プロローグは台所から
人間に裏切られ、傷ついて力を無くした座敷童たちのお話しです。
コンロの前でへらを動かす手を止めて、鍋の中を確かめる。
「んー、もういいかな?」
鍋の中身を軽くへらですくって確認するのは、紺色の作務衣を着た十五歳くらいの少年。
背の高さは一六〇センチほどで、黒髪と濃いこげ茶の瞳、少し陽に焼けた黄色人種系の肌。
髪はまっすぐで、背中の真ん中くらいまでの長さがあり、後ろで一つにまとめている。
日本人――だが、少し標準より彫りが深い目鼻だちで、美少年系に入る容姿だ。
彼がへらでかき混ぜていたのは、もっちりした透明感のある物体。
つやつやとして、とても美味しそうな気配を放っている。
材料は、ワラビ粉・砂糖少々・水(新鮮な井戸水)。
これらをよく溶かしてから濾して火にかけ、気長に混ぜ続けたもの。
わらび餅だ。
パチャパチャの白濁した水を、ここまでの状態に持ってくるのはそれなりにシンドイ。
中火で加熱し、透明な部分が出来て来たら弱火に変えて、あとはムラが無いようにかき混ぜ続けるだけだが、透明感が出てくると餅らしい粘りが出てきて、仕上げまでには結構力がいる。
粘りが出てからもしっかり混ぜないと、ムラができて口当たりが悪くなるので、手順は簡単だが意外と奥は深い。
へらから少しちぎって口に入れてみる。
「うん。上出来!」
頑張った甲斐があって、口当たりよく、思った以上に良い感じで仕上がっていて、自然と笑みが漏れる。
あとは一口大に成型しながら、氷水に落として引き締め、ザルに上げたら、黒蜜と黄な粉をかけて出来上がり!
餅本体に砂糖が入っているので、黒蜜がなくとも甘みはあるが、黒蜜をかけたほうがコクがでる。
「今日来る新人さんも、気に入ってくれるといいんだけどな……」
氷水を準備しながら、彼はつぶやいた。
週2くらいのペースで更新出来たらなぁっと思っています。だいたい3日~4日おきの予定。