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おどろ 弐  作者: 沖崎りぃ
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おどろ⑤


 それまで 壁しか見れぬ男の

 眼球がゴロンと 裏返り

 己の脳が 視界の全てとなった

 その脳は ジュクジュクと カビに侵され

 グネグネ、と又はコキコキ、と 動いていた

 その中から 外から

 遠くから 近くから

 ねちゃり、くちゃり、と

 音が 聞こえる


 己の 足が折られ

 腕が もがれ

 ねちゃり、くちゃり、と

 咀嚼(そしゃく)されていく

 しかし 男には見えぬ

 男の視界の全ては 己の脳だけである

 

 肉を削ぐ音が 眼球の近くで鳴る

 脳が ジュクジュクと (うごめ)

 ねちゃり、くちゃり、と 咀嚼の音がする

 女の手が 這い廻り

 女の顔の一部が 動き続け

 蛆が踊り狂い 鼠が噛り合い

 畦が溶け消え 蛙が干からび

 足の長いのが 群がり積もる

 それでも 男の視界の全ては

 己の脳だけである

 その中から 外から

 遠くから 近くから

 咀嚼の音が 響き蠢く


 ねちゃり、くちゃり、

  ねちゃり、くちゃり、

     ねちゃり、くちゃり、


 ねちゃり、くちゃり、ねちゃり、くちゃり、ねちゃり、

 くちゃり、ねちゃり、くちゃり、ねちゃり、くちゃり、

       ねちゃねちゃねちゃねちゃ

  くちゃくちゃくちゃくちゃ


 突然 男の視界が

 鋭利な物で 縦に斬られ

 夕刻の ほの暗い灯りが

 真っ直ぐ一筋に 走る

 次に 太い指がズブズブと めり込み入り

 がばりと その灯りを 割り開けた

 僅かな灯りに 男の目が眩む

 目を閉じたいが

 裏返った 眼球に 瞼は無い

 灯りが増えていく

 その分 頭がこじ開けられ

 脳が 消えていく

 太い指が 脳を鷲掴み 削っていく

 そして 音がする

 ねちゃり、くちゃり、と


 頭が割られ 脳を削られ

 男の視界に 外の景色が映りだす

 大きな男と 子供が見える

 子供が覗く 眼球に顔を近づける

 その顔には 目と鼻と耳が無い

 その子供が 手を伸ばす

 眼球に向け 手を伸ばす

 眼球を掴み 鷲掴み 口だけで 笑う

 そして男の 視界は ぐちゃりと 飛び散り 消えた



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