シロウと魔王の杖 2
50年くらい前には、魔王がいて勇者がいた。
「魔王の杖ですか?魔王の装備品は全て破壊されたと聞いていますが」
「ある。杖は魔王を造るぞ。お主たちにとっても他所ごとではないはずだ」
「杖が魔王を造るのですか?」
「魔王の素質があるものを魔王にする。が正しいがな」
「杖はどこにあるのですか」
「王城で結界に囲まれておる」
「ならば破壊する必要は無いのではないでしょうか?」
「素質のある者が目覚めめれば、杖に呼ばれるだろう。時間はそんなにないと思うぞ」
「なぜ冒険者ギルドに依頼をされるのですか」
「王国は信用できないし、魔王を倒した勇者は没した。ギルドに属す冒険者は王国に雇われている訳ではないと聞いたのでな。ここにきたのだ、前払いでこの指輪を渡しておこう」
◇
と言う訳なんだけどねと、行きつけの酒場で待っていたアイナとミイ、ナットにさっきの出来事を相談する。
不思議なお爺さんに加えて、王城も絡んでいるから無作為に拡げるべき話でないが三人は信頼出来る。それに一年前までは冒険者をしていたから情報通でもある。
「魔王の装備品が破壊されていないと言うのは、聞いた事があります」
「それは俺もあるけどな。ただ勇魔戦の中でも、杖を勇者が斬ったという一節は有名だからな。他の装備が残っているとしても、杖はないんじゃないのか」
「ミイは知らない」
「話に出てきた指輪を見せてみろよ、指輪の質が悪けりゃ、与太話だぜ」
シロウは隠していた右手を出す。
「おいおい、何でお前が嵌めてるんだよ」
指輪を受け取ろうと右手を出すと、思わぬ速さで指輪をつけられた。指輪を外そうにも外れないのだ。
「魔力は感じますが、特別に強いという訳では無さそうです」
アイナがシロウの指輪に触れ確認する。
「模様が凝っていますね、この複雑な模様だけでも価値があるのではないかと思います。指輪をはめた後に、何か言われましたか?」
「それがね、指輪をとろうと目線を外した瞬間にいなくなってたよ」
「補佐、どうするの?」
「みんなに聞いてもわからないんだ。マスターに相談する事にするよ」
「あの生き字引きなら知らない事は無いだろうからな。それとさシロウ、4日後、仕事終わったらこの店に集合な」
「4日後って視察終わりじゃないか。なるほどお疲れさん会だね。いいね、そうしよう」
◇翌朝
シロウはいつもより早くギルドに着いた。ギルド前に三人、見かけない顔ばかりだ。
「すみません、今開けますね。受付はもう少しで来ますので中でお待ち下さい」
三人とも若いが装備は悪くない。駆け出しのE級冒険者では買えない装備だから、D級かC級の冒険者だろう。
「このギルドの評判を聞いて来ました。早くからすみません。ギルド異動の申請をお願いしたくて」
「私は、ギルドマスター補佐のシロウです。申請には元ギルドの推薦書が必要ですが、お持ちでしょうか?」
「それが・・」
◇
「どうでしたか?」
「推薦書がもらえなかったのは、依頼受注か少ないと言われたらしいのですが、依頼の履歴や彼等がやってきた事を聞くと、とてもそうは思えません、彼等に嘘がなければですが」
ギルドの中に入り、彼らに詳しく話を聞こうとしたら、ちょうど来たアイナが話を引き取ってくれた。
「元ギルドはルードか、良い噂は聞かないけどね、アイナはルードのギルドを使った事はありますか?」
「私はこの町に来る前に、ルードに立ち寄りましたよ。王都から来るのには丁度良い距離にあるんですよね。ただギルドは使わなかったんです。タチが悪いって聞いてましたから」
冒険者は拠点とするギルドを選べる。拠点を変えたいと申し出が有れば、その冒険者の受注履歴や達成率を記載した推薦書を異動元のギルドが書く。ただギルドは多くの依頼をこなすために冒険者を抱えておきたいので、異動元は何とか引き止めようとするし、移動先は推薦書の中身がどうでも異動を引き受けるのが普通になってきている。
「三人はどうしてる」
「夜通しで来たから宿屋で寝るって言ってました。どうにかならないかと、何度もお願いされました」
「丁度視察も来るし、視察団にそれとなく探ってみるか、話のわかる人が来てくれるといいんだけどね」
「視察って昨日も言ってましたけど、まだ経験が無いのですが、準備など必要でしょうか?」
「特に無いよ。いつも通りで構わない。視察の説明をしてなかったね。視察は王国ギルド本部から各町のギルドの働きぶりを見にくるんだ。一年に一回くらいかな、去年がアイナたちが来るちょっと前だからね。視察では、依頼の達成率や冒険者の死亡率を確認するんだよ。他にも不正がないかとか」
「達成率はいつも出していますし、死亡は無しです」
「だからさ、準備はいらないだろう」
◇
冒険者ギルドは基本的には三つの仕事がある。
①依頼者と冒険者の仲介
②魔物の討伐依頼と報酬の支払い
③薬草や魔物の皮や角、魔石等の販売
稀に王国からの依頼があるが、それは大型魔獣討伐への冒険者指名が多く、王国のギルド本部から冒険者に直接依頼する事から、ほぼ町のギルドが関わる事はない。
主な仕事は①で、掲示板にて冒険者に依頼するのだが、ギルドは各依頼をランク指定する事で、冒険者のレベルを選別し、受付が冒険者毎の向き不向きを見極め、依頼を任せるかを判断する。その為に各ギルドの方針や受付のスキルにより、達成率に差が出るのだ。
◇
「ナット、ギルドマスターは未だでしょうか?」
「いつもならそろそろ来る頃だな。寝坊助だがらな、まだ寝てるんじゃねーの、永遠の眠りについてるかもしれねーな」
「冗談を言って心配になるくらいなら、家に確認に行ってくれないか?マスターは君の祖父だから、君が迎えに行くのが一番良いと思うんだけど」
「昨日の話もあるからな、しょうがねーな。シロウが相談があるから早く来いって言いに行ってやるよ。それとな、掲示板の事、今度教えろよ。他も変えなきゃいけねーってわかったけどな、変え方がな。あれを変えればコレも変えてってなる。そうすれば報酬が全部上がっちまう」
そう言いナットは出て行く。
自分から教えろというのは珍しい、掲示板を見に行って、シロウが変えたことに気づいたのだろうが、恐らく自分で他の依頼を変えなきゃいけないことに気づき、掲示板を見に行ったのだろう。
「補佐っ、視察来た」
「えっ、明日からのはずだけど...、困ったな。とりあえず応接にお通しして、直ぐに行く」
「アイナが応接に案内してる」
「ミイは宿屋に今日からに変更してくれって、お願いしてきてくれないか」
視察団への対応に宿屋手配などもある、宿屋の主人に無理を言って、明日からは一番良い部屋を押さえていた。
書類等は、いつ来られても大丈夫にしてある。「視察団長次第だな」と一人ごとを言うと応援室に向かった。
評価を何卒宜しくお願いします。