漫才「おみくじ」
漫才三作目になります。よろしくお願いします。
競馬で大負けした男が、厄払いに浅草寺へ向かっている。
「競馬でやられちゃったよ。今更なんだけど、本当は馬券を買いに行く前に浅草寺で願を掛けていった方が良かったんだよなあ。まあせめて厄を払ってから帰るとするか」
「あ、ちょっと」
「なんだ?」
「おみくじいかがですか?」
「え? こんなところで?」
「ええ。いらっしゃいませ」
「いらっしゃいませって・・・そっちから寄って来たんだろ。おかしいだろ」
「すみません」
「それに、おみくじで、いらっしゃいませっていうのはありなのか?」
「不慣れなもので」
「そもそも、おみくじっていうのは境内の中にあるものだろ。なんで外でやってんの?」
「実を申しますと私、浅草寺の者ではないんです」
「よそから来たの?」
「ええ」
「それって大丈夫なのかねえ」
「最初は浅草寺の境内に立っていたんですが、かなりのアウェー感覚がありました」
「それで六区に流れてきたというわけか」
「ええ」
「なんでまたわざわざ浅草に来たんだい?」
「自から営業に回れとの指示が、上司からあったんです」
「まるでセールスマンの世界だな」
「じっと待っているのは時代遅れだと言われまして」
「神社仏閣は時代の変化とは無縁でいいと思うけどなあ」
「それで電車に乗ってやって来た次第でして」
「大変だねえ」
「一枚九十円でやらせてもらっています」
「割引セール?」
「そのかわり大吉が出たら百十円です」
「ちゃっかりしているなあ」
「うちのは大吉が多いからいいですよ」
「ありがたみが減るなあ」
「でも、悪い気分にはなりませんでしょ」
「まあな。でも浅草寺に行くからいいよ。じゃ、がんばって」
「待ってください。二枚だったら百五十円にしておきます。お得ですよ」
「損得の問題じゃないような気がするけどねえ」
立ち去ろうとする。
「すいません、おみくじが無理なのでしたら、せめてお賽銭だけでも」
「お賽銭?」
「ええ。お賽銭も受け付けているんです。お願いしてみませんか?」
ちいさな貯金箱くらいの賽銭箱を見せる。
「かわいいでしょ」
「たしかに」
「ご朱印も付けますから」
「今日は競馬で負けてケチがついているんだよ。お祓いはやってもらえるのか?」
「いやあ、私、お経はまだ読めないんですよ」
「それは残念だったな」
背を向ける。
「待ってください。お祓いは出来なくとも、明日の当たり馬券なら解ります。私、今日六戦六勝でした」
戻ってきて握手を求める。
「ゆっくり話そうじゃないの。おみくじに、お賽銭、ご朱印も頼むわ」
読んでくださり、どうもありがとうございました。