童、それぞれ。
「えー、井戸に飛び込んだのー?」
紅があきれ顔でそう言う。
「いや、飛び込む前にこっちが止めた」
「オデコに激突されて、尻もちついたよ……」
不満気に言ったクロに、スズメは笑う。
「井戸の深さは大したことはない、水深も一メートルほどだ。あれで座敷童が怪我をすることは無いだろうが、自力では上がれんのでな、連れて上がるのはこっちの手間だ」
それが面倒だったので、飛び込む前に止めたのだとスズメは言った。
「あの程度の深さなら……」
「普通の井戸でないのは、見てわかったろう?」
言いかけたクロの言葉を、銀河が遮る。
「それは……」
「スズメが無理だと言うのなら、ワシらが自力で上がれる井戸ではないということだ」
「……」
「来て早々だもん、仕方ないよー」
けらけらと紅が言い、黄魚も頷く。
「あたいは、倒れた……」
「そうだったねー。遊びに行ったっきり全然帰って来ないから、様子見に行こうと思って勝手口から出たら、井戸の横で倒れてたんだよー」
井戸は勝手口の目の前にあるから、戸を開けたらそこに黄魚が倒れていたということ――。
「そりゃ、びっくりするよね……」
クロが同意すると、銀河に軽く頭を小突かれた。
「いや、目の前で井戸に飛び込みかけられるのも、大概だと思うぞ?」
「う……」
「まぁ、みんなそれぞれよー?でも泣いちゃうのが多いかなー。あとはその場で固まっちゃってたりー、黄魚みたいに気絶するのも意外とあるかもー?」
「逃げ出そうとしたのも、過去には何人かいたな」
銀河の言葉にクロは顔をしかめる。
「逃げてどこ行くんだ?というか、あれが罪だというのなら、自分の罪から逃げようとした童がいるっていうことになるぞ?」
逃げたくなる気持ちはわかるが、同じ座敷童としては腹立たしくも感じる。
「だからー、童それぞれなんだってば―!」
「そうそう、誰かさんは石を投げこもうとしたんですよ?」
声を荒げたクロをなだめようとした紅、そこに白波の声が被る。
両手でお運びを持って、囲炉裏部屋に入ってきた。
「だってー、腹立ったんだもーんっ!」
ふくれっ面をする紅。
「だからって、わざわざ河原まで行って、漬物石にできそうなほどの石を運びます?」
「あたしは運ぶー。てかー、運んだ!」
「ったく!井戸の底が割れたらどうしてくれる、繕う羽目になるのはこっちだぞ」
胸を張って言う紅にスズメが苦情を言うが、紅に悪びれる気配は無い。
嫌なものを見せる井戸が悪いのだと言い切る様子は、いっそ小気味よいほどだ。
ちなみに紅もクロと同じく未遂で、投げ込む直前にスズメに止められている。
「ワシは固まったな……。ただ、ただ、あの光景を見ながら、井戸の縁を掴んで立ち尽くし続けておったと思う。涙も出んかった」
「アオはぎゃんぎゃん泣き続けてたー。それもねー?クロが会った童の姿じゃなくってねー、三〇才位の背広着たおっさんの姿で泣いたんだよー」
「おっさん……」
「ほう……。三〇才でおっさんだと、ワシはどうなる?」
「おじいちゃんー?」
銀河が低い声で紅を脅すように言うが、紅に気にした様子はなく、銀河は苦笑いになっている。
おっさんだの、おじいちゃんだの、本来の座敷童の姿であれば決して言われることのない名称だ。
「どんな姿であろうと、今のあなた達がまだ座敷童であることには変わりませんよ」
白波が会話に割って入って、それぞれの前に水無月の皿とお茶を置いていく。
お茶は暖かい緑茶。爽やかで上品な香りがふわりと舞う。
「……ああ、そうだ。クロは追い小豆どうします?つけますか?」
「追い小豆?」
聞いたことの無い言葉にクロは首を傾げる。
そんなクロに向かって、紅が自分の皿を示す。
「これよー」
「ん?それ……」
見れば水無月の上に、こんもりと粒あんが乗せられていた。
「は?」
現物を示され、粒あんを後から乗せることだと、言葉としては理解したが……。
「え、水無月って小豆乗ってたよね?」
「ええ、ですが水無月に乗っているだけじゃもの足りない、小豆大好きな者もいるんですよ」
「美味しいよー」
「甘すぎない?」
水無月の外郎部分にも、乗っている小豆にもちゃんと甘みはついている。
「甘さの質が違う。黒糖の少し酸味のある甘さに、こっくりした粒あんの甘さが合わさると、非常に美味だ!」
スズメがご機嫌で水無月をつつきながら言う。
平皿に盛られた水無月を、クチバシで器用に食べている。
「ワシらは乗せんがな」
「……」
そういう銀河と横で頷くのは黄魚。
数としては、二対二。
「少しだけ……。ちょっと試してみる」
そう言って興味津々で、白波の手元を覗き込むように見るクロ。
そんなクロに優しく笑って、白波は粒あんを盛りつけた。
「て、言うかさー」
ぺろりと水無月を食べ終えた紅が言う。
「クロ、良くぞ黄魚連れてこれたわねー。えらい!えっらーいっ!」
手を大きく振り回す、身振り付きの盛大な褒め方にクロは苦笑いする。
黄魚のフリーダムさを見た後なので、大げさとも言い切れないのが困ったものだ。
「……河原で会ったんだよ」
「鮎になって、泳いでたら、来た」
「ほう、良く黄魚とわかったな」
銀河が感心したように言うが。
「いや、わかんなかったよ。ずいぶんでっかい鮎がいるなーって見てたら、ザブンっ!て跳ねて、いきなり俺の横に立ったんだよコイツ」
「なるほど……」
でっかい鮎のところで、黄魚はふふん!と言う顔で胸を張る。
「あたい、ちゃんと、鮎に化けれてる。エライ!」
「うー、良いなぁ……。あたしも何かに化けれたら面白かったのになぁー!」
「あ、やっぱり普通は出来ないんだ……」
悔しがる紅の言葉へのクロの反応に、白波が首を振る。
「普通出来ないというわけじゃ無いですよ。できる者も、できない者もいるということです」
「前身によるとか?」
「引っ張られやすいのはあるようですが、決まっては無いですねぇ」
「つまんないー!」
「紅には必要なかったということでしょう」
ぷーっと膨れた紅に白波は笑う。
笑いながら、囲炉裏部屋に姿を見せなかった緑花と、寝たきりの紫鏡の分のおやつの皿を託している。
「緑花が追い無し、紫鏡はたっぷりの追い有りのほうです」
「了解ー!てかさー、クロは何しに河原なんかに行ったのー?」
紅がクロに聞く。
「別に石を拾いに行ったわけじゃ無いぞ」
ニヤリと笑って言ってやると、紅はわかりやすく顔を赤くする。
「べ、別にそんなこと言ってないでしょー!」
クロももちろんわかっているが、からかいやすいから、ついからかってみただけだ。
「お山……」
「ん、どうした黄魚?」
ポツンと黄魚が呟き、その呟きを銀河が拾う。
「行こうと…、してた?」
「誰がだ?」
「クロ……。でも、あたい、一緒だと、イヤって……」
つぶやきながら、黄魚がわかりやすく凹んでいく。
「ちょっと、クロ!あんたなんで黄魚イジメてるのよーっ!」
「いや、待て待て!いじめてないって!」
「じゃあ、なんで黄魚あんなんなってるのよーっ!」
「わからん!」
「わからんじゃないわー!!!」
「ええー?俺は悪くない!うん……。はずだ…多分――」
その後、クロの黄魚イジメ疑惑は晴らせたが、紅が水無月の配達を終わらせた後で、黄魚だけでなく紅、銀河、スズメも一緒に、里山散策をする約束を取り付けられた。
追い小豆というのはぐらごんが勝手に言っている言葉です。
友人等に言ったらまったく伝わりませんでした(;^_^A
でも、追いカツオとかあるんだから、追い小豆って言葉も有りじゃないかと思ってるんですが……。
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