泉にお供え
「ってかさー、あんただって目標あるじゃない。いつかパリコレに出るんだーっ!て、言ってたの、あたし覚えてるんですけど?」
萌の言葉に、千夜は顔を真っ赤にする。
「ひ、人の黒歴史つつくのやめてくださいよ!」
「黒歴史ぃ?なによ、諦めたの」
「諦めるもなにも、中二病な妄言もいいとこじゃないですか……」
「えー、なんでよー。パリコレって、わかりやすくていい目標じゃない」
「……やめてくださいよ……」
萌は不満そうな顔を向けるが、千夜は若気の至りだったと弁解をする。
「世間がわかってない子供の戯言でした…忘れてください……。今言われると、めっちゃ恥ずかしいんですよー!」
「えー、恰好良いじゃない!」
「俺、デザイナーじゃなくって手織り職人ですから……」
「え?だから織った作品をブランドに売り込むんでしょ?んで、それを有名デザイナーの服造りに使ってもらうんでしょ?」
「しません!てか、出来ませんって!」
以前の千夜は結構詳細に、どうやって自分の作品――布を世間に知らしめるかを企んでいた。
が、世の中を知っていく中で今はすっかり壮大な夢は諦め、取り敢えず小さい工房でも立ち上げて、ニッチな需要を確保する方向での将来を考え中だ。
「今となっては、自分の身の程を知ってますから……」
「……むぅ…」
萌は口を尖らすが、千夜が本気で嫌がっているのがわかって、それ以上つつくのをやめる。
「……それより、萌先輩何してるんですか?」
「んー、祭壇作ってます。簡易で申し訳ないけどね」
「祭壇?」
萌は泉の傍に、その辺の石を集めて平たく並べている。
「古文書に、泉を護っている守り神がいるから大事にするようにって書いてあったでしょ?」
「泉、枯れてますけど?」
「そりゃあ大事にしてなかったんだから、そこは仕方ないんじゃない?」
萌は一尺盆位に石を敷き詰めると、その上に蕗の葉を一枚ちぎって置き、リュックからタッパーを出した。
「なんですか、それ?」
「草団子よ。千夜も食べる?」
萌は蕗の葉に数個団子を置いた後、もう一枚蕗の葉をちぎり団子を乗せて千夜に渡す。
蕗の良い香りがその場につんと立つ。
千夜はすっとその香りを吸い込んでから蕗の葉を受け取った。
緑の蕗の葉の上に、より鮮やかな緑色の団子――団子には黄な粉がまぶしてあって、その抑え目な黄色とのコントラストが美しいと思う。
「粒餡ですか?こし餡ですか?俺、粒餡派なんですけど……」
「何にも入ってないよ。言ってみれば素団子?」
粒餡なら嬉しい――と言いかけた千夜は、萌の言葉にえーっ!と不満の声を上げた。
「は?素団子ってなんですか、うどんじゃあるまいし!餡の入ってない団子なんて有りですかー?無しでしょ!」
「んなことないもん!こっちのほうが、蓬の香りが際立って美味しいんだから!それに黄な粉はかけてあるでしょ。贅沢言うんじゃないわ!」
まず食べてみろと、萌は千夜の抗議を却下する。
「信じらんねー、いったいどこで買ってきたんですか。俺、餡無しの草団子なんて売ってるの見たことないですよ」
「そんなことないわ。少ないけどスーパーとかでも売ってるわよ。あと百貨店の催事でも見たことあるし。でも、それはあたしの手作りよ。河原の土手で美味しそうに茂ってる蓬見つけたから作ったの。新芽の蓬は特に香りがいいんだから!」
売ってるヤツより絶対美味しい!そう主張する萌に、千夜は驚く。
「……え、萌先輩の、手作り?」
「そーよー、だからありがたがって召し上がれ!」
萌がそう言って、おーほっほっほ!と悪役令嬢めいたわざと笑いをするのを千夜は苦笑いで見た後、恐る恐る団子を齧った。
「……ん?あ、ほんとだ、美味いこれ!」
「でしょー?白玉粉と砂糖と茹でて刻んだ蓬をお豆腐でこね合わせて、茹でて、浮き上がってきたら出っ来上がりー!なんだよ。超簡単!でも、美味しいの!蓬って染液の材料にもなるし、食料にもなるし。めっちゃ優秀よね!」
自慢げに萌が胸を張る。
どうやら染料のネタを探しに行ったついでに、食べる用の蓬も摘んできたということらしい。
「主張する論点がなんか違う気がしますけど……。てか、豆腐?」
「理由は知らないけど、お水の代わりにお豆腐使うと柔らかいのが長持ちするのよ」
「豆腐の味、わかんなかった……」
「蓬の香りの方が強いからねー。ま、美味しければなんだっていいのよ」
「まあ、そうだけど……」
「で、それはそうと……」
萌は泉の縁にお供えした団子を見ながら千夜に問うた。
「こういうお供えするときって、なんて言って拝むのか知ってる?」
「はい?」
萌は困り顔で首を傾げる。
「だって仏さんじゃないから、南無阿弥陀仏は違うでしょ?」
「ち、違うでしょうね……」
思いもしなかった問いに千夜も混乱してしまう。
「般若心経かな…?でもあたし、はんにゃーはーらーみたー……までしか覚えてないしなぁ……」
「……あれも仏教ですって…」
千夜がため息をついて言う。
「うっ、そっか……」
二人して蕗の葉に乗せた団子を見つめる――。
「『ありがとうございます』……は?」
千夜がふっとそう口に出した。
「え?」
「えーと…昔、高校受験受かって、その報告で老人ホームに入ってた本家のひいばあちゃんに会いに行ったとき、ひいばあちゃんが窓辺にお菓子並べて、そう言って手合わせたんですよ。千夜が会いに来て嬉しい…。千夜に良いことあって嬉しい…。だから、良いことを呼んでくれたご縁に『ありがとう』を伝えるんだって言って……」
仏壇とか神棚とかじゃなく、ただ普通の窓辺にお菓子を並べて、嬉しそうに空を見つめたあと、手を合わせて「ありがとうございます」そう唱えたと――。
そのときはなんだか恥ずかしいと思ったが、こんなにも喜んでもらえて、行って良かったとも感じた……。
「……ご縁かぁ…。そ、だね…縁が無ければきっとここに辿りつけなかったよね…。そっか、確かに『ありがとうございます』っていいね!」
「それとそのとき泉の守り神様は、うちの座敷童になってたって言い伝えもあるって言ってて、だからお供えはお菓子が一番なんだって……」
座敷童は子供でお菓子が好きだから、お菓子を並べたらしいと千夜は言った。
その言葉に萌は目を丸くする。
「え、座敷童?そんなの古文書に書いてあった?あたし、見落とした?」
「古文書には載ってないですよ。家の者にだけ伝わる口伝ってヤツです」
「く、口伝……。色々あるのね、あんたんち…。なんか凄い…」
萌が感心したように言うが、千夜はただの言い伝えで実際に見た人はいないし、座敷童の恩恵なども感じたことはないと言った。
「うーん……それってもしかして、この泉が枯れたせいとか……?」
大事にしろってご先祖に言われたのにしてなかったんだよね?
そう指摘する萌に千夜は首を傾げる。
なにしろここに来たくとも、今の今までたどり着けなかったのだ。
大事にしろと言われても困ってしまう。
それに何百年もまえのことだ、古文書や口伝はあるが、どれがどう正しいかとか、どこが間違っているのか?なんて、今さら誰にもその真偽の判定は出来ない。
「どうでしょ?」
首を傾げる二人だったが、萌は気を取り直すように軽く頭を振って地面に膝をつく、そして簡易の祭壇に向かってきちっと正座をし、三つ指をついて「ありがとうございます!」と頭を下げた。
それを見ていた千夜が、慌てて右に倣えと同じことをしたのは言うまでもない……。
そして二人は、そんな自分たちが、座敷童プラス1達に、微笑ましく見られていたなど……まったく気がつくことはなかった。
お読みいただき大変ありがとうございますm(__)m
よろしければぜひまた続きを読みに来てください(o_ _)o))
『草団子:アンコ無し』
白玉粉 : 200g
豆腐 : 約250g
砂糖 : 30g
蓬の葉 : 一掴み
重曹 :少々
蓬は良く洗ってゴミ等取り除き、重曹を入れた湯でゆでる。新芽なら重曹でなくても塩でOK。
刻んですり鉢ですりつぶす。(またはフードプロセッサー)
団子粉 豆腐 砂糖 すりつぶした蓬を混ぜてこねる。
※耳たぶくらいの柔らかさ。蓬の水分量は状況で色々変わるので豆腐量で調整する。
1個づつ丸めてちょっと凹ませる(またはちょっと摘まむ)。
※まん丸より黄な粉や餡が絡みやすくなる。串にさすならまん丸で。
沸騰した湯でゆで、浮き上がってきたら弱火にして1分。
お湯から上げて冷水で冷やしたら出来上がり。
そのままでもOK。物足りない時は黄な粉をまぶしたり、餡を乗せる。
てか……100話まで来たわー(*^^*)




