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おどろ 弐  作者: 沖崎りぃ
2/5

おどろ②


 壁だった板は 朽ちもげて

 腐りひしゃげ(ぬめ)っていた

 僅かに残る板には 気持ち悪い程に

 無数の穴が開いていて

 その穴から ウネウネと (うじ)が出てくる

 しかしその蛆の上を ダラリと液が流れ

 蛆は苦しみ 喉を掻きむしり ぐねりはじめる


 屋根だったトタンは 錆び剥げて

 ちぎれ赤茶け滑っていた

 僅かに張りつくトタンは 生暖かい風に揺れ

 ギィ、ギギギ、と音を出している

 その音から 逃げるように (ねずみ)が這い回っている

 ウジャウジャと 何百匹も蠢きながら

 苦しみ 目を見開き 己身(からだ)を噛りはじめる


 畳だった井草は 切れ腐り

 ふやけ黒ずみ滑っていた

 僅かに原形を留める畳には 漆黒のカビが生え

 ジュクジュクとその数を増やしている

 漆黒のカビが吐き出す息で 空気が(よど)

 茸が溶け 蔦がもがき狂い絡まっている

 あばら家は荒れ崩れ 歪み軋み崩れてる

 霧は晴れる事無く 臭いは吹き溜まり

 全てが滑り澱み壊れ 腐していた


 そこに男が転がっている

 もう何年もそこで 生き永らえている

 男の体は (いびつ)に折れ曲がり

 捻れ ひしゃげ 固まっていた

 手と足と顔が 有り得ぬ位置にあり

 全てと同化しだした体は もう何年も動いてはいない

 血眼(まなこ)だけが動いている

 休み無く ギロンギロンと 動いている

 動かぬ体は 部屋の隅にあり

 動かせぬ顔も 腐りゆく壁に向いていた

 男には 壁しか見えぬ

 血眼(まなこ)を 動かしても 壁しか見えぬ

 腐り続けていく壁だけが 男の視界の全てだった

 

 この先も 壁しか 見れぬはずだった

 何年 何十 何百年も

 腐りゆく壁と 増え続けるカビが

 男の視界の全てのはずだった

 その他の物は 視界には無かった

 何千 何万 何億刻も

 腐り 滑り 溶けるまで

 男には それしか 無いはずだった




 男の視界に

 ある日 異物が横切り 隅に転がり消えた

 男の 血眼(まなこ)が 激しく 動く

 ギロンギロン、ギロンギロン、と

 確かめようと 更に強く早く 動き回る

 しかし異物は 微かに端に 見えるのみ

 男は 強く力を入れ 眼球を向ける

 異物は 僅かに 動いて来る

 グネグネと、またはコキコキと、

 力無く 男の血眼(まなこ)に 動き寄る

 裏返る程に 千切れる程に 眼球を向け

 男は異物を 見ようとする


 視界の隅で 姿を現す

 グネグネと、またはコキコキと、

 動く異物は 女の手であった

 切断されて それでも動く 女の手であった

 白くて細い 見覚えある 女の手であった

 男はさらに 眼球を向ける

 裏返る程に 千切れる程に


 男の後ろで音がする

 ねちゃり、くちゃり、と

 咀嚼する音がする

 そして次に 男の視界には

 女の顔が 放り込まれる

 

 

 

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