座敷童は人が好き?
いつもの囲炉裏部屋――。
部屋にいるのは、スズメ・白波・銀河・アオ・紅・クロ。
緑花は隠里の顛末を見届けた後、スズメ・クロと共にここ――座敷童療養所に戻ってきたが、囲炉裏部屋に顔を出していなかった。
なので、三人(人?)のお出かけ中のことを知りたがった、お留守番組への報告は、スズメとクロの役割となる……。
「え、崖ごと落としたって?!はぁー、緑花って、見た目お淑やかに見えるのに、やること結構過激だなぁ…」
緑花の嫌がらせの顛末を聞いたアオは、驚いたー!と言った後、パクン!と一口で葛饅頭を頬張った。
「あ!うわー、アオないわー!葛饅頭を一口とか、ないわー。それじゃあ、せーっかくのつるん!を楽しめないじゃないのー」
「一口で食った方が、喉をつるん!と滑る感覚楽しめるんだよ!」
「嘘ぉー?」
「ホントだって!やってみたらわかるから!」
今日のおやつは葛饅頭。
艶々と透き通った葛の中に餡が包まれている。
紅の言うように、味だけではなく、葛の舌触りのよさも楽しむお饅頭だ。
とはいえ、お茶席でなければ、それぞれの思うまま好きに食べてOK。
アオのように一口でいっても、そうそう喉に引っかかることは少ないだろう。(注:無いことは無い)
因みに今日の餡は二種類。
エンドウ豆から作られた緑色の鶯餡と、小豆のこし餡。
葛を通して、中に包まれた餡の色――緑と赤茶が透けている。
白磁の銘々皿に二つ並んで乗っている姿はとても可愛らしい。
「アオよ、別に緑花は過激と言うわけではないぞ?」
ゆっくり味わうように食べていた銀河が、一口お茶を飲んでからそう言った。
「なんで?崖ごと里を落とすって、かなり過激だぞ」
「そうなってしまっただけで、そうしようと思っていたわけではないと言っておったじゃないか。そうだな、クロ?」
「ああ、そう聞いた。ただ…七〇〇年以上色々な侵食からあの地を護ってて、その守護を一気に解きほどいたから……」
「ガッシャーン!って……?」
「そういう事」
もっとも…解く前にはああなることはわかってはいたが……。
けれど待ち人が来たらあの地の守護を解くと、最初から決めていた緑花に思いとどまる理由は無かった。
「私を捨てて行った者に、私の力を見せびらかしてから、今度はこっちが捨ててやるんだって……そう決めてたの……」
あの隠里があったのは、岬の先端にある崖の中腹。
まるで棚やサルノコシカケのように出っ張った場所。
海にせり出した崖が、風雨や波風の侵食で削られて形成されたものだ。
たまたま、大きな岩があの場所にあった為、そこだけ侵食が遅れてそうなっただけ……。
遅かれ早かれ、既に侵食された他の部分と同じように、いつかは海に落ちていくはずの場所だった。
けれど、そんな場所にあの男が現れ住み着いた。
住み着いた理由は、あの地にあった泉の水に、己の夢をかなえる術を見出したから。
そして生まれたばかりの泉の精霊だった緑花は、そんな男の持つ志に魅せられてしまった――。
せめて、その男だけに対する守護ならそれだけで済んだのに……。
あの男の才能は緑花以外の者も惹きつけた。
いつの間にやら郷や里と言えるほどに、あの地に人が集まって住み着いて……。
緑花は自分と同じようにあの男に魅せられた者達に仲間意識を持つようになり、いつしか彼らを「家」として認識したことで、座敷童になってしまった――。
「……緑花、座敷童に変化したこと、後悔してるのかなぁ」
アオが少し寂しそうに言った。
「どうだろ?」
「本人に聞けばよいだろ」
「それは無理だよ。聞けねぇよ……」
銀河の返事に情けなく眉が下がるアオ。
気にはなるが、聞きにくい事柄だし、聞いてどうする――というか、どうこう出来るものでもない。
「あたしはーしてないとー、思うけどなー」
「けどさぁ、座敷童になったせいで、何百年もあの地に縛られることになったんだぞ?」
座敷童になった際に、祖となった男と交わした約束――それが緑花をあの地に縛る元になった……。
「でもー、緑花ずっと機織ってたもーん。あれってー、その里を護る為だったんでしょー?大ー事に思ってなかったらー、そんなことしないよー」
「嫌がらせの為だろ?それに結局落としちゃったんだぞ」
「落としたんじゃなくってー、落ちちゃったんだよー」
「うーん……」
「落とすしかなかった……が、正解ではないか?」
アオと紅の会話に銀河が入る。
「本来あるべき姿を、座敷童の力を注ぐことで留めていた……。いつか元に戻さねばならないことは、緑花もわかっていたことだ」
まぁ、予想より長期になったのは、意地もあって後に引けなくなったのだろうが……と、銀河は言った。
「嫌がらせーって言いながらー、きっとホントーは、また家の者にー、ただ会いたかったんだよ。だからー、ずーっと力注いで帯織ってたんだと思うなー」
「……なんか、今の紅のセリフが、一番緑花の真を突いている気がする、俺……」
クロが同意の意を表明すると、紅は「でっしょー!」と偉そうに胸を張った。
「そんな偉そばられると、なんか腹立つんだけど……」
少々もにょるクロ。
「きっと緑花は、人のことが大好きなんでしょうね……」
静かに座敷童たちのやり取りを聞いていた白波が、ふっとそんなことを口にする。
「ん?それに関しては、紅もアオもクロも……そしてワシも当てはまるぞ」
白波の言葉に、銀河が苦笑いで言う。
「座敷童は人が好きなもんだ。そうで無ければ、座敷童になったりせん」
「それもそう…ですね……」
「どしたのー、白波ー?」
ちょっと様子が変な白波に紅が首を傾げた。
が、白波は何も無いと首を振る。
「最近、座敷童がどんどん少なくなっているので、なんだか寂しいなって思っただけです。この前紫鏡が、元の姿に戻ったりもしたでしょう?」
「ああ…そうだったな……」
「幸い、緑花はまだ座敷童でいてくれるようですけど…」
そう言いながら、白波は銀河の湯呑にお茶を足す。
「あれ?そういや、緑花どうした?」
「機織ってるーんじゃないのー?」
「いや、もうあの地を護る必要ないんだから、帯いらんだろ?」
「あ、そっかー…。んじゃあ、どこー?」
「さっき、勝手口から外に行くのを見た気がする……」
「えー、止めなさいよー。おやつの時間なのにー」
クロの目撃情報に、紅が口を尖らせる。
「あら、呼んだかしら?」
囲炉裏部屋の戸が開いて、緑花が入ってきた。
「今日のおやつは何なのかしら?」
「葛饅頭ですよ。こし餡と鶯餡がありますが、どうします?」
『噂をすれば影』のごとく、現れた緑花に一瞬気を飲まれ、反応が止まってしまった座敷童達。
が、白波はいつも通りにこやかに緑花に対している。
「ん-、鶯でお願い。二つね」
頷いた白波が緑の透ける葛饅頭を皿に盛って緑花に渡す。
「可愛らしいわね」
「それに美味いぞ」
アオの言葉に緑花は黙って頷く。
「緑花ー、どこ行ってたのー?」
「井戸よ」
「え、井戸っ?!」
井戸にトラウマの有るクロはギクッとするが、緑花は何ともない風情を保っている。
その様子を見て、他の座敷童達は怖いものや苦しいものを見たわけではないと思ってホッとするが……。
「なんか見えたー?」
「あの二人がいたわ」
「あの二人って?……あ、あんたの待ち人と、家の血筋のヘタレ男ってヤツ?」
「……萌と千夜って名だ。ヘタレ男はやめてやれよ……。まぁ、それで誰のこと指しているかはわかるんだけど……」
クロはアオのセリフを一応訂正しておく。
「わかるんなら良いんじゃないかしら?」
「おい、緑花!お前んちのヤツだぞ」
「元だもの。気にするほどのことじゃないわ」
「先の話もあるんではないのか?」
銀河の指摘に緑花は何も言わずに肩を竦め、目を逸らす。
「……で、その二人がね、あの崩落現場に来てたの」
「ほー」
「で、ダイバーを雇うとかなんとか言ってて、お馬鹿よね……。海の中には何もありはしないのに…」
クスクスと緑花は笑う。
彼らが捜していた緑珠の秘伝――なんてものははなからなく、あったのはその素となる水が湧いていた泉。
しかもその泉は枯れていたので、彼らが目で見てわかるものはあの地に一切残っていなかった。
海の中に何も手がかりが無いなんて、彼らはわかりようもない。
「海の中にあるのは、家の残骸?」
「それだってないわ。私の守護を解いた時点で時が進んで、原型なんて欠片も残さずボロボロになっているもの。海に落ちた木っ端なんて、今頃遠くに波が運んでいるわよ」
「あっちゃー」
「えー、それなのにー、ダイバーとかー入れちゃうのー?」
「そうみたい」
無駄骨よねーっと、緑花がにんまり笑った。
その顔を見て、
(これ、本当に人のこと好きなのか?)
と、疑問に思うクロだった。
葛饅頭の作り方(こし餡)
こし餡 : 150g
葛 粉 : 50g
水 : 220㏄
砂 糖 : 80g
下準備
こし餡は6つに分けて丸める。
葛粉と砂糖はふるっておく。
1:鍋で葛粉と砂糖を水で溶かす。
2:ヘラで混ぜながら中火で加熱する。
3:透明になったら火を止める。
4:ラップ(中サイズ20センチ位)を6枚切って、それぞれに葛を乗せる。
※熱した葛はとても熱いのでやけどに注意!!
粘度があるのでとても危険です。
5:葛の上に丸めておいた餡を乗せ、葛で餡を包むように茶巾絞りにする。
6: 絞ったところを輪ゴム等で固定し冷やす。
※冷やし過ぎに注意。
冷えたらほどいて、お皿に盛ったら出来上がり。
葛饅頭って作り方は簡単なんですが、なかなか綺麗に出来ないです><。
お読みいただき大変ありがとうございますm(__)m
よろしければぜひまた続きを読みに来てください(o_ _)o))




