表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/379

メビウス?な、川と山

「そういえば、この川って下って行ったらどこに着くんだ?」

「上」

「はい?」


 聞き返したクロに、黄魚は右手のほう――川上を手で示す。


「上に行ったら、下――」


 川下に向かって泳いでいくと気がつけば上流にいて、上流に向かって行ったのに気がつけば下にいるのだと。


「ゆっくり泳いでも、全力で泳いでも、人型でも、鮎の姿でも一緒。いつもぐるぐる回ってる」

「なにそれ?メビウスの輪になってるのか?」

「メビウスの輪?」


 首を傾げる黄魚に、クロは傍にあったススキの葉をちぎって輪にして見せる。


「ほら……こうやって普通に輪っかにしたら、裏表があるだろ?でもこうやって、一回ひねって繋げると……」

「おおっ!」


 メビウスの輪にされたススキの葉を見て、黄魚は目を丸くする。


「裏と表が繋がった!裏表がない!凄い、凄い!」


 絶賛する黄魚に、クロは苦笑いする。


「どっか他所の国の人間が発見したんだってよ。うちの家の子が、なんか宿題で調べてるの見てたんだ――」


 代が変わって、もうその時の子供はいないけれど……。

 

 クロはメビウスの輪を、自分が知ることになった子供のことを思い出す。


「あの子は俺のこと見えないけど、気配はなんとなく感じてたんだよなぁ……」


 だからクロの方も何かと気にかけて、子供が家にいるときはできる限り側について、色々うまくいくように力を使った。


 子供の方も代々の言い伝えを聞いているから、そうと悟って、ことあるごとに座敷童に感謝し、それだけでなく本人も怠けなかった。

 自分が他家の人間より運がついていることに気がついてはいたが、それに甘えることなく勉強し――。

 その結果、その子供は大人になってからは数種の新薬を完成させ、医薬博士として名を馳せ、家業の製薬会社は大きく発展した。 


 今のあの家の豊かさは、座敷童の幸運を呼ぶ力と、それに甘えすぎない代々の家の者の努力の賜物だ。

 なのに――。 


「今の家の子は、あいつの玄孫になるんだっけ……」


「その子のこと、ものすごーく、気に入ってた?」


 思い出にはまりかけたクロの思考を、黄魚の声が引き戻す。


「……うーん、そうだな。結構気に入ってたかなぁ。俺に気がついてたし、家族思いで家族に感謝をしてた」

「おお!それ、大事。とっても大事!あたいたち、座敷童なんだから」

「うん、それにすっげー頑張り屋な子供だった」

「うんうん、頑張り屋さんな人間、いいよね!見ててね、嬉しくなるの。力を、もっと、もっと!って、あげたくなるの」

「なんだよなー」


 座敷童は家を護る精霊。その糧は家に暮らす者の『良』の気。

 特に家の者が、その家の者を大切に気遣い、感謝する心は座敷童の力となる。

 そして、人間が大好きで、特に頑張る人間を見ると嬉しくなる――それが、座敷童。


「今はダメだけどな……」


 身勝手で、家族のことなんか考えず、自分のことばかり優先させようとして、クロの力はどんどん削られていた。

 努力もせずに、成功する者を羨むばかり――。


「仕方ない。人間はどんどん変わる」

「なんだよなぁ……」


 クロと黄魚は互いに苦笑いし、川面に目をそらした。


「そういや、あの里山の向こうはどうなってんの?」

「こっち」

「は?」

「里山の向こうはこっち」

「……まさか」


 黄魚は頷く。


「川と一緒」

「マジか……」


 山の頂上を一歩超えると、こちら側を向いているという。


「メビウスどころか、空間がゆがんでる?」

「さぁ?でも、キノコあるし、ゼンマイ、ワラビ、こごみ、山ブドウ……木苺もあった。摘んでいくと、白波が喜ぶ」

「白波、そんなの食うの?」

「食べ物大事」

「……そっか、一応人間なんだっけ?」

「……」


 無言が返る。


「そういや、山に精霊いた?」

「いる。川にもいる。でも力が弱い子ばっかりで、一緒には遊べない」

「そっか……」


 精霊がいるなら、山の恵みも期待できる。


「逃げてきたんだって。あたい達と一緒。だからいじめちゃダメ!」

「いや、イジメんよっ!」


 勝手に誤解というか、思い込みでふくれっ面をした黄魚の言葉を、あわてて否定する。


「畑で気配があったから、こっちはどうかなぁ……って思っただけだよ。形は変わっても仲間だろーが、イジメたりしねーよ!」

「なら、いい」

「てか、逃げてきた?」

「そう」


 今の人の世に、精霊が心地よく過ごせる場は少ない。

 少ない中にもいるにはいるが、居場所を無くし苦しむ精霊も多くいる。

 大概の精霊はそうなるとやがて消えていくのだが、運よくこの界に辿りつけるものもいるということ。


「あたい達も、多分、運が良かった」

「そうだな……」


 黄魚の言葉にクロは頷く。


 力を放出しすぎて本来の姿を失った時、クロは我を失い暴走しかかった。

 そんなクロに近くにいた風の精霊が気がついて、ここの門前まで導いてくれたのだ。

 

 守護家は座敷童が守護すると同時に、座敷童のことも護っているのだが、その時のクロは家の子を護ろうとして門から出ていた。

 もしあのとき暴走を起こしていたら、自分の身だけではなく守護家をも巻き込んで、何か(わざわ)いを引き起こしていただろう――。

 座敷童なのに、守護する家を守護できず、逆に災いをもたらしたとしたら――消滅ならいい方で、悪鬼になってもおかしくはない。


「運が、良かったな――俺」


 しみじみ言ったクロに、黄魚は重々しく頷いた。


お読みいただき大変ありがとうございます。

(月)(金)を目安に更新しております。

ぜひまた続きを読みに来てくださいm(__)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ