第九話 決闘の行方
俺達が、アサルト教団本部を壊滅させた翌日、イシスタ伯爵の一人娘〘マリア·イシスタ〙の婿を賭けて、四人の貴族子弟が決闘を行う日がやって来た。
騎士団長のパットンから、出場者の顔ぶれについて聞いてみたのだが、どの男もクズのようだ。
ブータン子爵家の嫡男、バカラス·ブータン、既に3人の愛人を抱える好色家の男だ。
アホカス子爵家の嫡男、キチガル·アホカス、残忍な性格で、領民を何人も無礼討ちにしている男だ。
マヌトス男爵家の当主の弟、イレギュル·マヌトス、武闘を好む酒乱という評判のある男だ。
デベロット男爵家の嫡男、シランス·デベロット、賭け事に溺れ、多大な借金があるという噂の男だ。
中天の刻限に決闘が始まった。俺達は会場に仕掛た監視カメラで見物だ。
一回戦は、キチガルとシランスの対戦だ。互いに武器は剣、2度3度と打ち合うが、双方逃げ腰なので、なかなか勝負がつかない。
と思っていたら、キチガルが闇雲に剣を振り回し、それに焦ったシランスが剣を取り落とし、キチガルの剣を首筋に宛がわれて、キチガルの勝利となった。
2回戦は、バカラスとイレギュルの対戦。例のアサルト教団が手を回した侍女を探すと、いた、吹き矢を持っている。決闘を見守る貴族家の集団よりも後方だが、物陰に隠れ、その時を窺っているのだろう。
俺は音もなく、その女の後に転移すると、吹き矢を取り上げ、女の肩を掴み、皆のいるイシスタの屋敷に転移して戻る。女は、すぐさま騎士達に取り押さえられ、観念したようにしゃがみ込むと口から、血を吐いて自害した。
決闘の方は、時間が経つにつれ、バカラスの焦りが目立ち、そしてついに、イレギュルの剣がバカラスの胸を貫いた。即死である。
会場では、狂ったように泣きわめく、ブータン子爵が映し出されている。
さて、俺達の出番だ。俺はマリアとパットン、レンジャー部隊を引き連れて、会場へ転移した。
「静まりなさいっ。」マリアが声を上げる。
「この決闘には、意味がありません。勝者となってもイシスタ伯爵家の婿になど、なれません。
このことは、国王陛下と宰相閣下から直に確認しました。
オットー伯爵が、イシスタ伯爵領を貶めるために企てた筋書きです。
それにあなた達は、父イシスタ伯爵の仇です。その罪をこの場で死を持って償っていただきましょう。」
パットンの号令が響く。
「掛かれっ!」
レンジャー部隊のボウガンを浴びて、貴族達は次々と倒されていく。
逃げ惑う者達ばかりではなく、斬りかかって来る者達もいるが、パットンやレンジャー部隊の強者達に一刀の下に切り捨てられる。
会場の周りを監視させていた者達から、怪しい人物を発見したとの知らせが届き、俺はその場所へ転移した。
会場の様子を窺っているようだ。ああ、やっぱりだ。アサルト教団の本部で、教皇と話していた男、ゴルゴだ。
俺は、やつのすぐ後ろに転移すると、容赦なく斬りかかる。倒されながらも、
「俺を倒しても、仲間が貴様を地獄の底まで追いかけて、復讐をするぞ。後悔しても遅い。」
死ぬ間際まで、脅迫の言葉を吐くとは、往生際の悪いやつだ。
「残念だが、それはできない。昨日、教団本部は、教皇もろとも俺達が皆殺しにした。お前が最後のひとりだ。」
それを聞いて、絶望の表情を浮かべて、男は息絶えた。
会場へ戻ると、既に貴族達に生存者はなく、パットンが、貴族当主達の首を並べていた。
この首は、王城の元へ届けるのだ。後始末をしろという意味で。
あと、もう一人この企みに加担した者、あるいは、裏で糸を引く者がいる。
オットー伯爵だ。
「よ〜し、次に行くぞっ。全員集合だっ。」
パットンの声で、レンジャー部隊が集まる。
オットー伯爵の居城に着くと、門番にマリアが面会を求める。ほどなくして、マリアと俺とパットンが応接室にとおされた。
「これは、マリア殿。婿殿は決まりましたかな?」
「ええ、決まりましたわ。それで紹介したいと思い、連れて参りましたの。」
「そちらの方は、初めて見る顔だが。」
「私の夫になるシンジ様ですわ。女神クロート様のご神託により、決められましたの。」
「神託などと。偽物ではありませんか。」
「あら伯爵、伯爵のおっしゃられた、『決闘で私の婿を決める』など、指示した覚えはないと、国王陛下と宰相閣下から直にお聞きして参りましたのよ。嘘を言われたのは、伯爵ではありませんか。
それに、父を殺してイシスタ伯爵領を乗っ取る企み。承知の上で加担なさいましたわね。
今この場で、父の仇を討たせていただきますわ。パットン、やって。」
「なに〜、出会えっ、出会えっ、暴漢じゃ。」
扉から十数名の護衛が駆け込んで来る。
「護衛の者達、聞くが良い。オットー伯爵家は、王家の命を勝手に変えた罪で取り潰しになる。まもなく、王家から使者がみえるはず、私達に手を出しても無駄なこと。
加えて、オットー伯爵は、我が父イシスタ伯爵を暗殺した仇、娘であるマリアが仇を討ちます。邪魔立てするものには、容赦しません。」
怯んだ護衛を前に、パットンがオットー伯爵を討ち取る。この首も王城へ届ける。
こうして、一連の復讐劇は、一応の終りを迎えた。俺とマリアは日本に帰り、しばらく休養だ。