表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/379

座敷童のいる家

「罪だけど、過ちじゃないって……?」


 自室に戻り、窓から山をぼんやり見ながら、クロは銀河が言っていたことを反芻する。


「普通なら、やっちゃいけないことを罪って言うんだけどな……」


 そう、普通なら――。


 けれどあのときのクロは座敷童として、華子を救わずにいることはできなかった。

 命の危機に瀕している家の者を目の前にして、何もせずにいることなんてできなかった。

 だから、あれが罪だったなんて言われても、クロにはどうしようもない。

 そしてきっとクロだけじゃなく、守護する家の者の危機を黙って見ていられる座敷童なんていないだろう。

 

 と、言うことは――。


「銀河が言いたいのは、(ことわり)としては罪だけど、座敷童としては間違ってないってことかな……?」


 懐かしい山を見ながら、ため息をつく。


「座敷童にさえならなかったら、こんな思い抱えることはなかったんだろうなぁ」



※※※※※ 



 クロが守護していた家は八真名(やまな)といい、大手とは言えないが、安定した業績を残す中堅どころの製薬会社だ。

 その源は、クロが(ほだ)され、初めて座敷童としてついたタロの血脈。


 タロの家は自然の厳しい山村で猟師をする祖父と、出戻りの母親との三人で細々と暮らす、豊とはとてもいえない村の中でも、特に貧しいと言える家だった。

 だが、そんな中でもしっかり幸せに、互いに助け合って生活していた一家。


 娘や孫に少しでも多く食わせようと、猟にいそしむ祖父。

 得る糧を無駄なく大切に使い、家族のために動く母。

 そんな二人に感謝し、幼い身でもできることをしようと、日々山に入って山菜や薬草を採るタロ。

 謙虚で勤勉な人間には自然も寄り添い、精霊も身近になる。

 そしてタロは生まれつき人外の存在を察知する勘が優れていて、ただ気配を察するだけではなく、見ることすら可能な力を持っていた。


 クロは最初こっそりとタロの手助けをしていたのだが、相手が自分を視認できると気がついた時、嬉しさのあまり、身を隠し続けることなんてできなくて……。

 いつしか友となっていた――。


 そのまま……山童と人の子との、楽しく儚い友人関係のまま終われば良かったのだろう。

 けれどクロは名をもらうことを選んだ。

 そう、クロが座敷童のクロとなったのは、タロに『クロ』と名をもらった時だ。


 タロの祖父や母は、クロの姿を見ることまでは叶わなかったが、それでも存在を感知できるだけの力を持っていた。

 そんな家族――家の中に入ることは、とても心地よかった……。


 座敷童となったクロがついたことで、祖父の狩りの収穫量は増加し、畑の作物も他所に比べて育ちが良くなった。

 タロもより貴重な薬草を山で採取できるようになり、高名な貴族や皇族から採取依頼を受けることすらまれでなくなった――。

 いつしか家の暮らしはどこよりも安定し、周囲に認められていった。

 クロにとっては短い間だったけれど、貧しい家が繁栄し、やがて名を得るほどに発展していく様はとても楽しかった。


 そう、短い間。

 

 人であるタロの命は座敷童のクロに比べてとても短くて、儚くなっていく姿を見送る日はあっという間にやってきた。


「逝くな!俺を一人にするな!」


 泣いて布団にすがるクロに、タロは自分の子供達の中に自分の血は残るから護ってやってくれと――きっと共に楽しんで生きていけるから……と。

 そう言い残して逝った。


 だから、クロは座敷童としてずっと護り続けてきた。


 実際、八真名の一族は勤勉な者が多く、クロが手を貸すと大きな成果を出すことができたので、その時々の達成感を、家の者たちと共有しながらそれなりに楽しく過ごすことができた。


 クロを見ることができる者や、気配を感じることができる者は、長い時の中でちょこちょこ生まれた。

 それもなかなか楽しいことだった。

 全ての者に力が現れないことが特別感をもたらし、そういった者が現れるのを待つことで、人の身で無いクロにとっても長い時の中、期待感をもって暮らしてこれた。

 たまーに気に入らないのが生まれることもあるが、所詮は人の子。しばらく待てば居なくなる……。


 そうやって千年近くもの間、クロはタロの血に寄り添い続けて来た。

 だからこその、今のあの家――なのだけど……。


「いっそ俺のことなんて…座敷童のことなんて忘れてくれたら、あんな家とっととおん出て、自由気ままな山童に戻ったのに……」


 自分が山童だったことなんて、つい先ごろ黄魚に指摘されるまで忘れていたくせに小さくぼやく。

 

 窓辺にもたれて、あの日のことを思い出す。


 あの日――華子が事故に遭いかけ、クロが力を大きく失った日……。


 それは家の長男である大樹(だいき)の為に、祝いのパーティーが行われた日だった――。




※※※※※




「いやー、スバラシイ!まだ学生の身で新薬の開発をされるとは!」

「ご存じ?あの方、まだ大学三年生なんですって」

「まぁ!八真名製薬のご発展、間違いなしねー」

「卒業なさったら、即重役ね!もしかして、いきなり副社長もありかしら?」

「あら、ご本人は、第一線で研究に携わりたいそうよ?」

「ステキ!ストイックでいらっしゃる!」


 あっちでちやほや、こっちでちやほや。


 八真名家本宅の大広間を使った立食式のホームパーティー。

 来客数は約五〇名ほど。

 八真名の家の大広間はかなり広く、それだけの客と給仕の人員を入れても、ゆったり会話を楽しめる空間の余裕がある。


 パーティーの開催名目は、八真名大樹の新薬承認記念パーティー。

 お呼ばれされた人々がほめそやすのは、もちろんパーティーの主人公である八真名大樹。

 

 新薬なんて、そうそう開発できるようなもんじゃない。

 頭が良いだけじゃダメなのだ。

 思いつける着想力、練り上げる構想力、先を見通せる頭脳、必要性、人と人との兼ね合い、タイミング等々、色々指摘しきれないほどの条件が揃って生み出されるもの。

 そういうものなのに、大樹は大学三年生という若輩の身で、それを成し遂げてしまった。

  

 若干二一才で華々しい功績を上げた大樹と縁を結びたい者は驚くほど多かった。

 今回お呼ばれされたのは会社の縁故や、血縁など、厳選に厳選を重ねた末の人々だ。

 本来ならホテルの大パーティー会場でも借り切って、それでも入りきれないだろうほどの人が集ってきたがっていたのだが……。


「家で祝ってください」 


 祝いのパーティーをすると決まったとき、大樹は父親で八真名製薬社長である冬也(とうや)にそう頼んだ。


「ん?うちの大広間は広いとはいえ、せいぜい五〇名ほどしか招待できんぞ。お前は将来うちの会社に入るから、他の学生のように就職活動の顔つなぎに興味が無いのはわかるが、先のことを考えたらできるだけ多くの人に顔を売っておいた方が得だぞ?」


 冬也はそう言うが、大樹は首を振った。


「あの成果は僕一人のものじゃないから。力を貸してくれたものがいるのに、僕だけお祝いしてもらうのは、ちょっと……」

「ん?ああ、そうだった……」


 困り顔で大樹にそう言われ、冬也は気まずそうに頷く。


 座敷童――。


 互いに言葉には出さないけれど、当たり前のようにこの家にある常識。


「家の外だと、蔵の王(くらのおう)が参加できないから困るんだ」

「そうだったな。すまん、お前の快挙の喜びが先に立って、うちの事情を忘れてたよ……」

「……」


 現在の八真名家家族構成は、祖母のカナ、父の冬也、母の真理、長男の大樹、妹の華子の五人家族。

 この中で座敷童の存在を感じ取れるのは大樹だけだった。

 

「親父が生きてたら、ぶん殴られるとこだったな……」


 冬也がつぶやく。

 冬也の言う親父とは、大樹にとっての祖父である八真名清司(せいじ)

 清司は大樹とは違い、薬の研究等には手を出さず、会社の経営に精を出すことでその手腕を発揮していた。


 前向きで精力的、だが無理やごり押しはしない健全な経営方針で会社は発展し、二年前に清司は老衰で亡くなったが、万全な準備態勢が整えられていたので、何の懸念もなく冬也に引き継がれ、今も盤石な体制を維持している。


 そして清司も大樹と同じく、座敷童の存在を感じ取れる力を持っていた。


 会社の経営にあたり、清司は座敷童の力に常に助けられていたという。

 色々な出来事の節々では、必ず座敷童に相談や感謝することを忘れなかった。


 清司は息子の冬也が座敷童を感知できないことを残念がっていたが、責めることはなかった。

 しかし、孫である大樹にその力があると知ったときは大喜びしたという。

 そのせいなのか、大樹は父である冬也より、祖父の清司との距離が近かった気がしている。


 清司は座敷童が喜ぶからと、よく大樹を相手に、蔵の王の部屋とされる蔵の中で囲碁や将棋を指した。

 そして大樹は、祖父の言う通り座敷童が大喜びしているのを感じ取り、それを当たり前のように最初は思っていた。たまに座敷童が子供の大樹に味方して、差し筋をこっそり指南してくれることもあった。

 それが普通ではない――祖父以外に、共有できる感覚ではないことを知ったのは、五つ下の妹の華子が物心ついた頃。彼女には蔵の王の存在がわからないと知ったときだ。


 華子に自分と同じ感覚が無かったことは残念だったが、そのことで大樹は華子を責める気はなかったし、座敷童を察知する自分の感覚を誇る気もなかった。

 ただ、そういうものだと受け入れていた。  

 と言うのも、冬也は気がついていなかったが、清司ではなく冬也VS大樹で将棋をしたときも、蔵の王が喜んで観戦していた気配を大樹は感じ取っていたからだ。

 

 蔵の王は、座敷童としての自分の存在を察しようと察しまいと、八真名の家の者を平等に護ってくれている。 

 家の者同士が仲睦まじくしていることを、何よりも座敷童は喜ぶ――大樹はそのことをちゃんと感じ取っていた。


「お前は親父が亡くなった後も、蔵の王様の加護受けられているんだったな……」

「俺だけじゃなくて、うちの家全体だよ。僕だけが加護されてるわけじゃない」


 つぶやく冬也の言葉を、大樹は訂正する。


「そう言われても、儂らには見えんからなぁ……」

「僕も見えてるわけじゃ無いよ。昔は見える人もいたらしいけど……」

「ああ、言い伝えでも、子孫への申し渡し書でも、そんなことが残されてるな……。儂には見えんが……」


 念押しのように言う冬也は、恐らく座敷童を感じられないことに対する負い目があるのだろう。

 自分の身に置き換えれば大樹にもその気持ちはわかるので、苦笑いを浮かべて聞き流す。


 座敷童の存在を察することが出来たり、見える者が生まれたら、八真名の家は大発展する。

 そう言われていて、実際にその成果が残ったのが今の八真名家だ。

 否定することなど、八真名の家に生まれたものにできはしない。


 そして、大樹の希望通り、八真名の家でのパーティー開催となったのだけど……。




「馬っ鹿じゃないの!なーーーーーんで、いるかいないかってか、いないに決まってるよーなもんに気を使って、こんなしょぼいパーティーにしなきゃなんないの!せっかくなんだから、ぱーっ!と豪華にホテルでなんでやんないのよ!」


 パーティー当日、祖母と母に向かって文句を言う華子の姿があった――。

人も身勝手だけど、勝手に護っている座敷童ももしかしたら身勝手なのかも?


お読みいただき大変ありがとうございますm(__)m

(月)(金)を目安に更新しております。

よろしければぜひまた続きを読みに来てください(o_ _)o))

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ