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ありさんマンション

 思いついたので吐き出した案件。一人で空想するにはちょっと荷が重かった。


 わりとリアルに気持ち悪い話になっていますので、閲覧注意……それでは、ご堪能ください。

 あ、俺のは聞いた話をアレンジした怪談です。文芸部なんで、そういうのけっこうやるんですよね。どこまでがフィクションか、とか聞くのはナシですよ? 怖くなくなっちゃうんで、念のため。わりとリアルに気持ち悪い話っす。


 始まりがですね、電話だったらしいんですよ……ほら、電波悪い状態ってあるじゃないですか。ああいうシチュエーションですね。




 男で友達同士の会話だったんで、だいぶフランクな口調じゃないですか? それで、男と電話するとわりと感じることなんですけど、声が低いとけっこう聞こえにくいんですよ。しかも電波悪いから、もう凶悪に聞こえにくい。再現するとですね……


『なあ、そっちの大学どう?』

『まあまあ。今日マジ電波悪くね? ノイズやべえわ』


『ああ。そっちのマンション、アホみたいな作りしてたよな』

『は? お前の実家もこのご時世に大黒柱とかあったじゃん』


 新生活が始まってすぐあたりのことですかね。まあまあ、気の置けない会話ですよ。お互いの新生活についてあれこれと語り合っていたんですが、聞こえにくいせいであんまり話がかみ合わない。それでも、離れた友人とあれやこれや話すのは楽しかったようです。しかしまあ……限界はあって。会話している間にちょくちょく齟齬というのか、ちょっと聞こえてない箇所とか生返事しているところがありますよね。


 そこで、なんですよ――Aが聞きました。


『ちゃんと聞こえてんの?』


 いや、質問自体は普通なんですけど。


 「はーい」ってね――


 こう……どう表現したもんですかね。文芸部は言葉に長けてるだろって言いますけどね、俺に言わせりゃボキャブラリだけで作られたモンは駄文なんですよ。ディスコミュニケーションの時点で文章はゴミになるんです。


 はい、すいません部長。その通りに言いますと、幼稚園児の演劇みたいな……幼い声の大合唱が聞こえたらしいんですよ。そんなあからさまな、と思うでしょうけど、まあ聞くわけで。


『お前の部屋、子供とかいる?』

『バリ一人暮らしだっつの……』


『子供二十人くらいいるみたいな返事だったけど』

『気持ち悪いこと言うなって……』


 そもそも返事は「はーい」じゃなくて「いや、ちょっと聞こえにくいわ、すまん」だったんだそうで。気味悪くなって会話をいったんやめちゃって――やめればいいのに、Bは周りを見渡すんですよ。どこにもおかしな点はないな、って確認したそのときです。


『ちょっと待っておかしい』

『え、実況すんなよ……』


『ベッドの下、なんか動いた』

『うわ、やめろってマジで』


 すがるような声だったもので、つい聞き入ってしまって――電話を媒介しながら、二人はゆっくりそれに近付いていきました。心臓の音までも聞こえるかという緊張、それに友達の危機ですから、Aの方はいざとなれば遠いマンションへ出かける準備さえしています。準備はしつつ電話も続けて、情報を聞き出していきました。


 曰く――黒くて、なんだかぬるぬるしたもののように見えたと。見た目としてはまんま石油で、そりゃもう素早かったという話で。あ、違います。かなり新しいマンションだったのと、掃除は行き届いてましたから、ほんとにいないんですよ。


 で、すぐ隣のベッドの下をのぞき込む覚悟ができたところで、Bは実行しました。ところが、なんですよね。


『あれ、なんもいねえわ』

『なんだよ。心配して損したわ、アホか』


 聞き間違いだったって結論になったので、その日の電話はそこで終わりです。何かあったらすぐ連絡しろよ、とは言ったみたいですけど、こういうバカみたいなことが起きたあとじゃ社交辞令みたいなもんですよね。


 一件落着……じゃ、なかったんです。




 Bってわりとマメで、数日後に、週一のそうじをしたらしいんですよ。ベッドの下なんかも、ほこりが溜まりやすいですから……動かして、ぞうきんでちゃっと拭いて。俺くらいずぼらになると実家でもわたぼこりあったりするんですけど――あ、すいません。Bはそこんとこしっかりしてるんで、ないんですよ。というかゴミ自体が少ない。一週間分が溜まるかどうかってとこで。


 だからね、あるはずなかった。


 アリの死骸なんか……入ってくるスペースもないし、けっこう階層も高いから、羽もついてない虫の死骸なんてね、あるはずないんです。Bはそのアリを捨てようとつまんで、見た目から即座に悟ってしまって……思わず投げ出したらしいですよ。そして、見つけてしまった。いつもベッドの隠れている角っこにほんの小さな隙間があって……そこから、わずか一瞬だけアリが顔を見せて、さっと引っ込んだところを。


 まるで、見つかったらまずいと理解しているように見えたそうで。しかも大きかった、一センチくらいあるんじゃないかなって言ってましたよ。


 Bはすぐ引っ越しました。そりゃそうでしょう、そんなに得体の知れないマンションになんていられませんよね。次の住人が入るとか入らないとかそういう問題じゃない、いつ何が起こるかさっぱり分からなくなったんですからね。


 え? あはは、さすが行動派……マンションなら火災でなくなりましたよ。放火らしいです。ほんの二時間くらいで全焼して――そうそう、新聞にも載ってますね。あんまりにも燃え方がいいんで、防災基準を満たしてなかったとか建築基準法からしておかしいとか、そもそも燃え残りがぜんぜんないうえに……木もコンクリも、家一軒作れない量しか残ってないとか。駐車場と自転車置き場の真ん中にボカッと空いた穴、なかなかエグかったですよね。


 ところでなんですけど……アリの巣って地下にありますよね? え、はい。俺って何か間違ったこと言いましたかね。いや……そうなんですよね。たぶん、まだ――


 え? やだなあ、怖いですよ先輩。片っ端から放火するつもりですか?


 ちょっとくらいならいいじゃないですか、文明どうし。

 文章がアレなのであんまり怖くなかったかもしれないですね……。


 それにしても、一人暮らしでホラー書くの怖すぎませんか? 特に夜、ぜったいムリ。

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