美幼女出現!
今回の銀河さんはちょっと屁理屈なおっさんですw
「お、黄魚?」
つい問うてしまうクロ。
側にいて、変化する瞬間も見ていたのだからわかっていることなのに……。
それでも、二〇才半ばに見えていた美女の姿が、一瞬で美幼女に変わられては狼狽えてしまう。
そう、美幼女。
身にまとっているのは、枝葉つきの向日葵が染められた紺地の浴衣と、絞りの入った黄色の兵児帯。
くるぶしより上の、ちょっと短め丈だ。
とても座敷童らしい、子供らしい身支度。
だが黄魚自身には、いわゆる幼子らしい甘い可愛らしさは一切なかった。
幼子らしいふっくらした頬と顔色だが、切れ長の美しい目、墨ですっと描かれたような綺麗な眉、すっきりした鼻筋、くっきりした唇のライン、引き締まった口角――。
髪形は前下がりのショートカットで、直毛でさらさらした髪をシャープに見せている。
表情は本来の童の姿になっても相変わらず薄く、それがよけいに、黄魚の人外としての美を際立たせている。
「おやまぁ…。ずいぶん急に戻りましたねぇ」
白波がおっとりと言う。
言葉の内容だけなら驚いているようだが、実際はそんな気配は全くない。
起こるべきことが起こって、その確認をしているだけだ。
そんな白波の様子を見て、一瞬驚いて立ち上がりかけたクロも腰を落ち着かせる。
「なんか、戻った」
とつとつした話し方は、相変わらずの黄魚だ。
ちなみに黄魚曰く、しゃべりが下手なのは、河童は水の中で暮らすので、仲間といても互いに話すことはほとんど無かったため、しゃべることに慣れなかった――という事らしい。
「見る限り、完全に力を取り戻しておるようだな……」
銀河が感慨深く言う。
「羨ましいのー?」
紅が茶化すように言うが……。
「いや、それは無い」
即答する銀河。
「ワシはまだ、ここでのんびり菓子を食っとる方が良い」
そう言って、味わうように皿に残っていたくるみ餅を口へと運ぶ。
「だよねー」
紅もそう言うと、食べ終わっていた自分の皿を黄魚の皿と重ねて、部屋の隅に置かれていたお運びの上にかたす。
「あたいも、そう……」
紅の動きを目で追っていた黄魚は、そう言うと次の瞬間には、クロの見慣れたいつもの美女の姿に戻る。
「おや、戻らないんですか?」
「戻る家、無い――」
白波の『戻る』には、二つの意味が込められていたが、そのどちらにも黄魚は首を横に振る。
「ここに、居る……」
「ええ。童のあなた達が納得するまで、どうぞここでゆっくりして下さい」
白波がそう言って、優しく笑った。
※※※※※
「……戻る家の有る無しなんて、いったいどうやって知るんだ?」
クロがぼやいた。
白波が片づけのためにお運びを持って囲炉裏部屋を出、紅が緑花と紫鏡のところへくるみ餅の配達に行った後、残った三人――クロ、銀河、黄魚は縁側に出て外を見ていた。
三人並んで縁側に腰掛け、ぶらぶら足を揺らす。
囲炉裏部屋の縁側は門の方に向いていて、玄関から門まで続く、並木道に縁どられた砂利道が良く見通せた。
クロには、自分があの門を抜けて向こうへ行く姿が想像できない――。
(本当に力が戻って、あの門から出て行けるんだろうか?)
「井戸に、映るよ」
クロのぼやきに黄魚が反応し、クロも黄魚の方を見る。
「んー、井戸?井戸には俺らの罪が映るんだろ?」
「罪ばかりとは限らんぞ」
クロの疑問に銀河が答える。
「あれ、そうなんだ?」
「見せられることが多いがな……」
銀河が苦笑いしながら言う。
「……あれ、また見せられるのって、御免なんだけどな――」
華子はクロにとって、お気に入りの家の者だったわけではない。
だが、守護すべき家の者だ。
それが事故に遭い死にゆく様を、何度も見せられてはクロの気が持たない。
たとえ自分が助けたと知ってはいてもだ。
「おおかた自分の罪と向き合わなくては、次に進めぬということなんだろうさ」
「でも、クロ…飛び込もう、とした」
「うん?」
黄魚が言って、クロを見る。
「罪に、飛び込もうと、したんでは?」
小首をかしげてクロにそう問う黄魚に、クロは首を横に振る。
「それは違うな……。だいたい俺、華子を助けたことが理に逆らう罪だと言われても、あの状況になればきっとまた同じことするぞ」
飛び込もうとしたのは、罪に沿うためではなく、また助けようとしたからだ。
家の者に幸運を運ぶのが、座敷童の本能であり運命。
守るべき者が命を落としかけたら、助けるために力を尽くす――。
「それで良いんじゃないか?」
「あん?」
銀河は、クロが家の者を助けるために理に外れたことを肯定する。
「良い、の?」
「いいのかよ?俺、罰受けてんだけど?……てか、ここにきてる皆、そうなんだよな?」
理に背く力の使い方をしたから、その罰としての力の喪失――。
首を傾げる黄魚とクロ。
それに銀河は鷹揚に頷く。
「ワシも罪だと言われ、向き合うように諭されたが……。過ちだったとは、言われておらんからな」
銀河の指摘に目を見開く二人。
「そう、いえば……」
「確かに……。え、いやいや……待て!罪って、やっちゃいけないことじゃないのか?」
「理に背いたことが罪だ――と、言われただけだ」
黄魚は銀河の言葉に納得し、クロは納得しかけて首を振る――が、銀河は澄まして過ちではなかったと言う。
理に背くことが、やってはいけない事=過ちなんじゃないかとクロは思うが……。
「よくわからん!」
途中で悩むのを放棄した。
「どうせ、今は力失って家に戻りようも無いし、戻る気も無いし!」
むくれた顔で門を睨む。
今日も門はしっかりと閉まっていた――。
『お運び』とは持ち手のついた長角盆のことです。多人数に一度に配膳したいときに使います。
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