、それらはすべて真理の手による物。

 大樹のパーティーにかこつけて、真理は自分の作品のお披露目をしているのだ。

 母親も自分の味方になり得ないと、華子はさとる。


「慣れないホテルでの開催だったら、こんなに上手くは出来なかったわ……。私は今回我が家で開催されたことがとても嬉しいの」

「この家には蔵の王様の加護があります。上手くいくのは当然です」

「ええ、そうですわね」


 喜びを表す真理と、それを座敷童の功績だというカナ。

 

 大樹のためのパーティーと言いながら、祖母は八真名家が座敷童の守護家であることを周囲に知らしめる手段、母は己の作品が認めらえる手段として捉えている。

 上手くいったのは座敷童のおかげというカナの言葉に、真理は素直に頷いていたが、実はちっともそうは思っていないことは、その返答の軽さから娘の華子は察していた。 


 自分の主張が欠片も認められないことに、華子はぶすっと顔をしかめ、手じかにあったグラスをとると、腹いせのようにグイっと中身を煽った。 


 



(やれやれ……)


 八真名家の座敷童として、しっかりパーティー会場にいたクロは、会場から浮いている八真名家の女三人のそばでうんざりしていた。


(相も変わらず、こいつらは自分のことしか考えないな……。今日は大樹の祝いの席なのだから、そちらにもっと気を配るべきだろうに……)


 ため息をつきながらグッと手を握りこぶしにすると、大樹の方に目を向ける。


 大樹は一癖ありそうな年嵩な男性たち数人に取り囲まれていたが、父親の冬也のサポートは受けつつも、そつなく相手をしていた。

 雰囲気からして、会社関係のお偉いさんたちだろうが、怯むことも、卑屈な態度になることもなく、堂々と――しかし、生意気になることなく対応している。

 

(うん。やはり大樹はいいな……)


 クロはもう一度、チラリと八真名家女性陣三人に目をやってから、大樹の方へ移動する。


 家族のことを思いやることをせず、身勝手な自分の都合や思いで行動するこの三人のそばは、『家』が大切な座敷童のクロにとって居心地がよろしくない。


(というか、この家――正直、終わってるよ……)


 思いたくないことを思ってしまうクロ。


 と言うのも、身勝手な三人もさることながら、八真名家の家長である冬也も、一見家族に気を配っているように見えるのだが、座敷童の身からすると、その行動指針はすべて経営者としてのもので、家族を思いやる気持ちからのものではない。

 家族の為のように見せながら、その心は「会社にとって利益になるか、ならないか」だ。

 思いやりのある息子、優しい夫、穏やかな父親――そんな姿は、すべて会社を順調に経営していく上で必要な事々だからだ。 

 盤石な経済基盤あってこそ、良好な家族関係が築かれると考えれば、『家』という視点に立った時、大切なことでもあるのだろうが……。


(でも、俺の力にならないからなぁ……)


 座敷童の力の糧にならないのだから、冬也の行動はそうではないということだ。


 クロは、そっと華子達三人の方を振り返る。

 華子の手には、さっき取ったグラスがまだ握られていた。


 クロはそれまで握りしめていた自分のこぶしを開くと、手の平に目を落とす。

 そこにはふわっとした何かがまとまって浮いている。


(ずいぶん強いアルコールだ。華子がこれ飲んだら、きっと酷く酔っぱらう――。場合によっては急性アルコール中毒だってありえた……)


 なんだかんだ手広く商売をやっていて、経営は順調。そして学生の身でありながら、新薬の承認を勝ち取ってしまうような、将来性豊かな嫡男の存在――。

 取引先と言う名の商売敵たちにとって、八真名家はさぞかしうっとおしい目の上のタンコブだろう。


 名家の未成年の娘が、これだけの名士が集まる中で泥酔なんてしたら、とんでもないスキャンダルだ。

 まず間違いなく今通っている高校は強制退学になるだろうし、将来良家の嫁になるという目も潰れる。

 八真名の家名にだって当然傷がつく。

 八真名家をやっかむ何者かが、なにがしか傷をつけたくて、家の中で一番隙の多い華子が狙われた……。


(家での開催で助かったな、華子よ)


 クロはふん!と鼻で笑う。

 

 座敷童のついた家の者は、外にいても幸運に恵まれやすい。

 恐らくホテル等での出来事だったとしても、飲む寸前にグラスがコケる等して飲まずに済んだとは思うが、座敷童が直接力を振るえる家の中ならばより安全だ。


 クロはふっ!と強く息を吹きつけ、手のひらの上にもやるアルコールを散らす。

 途端にふっと体が揺れて、わずかだが自分の力が削がれたことがわかった。


(大樹のそばに行こう……) 


 現八真名家の中で、座敷童の気配がわかるのは大樹のみ。 

 そして大樹は、家族のことを思いやって動くことができる者だ。

 クロにとって、側にいれば心地いいし、力も摩耗せずに済む唯一の相手だった。





「どうも華子が騒いでいたらしいな……」


 大樹に集っていた人間がはけて、少し間が開いたとき、様子見に近寄ってきた真理に冬也はそう言った。


「ええ、有名ホテルでもっと豪華なパーティーがしたかったそうよ」


 真理の返答に、冬也は眉をしかめる。


「……大樹の為のパーティーなのに、なぜあれが文句を言うんだ?」

「女の子ですもの、そういうものよ」


 真理は軽く答えるが、冬也はそれにため息をついた。


「考えが浅いのは、母さんの血なのかね……」

「お父さん!」


 冬也の諦めを含んだ呟きに、大樹が抗議の声を上げる。


「僕も同じ血だよ?」

「わかっとる。華子もお前も儂の子だ。ただ、お前は親父の血が濃く出たようだが……。見てみろ、華子のあの鼻の形。母さんにそっくりじゃないか!」


 冬也が視線を向けた先で華子とカナが並んでいた。


「あら、ほんと。似ているわね」

「お母さん……」


 大樹は声で母を窘めつつ、父には非難の目を向ける。


「すまん。つい、な……」


 声を落として、妻と息子にだけ聞こえるよう詫びる冬也。


「なあに?誰かに何か言われたの?」

「ああ……。古い取引先を呼んでたんだが、母さんの昔を知っててな。直接的なことを言われたわけじゃないが、ちょっとな……」

「なんて?」


 息子の問いに、冬也は黙る。


女中(じょちゅう)の子――とでも言われた?」


 ばっさり、そのままの言葉で言った真理に、冬也は苦笑いする。


「そこまではっきり言われたわけじゃ無い――。いや、結局はそういうことなんだが……」


 カナは元々は八真名家の女中だったが、先代の妻――冬也の祖母に気にいられて、その息子である清司と結婚したのだった。

 八真名家長男として、それなりに華々しく生きてきた冬也だが、それが原因でそしられることも多かった。


「大樹、おまえ見合いせんか?」

「はぁ?」

「あら、まぁ……」


 意表を突かれた大樹は目を丸くし、真理は驚きつつも嬉しそうだ。


「ふふ、夫の青田買いかしら?そうよね……良い人は早く捕まえておかないとね」

「お母さん!……お父さんも、僕まだ学生ですよ!まだまだこれから勉強しなくちゃならないし、今度の薬だって承認下りただけで、まだこれから色々あるんです!」


 自分は暇じゃない!と訴える大樹に、冬也はだからだと言う。


「すぐに結婚しろと言ってるわけじゃない。まずはお見合いだ。これからもっと忙しくなるのは目に見えてるんだ。忙しさに紛れて、わけのわからんのに引っかかることもありえるだろう?」

「それにしたってですよ!早すぎます!」

「あら、私とお父さんは大学時代からの付き合いよ?そのころから結婚を意識していたわ。お見合いくらい――というか、お見合い……。とってもいい機会だと思うわ!」


 まだ学生だから結婚のことを考えるのは早い!と主張する大樹だが、本来なら嫌がりそうな母親はものすごく前向きだ。


「お母さんまで!とういか、どうしておばあさんと華子の鼻が似てるってことから、僕のお見合いにつながるんですか」

「鼻は関係ないぞ」

「何言ってんですか、つい今まで……」


 言い募る大樹に、冬也は自分のそばにあったテーブルから、ジュースの入ったグラスをとって大樹に渡す。

 素直に受け取った大樹が軽く口をつけ、冷たい飲み物で気を落ちつけるのを待ってから冬也は言った。 


「あれは、志望校に行けなかっただろう?それをどこかで聞いたらしくてな……」


 突然の話題の変更に、一瞬目を白黒させながらも、大樹はすぐに華子の高校受験の話だと気がつく。


「それがどうしたって言うんです?もう二年も前ですよ。だいたい受験なんて、その時の好不調も関係するし……。それに僕の見合いは関係ないでしょ」


 誤魔化すなと冬也を睨む大樹。


「うむ、だからな……」

「だから、女中やってた女の血を濃くひいてるから、出来が悪いって言われたんじゃない?」


 言い淀んだ冬也の続きを真理が言う。


「はぁ?」


 呆れた声がでた大樹だが、冬也はその通りだと頷く。


「まぁ、それに似たことを遠回しにな……」

「なにそれ?もちろん相手には抗議したんですよね?」


 妹と祖母を馬鹿にされて憤る大樹だが、冬也は首を振る。


「出来が悪いというのはな……」


 否定できん――と、消えた語尾に聞こえる気がする。


「あなたがいるから、余計に……ねぇ?」


 両親にそう言われ、大樹は絶句する。


 自分が目立つことで、華子が何か言われるかもしれないとは思ったが、まさか実の親がこんなことを言うとは思いもしなかった。


「お父さん、お母さんそれは……」

「ではお前は、あれの出来がいいと言えるのか?親の儂から見て、どう考えても華子は努力が足りん」


 両親を窘めようとした大樹の言葉を、冬也が遮る。


「う……」


 冬也は一人っ子長男で、幼いころから周囲の期待が高かった。

 と同時に、元女中の子――という評判ハンデがあったため、普通より努力する必要があった。

 そうして努力して有名大学に入り、優秀な成績を収め、その後はしっかり家業を引き継ぎ会社を発展させている。

 そんな冬也から見て、娘はどう考えても努力しなさ過ぎている。


「あなたは本当に大学時代勉強してたものねぇ……。私、めったにデートに連れて行ってもらえなかったもの」

「そのぶん、今贅沢できているだろうが」

「ええ、そうね」


 にっこり笑う真理は、いわゆる勝ち組女だ。

 冬也と同じ大学に行っていたのだから、当然本人も優秀。


「他力本願したい女の子だって、ある程度は努力しないとダメなのよ。なのに華子はなんの努力もしていないわ」

「他力本願って……」

「だってあの子、自分は座敷童付の家の子だから、勉強なんかしなくても行きたい高校に行けると思ってたみたいよ?お義母様にそう言って、座敷童は自分を助けてくれなかった!って怒ってたもの。お友達にも、自分は余裕ーとか言ってたのに、恥をかいたって……」

「え、嘘でしょ?」


 母親の言葉に、大樹は目を丸くする。

 座敷童は家を護るが、決して万能ではない。

 勝手に受験の神様扱いされてもどうしようもないだろう。

 というか、勉強せずに志望の高校(しかも名門)に合格させろ――だなんて、裏口入学だ。

 つまり華子は、口では座敷童の存在を否定しながら、自分の都合で頼っているということ。


「母さんがばあ様に気に入られたのは、熱心に蔵の王様のお世話をしていたからな……」

「あー、なるほど。その取引先さんは華子のことを知って、お義母様の狂信的なところを引き継いでるんじゃないかって言ってきたのね」

「……」 


 妹を大事に思っている大樹だが、そんなことを聞かされると、何にも反論できない。

 なにより「華子の出来がいいか?」と問われると、かわいいところも、良いところもたくさんある!とは言えても、出来がいいとはとても言いにくい。


 勉強がすべてではないとはいえ、兄の大樹と同じ高校に行きたい!と、口ではいいながら、いくら言ってもまともに受験勉強をしなかったのだ。

 中学在学中の成績も、中の下――の中でも下の方。

 とてもじゃないが、国立大受験を目指すものがほとんどというレベルの高校に合格できるとは、大樹も思えなかった。


 ――というか、受験させてもらえただけましというレベルだったのだ。

 合格発表の日、本人は落ちたと泣いていたが、泣くのもおこがましいと感じたものだ――。



「と言うことで、お前の見合いの話になるんだが……」

「いや、なんで、と言うことでだよ?意味わかんないよ!」

「うちが座敷童の家だというのは有名だからな。わけのわからん信者的な女に乗り込まれないうちに、大樹には良い嫁を見つけておいた方が良いのじゃないかと言われてな……」

「ああ、それは大事なことよね、私にとっても娘になるのだし……」

「いや、ちょっと待ってよ!」


 抗議する大樹だが、乗り気な両親に説得され、お見合いを設定されてしまうのだった――。


外からみたら『良い家族』だけど、実はばらばら――な感じが伝わったでしょうか?伝わってたら嬉しいのですが……。


お読みいただき大変ありがとうございますm(__)m

(月)(金)を目安に更新しております。

よろしければまた続きを読みに来てください(o_ _)o))

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