シロウと魔王の杖 3
視察っていうやつは受け手が面倒ですが、本当はやる方が面倒なはず。
応接にいるのは三人、少ないな。去年は五人だった。書類を見るのは二人で、後の3人は偉そうに物見遊山していただけだが、偉そうな三人のほうに団長が含まれていた。
「お待たせしました、マスター補佐のシロウと申します」
真ん中に座っている若い男が視察団長であろう、視察団長には高位貴族の次男等がつく事が多い。ギルドを周る事は世間勉強になるというのが理由だが、跡取り以外の子供をギルドで養わせようという貴族と、うかつな職位には就かせたくないというギルドの思惑の結果ではあるが、迷惑なことだ。
「マスターはおられますか?」
「視察は明日とお伺いしておりましたので、町を巡回しております」
「視察をかわすために、ギルドが対策を行なっていると聞いてね。前日に来たのさ」
中央の男がそう言うと両脇の二人が苦い顔をする
「ケルン様、それは言わなくて良いのです」
「言えば前日に対策をする様になるって事を心配しているのか?良いんだよ、視察対策を知っている事や視察にいつ来るか解らないと思って貰えたらね」
どうやら馬鹿息子が来た訳ではないらしい
「いつ来ていただいても問題はございません」
「そうか、では見せて貰おう」
必要な書類をテーブルに置き部屋を出ると、ミイが戻ってきた。
「ミイ、宿屋はどうだった」
「とれた。補佐に『貸し』だって」
取り敢えずひと段落。後はマスターが来れば視察は問題ないだろう。
「シロウ、少し良いか?」
ケルンが応接を出て、こちらに歩いてくる。
「応接に戻ります」
「いや、いいよ。シロウの部屋で話させてくれ」
◇
「自己紹介が未だだったな。私はケルンと言う、父はオーギュストだ」
「オーギュスト様というと公爵様でしょうか」
「まぁそうだ。わざわざ父の名前を言ったのは、視察以外に目的があってね。シロウに協力して欲しいと思ったからだ」
「視察はカモフラージュという事でしょうか」
「昨年の結果を見てから来たし、さっき出された書類もざっと見たさ、冒険者の死亡0、依頼の遅滞はなく、経営は安定している。ここのギルドに視察は不要だよ」
「ありがとうございます。では私が協力する事は何でしょうか」
「シロウ、私は君が来てからこのギルドが変わったと思っているんだ。依頼や冒険者の管理、受付の教育などどうやっているのか知りたい。視察期間はつきっきりで君に付き添わせてもらう」
「ケルン様、本当の目的を教えて頂けないでしょうか?」
「何故、本当の目的が違うと思うんだ」
「身内にオーギュスト様がおられるのであれば、他にケルン様が学ぶ為の適任者がいるはずで、もし本当に私をかっておられるのでしたら、違うやりかた、例えば本部に呼ぶなどするでしょからね」
「やれやれ、本当にシロウにつきっきりで学べと言われそうだな。言うけど他言するなよ。俺の姓はハインツだ。父の姓も勿論ハインツだ」
ハインツ?そう言われて思いつくのは1人。
「ジェシカは俺の妹だよ、王国有数の冒険者。仕事の依頼はこのギルドで、君にするんだろう」
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