山にて遊ぶ
「黄魚ー、山ブドウってどこで見たのー?」
先頭をきって、山道を機嫌よく登っていく紅が、後ろをついていく黄魚を振り返って聞く。
「もっと、上行って…沢に行くとこ……」
「……ああ、あの辺りか。そういえばワシも見た気がするな……」
紅に答えた黄魚の返事を聞いて、銀河が思案気に言う。
「あ、わかったー!大岩のとこから、沢を下って行くんだよねー?」
ちょっと考えるように紅は足を止めたが、またすぐに元気よく進んでいく。
「沢まであるのか……この山――」
「湧き水が湧いているからな」
ぼそりとつぶやいたクロの言葉に、銀河が答える。
山の中腹に大岩があり、その下から湧き水が湧き、沢となって下の川に流れ込んでいるらしい。
水を飲みに鳥や獣が集まってくるので、その結果として彼らが食した実の種等が、沢周辺に落ちて芽を出すことになる。
「ふーん……」
山の頂上から向こうはこっちという不思議山なのに、山の幸が豊富で水源まであるというのは、里山としてかなり優秀だ。
それに標高はさほど高くは無いけれど、裾野は割と広い。
「いい山じゃないか……」
タロが暮らしていたのは、険しくて厳しい山の側だった。
吹きおろしてくる風はきついし、冷たいし、冬には雪も積もっていた。
山に住む獣は、兎や狸などの小型のものだけでなく、猪や狼や熊などの猛々しい獣も多くいて、薬草などを取りに山に入るタロが、熊に襲われそうになったことも何度かあった。
井戸はあったが、田んぼにするほどではなく、畑を何とか維持できる程度――。
もしあの山がこの山みたいに穏やかで、幸が豊富で水に困らない環境だったなら、もっとタロ達は楽に暮らせただろう……。
何百年も前のこととはいえ、なんだか思い出して、理不尽に感じた。
「この山は、人が海に捨てた山だ」
少しむくれた気分になっていたら、クロの肩に止まっていたスズメがそう言った。
「捨てたって、山を?」
「そうだ。人が住む場所を広げるために、人はこの山を捨ておったのよ」
「まさか!」
元山童のクロにしたら、山を捨てるなんて考えられない。
山は人の暮らしの源だと、ずっと思っていた。
「本当だ」
「そんなことしたら、山神様がお怒りになるはず――」
驚くクロにスズメは淡々という。
「怒るより、酷いことになった。呆れ果てて、見捨てていきおったのよ。なんで、こっちが拾ってここに置いた」
「そんな……」
絶句するクロに銀河が言う。
「おいおい…。人の世では山を捨てるなど、しばらく前から頻繁にある話だぞ?この山は、そう頻繁になるよりもかなり前に捨てられたからここに拾われてきたが、大概の山は海に捨てられたままになっとる」
「うむ。こっちも、そうたくさんの山は置けんからな。まぁ、あっちはもう海のものになっておるわ」
銀河の言葉にスズメが頷く。
とんでも空間な界ではあるが、許容の限界はあるようだ。
「そんな……。まさか、人が山を捨てるなんて……」
「お前さんは、本当に守護家から出なかったんだなぁ……」
いかにも世間知らずのように言われ、クロは言い返したいが言い返せない。
「家の者が話しているのを見聞きして、テレビやインターネットだって見てたけど――」
座敷童の身では、あちこち出かけて見分を広めることなど出来っこない。
それにしたって、まさか人が山を捨てる世の中になっているとは、元山童として思いもしていなかった。
黄魚がここにいる精霊たちは逃げてきたんだと言っていたが、そりゃあ山が無くなれば、行き場を無くして逃げるしかないだろう。
「え?でも銀河はなんでそういうの知ってるんだ?」
「ワシはここにきて長いからな。ここに来る他の童や、スズメから話を聞くことができる。あとはたまに風の精霊も、外の話を持ってくることがあるな」
あやつらは、噂話が好きだから……。
と、最後は付け足すように銀河が言う。
「……というか、あいつらはどうした?」
「え?」
あいつら――先を行っていた紅と黄魚の姿が、いつの間にか見えない。
「あれ?脇道なかったよね?」
獣道なのでまっすぐではないが、脇道らしき脇道はなかったはず。
黄魚の言う沢への道もまだ先だと、銀河は言う。
「とーっ!」
首をひねっていると、勇ましい掛け声とともに、紅がブーン!と飛んできた。
「やぁぁぁ~」
紅に間を置かず、頼り無い掛け声の黄魚。
二人はクロと銀河の目の前に飛んできたと思うと、またブーン!と後退していく。
「きゃはははははー!」っと、笑う紅の声が響く。
「あー、あいつら、蔦にぶら下がってるのか!」
振り子のように行ったり来たりする姿に、クロは声を上げる。
「目的を忘れて、すっかり遊んでおるな……」
クロの肩から飛び立ったスズメが、宙で羽ばたきながら呆れた声を出す。
「ほー、面白そうだな!」
銀河はそう言うと、木々を見上げて走り出す。
すぐに手ごろな蔦を見つけて飛び上がり、同じようにぶーらぶーらと蔦を揺らして遊びだした。
「えー?山ブドウどうすんだよ!」
「遊んでからで、イイじゃなーい?」
クロの抗議に紅が返す。
「それも、そうか……」
紅達が楽しそうに遊んでいるのを見て、クロだって当然遊びたい。
だって、座敷童なのだから!
そしてクロも一緒になってターザンごっこで遊び倒し。
その後は山頂からの枝飛ばしに興じ(他に誰もいないからできる)たり、沢に入って沢蟹を探す競争(黄魚八匹、クロと銀河六匹で同率、紅五匹。黄魚の優勝!)したり……。
夕暮れ、そろそろ館に帰る時間だとスズメに言われて、ようやく山ブドウのことを思い出す……。
「あ、忘れて、た……」
「だねー」
「仕方あるまい」
「ま、明日でいいか!」
「……おぬしら……」
真面目なんだけど、どこか呑気でいい加減なところもある座敷童たちだった。
ずいぶん昔に『かわらけ投げ』って、小さい素焼きのお皿を谷に投げて遊ぶ遊行施設が某山頂遊園地にあったけど…。ああいう遊びって、環境問題とか安全性を考えると、きっと今は無いんだろうなぁ…。
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