第五話 僕の街へようこそマリアさん そのニ
フードコートで食事を済ませた僕らは、Gvという洋服の量販店に来た。マリアの好みが知りたいし、ここなら、俺の給料でもなんとかなる。
マリアには好きなものを、上下3着選んでと言っておいた。
マリアが選んだのは、Gジャンとジーンズ、シンプルな無地でエレガントなロングワンピース、綿地のスポーティな上下のパンツルック。試着して選んだサイズは、標準サイズらしい。
「うふふっ、とても素敵なのを見つけたわっ。こんなのは、向こうにはないんですもの。」
「それは良かったね、季節が替わると着る服も替わるからね、その時にまた買ってあげるよ。」
「まあ素敵っ。いえ、お洋服を買ってもらえることじゃなくて。あなたがそういうふうに、私のためにって、思ってくれることが嬉しいの。うふふ。」
女性は、好きな洋服を着ることが幸せの一部だと聞いたことがあるが、マリアにも当てはまるらしい。
女性の買い物は、時間がかかる。Gvには、3時間近くもいた。
喉が渇いたので、再びフードコートに行く。
「えっ、もう夕食の時間なの? お腹はぜんぜん、空いてないわよ。」
「違うよ、ちょっと疲れたから、飲み物でも飲んで休憩しようと思ってね。」
「ごめんなさいね、私が洋服選びに、夢中になり過ぎたせいね。」
「マリアは、なにか飲むかい?」
「私はそんなに喉は渇いてないわ、さっきのセルフのお水を少しいただくわ。」
「それじゃあ、マリアには、とっておきのデザートを食べてもらおうかな。」
そう言って、マリアのために注文したのは、バニラのソフトクリーム。その冷たさと、なめらかな甘さに、目をパチくりさせながら、夢中になって食べている。
「あなたって、私を喜ばせる才能に溢れいるのね。女神様が選んだあなたに、間違いはなかったわ。」
お褒めにあずかり恐縮ですが、それ僕の才能じゃないです。ソフトクリームのちからです。
ちなみに僕は、アイスコーヒーです。
休憩を終えたあとは、ショッピングモール内にあるスーパーで、夕食の材料と、買い置き分の食品の買い物をする。
マリアは、陳列してある商品を、見るだけでも楽しめるはずだ。
スーパーに入ると、予想どおり物珍しそうに、野菜から果物、魚に肉、冷凍食品に惣菜、次々並んでる商品の多さに、『あ然!』としているマリアである。
「私の自信が、音をたてて崩れて行くのを、聞いた気がするの。だって、こんなにたくさんの種類の物を見たのは、生まれて初めてよっ。
とても覚えきれるとは思えないのよ。」
「そんなに悲観することじゃないよ。そのうち、食べて美味しいと思ったものだけ、覚えて行けばいいのさ。」
夕食は、《すき焼き》にしよう。牛肉と豚肉を食べ比べてもらうことにして、玉子にしらたき、椎茸に絹こし豆腐、長ネギ。ついでに玉ねぎと人参、じゃがいもも。これは、カレーにもシチューにも使える、僕の常備やさい達だ。
あとは、牛乳、チルドの餃子、パスタのルー、うどんの麺、冷凍食品の魚貝、同じく井町屋の肉まん、食パン、インスタント味噌汁も補充。これくらいでいいかな。
おっと、マリアのためのデザートを買わなくちゃ。
プリンにヨーグルト、アイスクリームとレモンのシャーベット、こんなところか。
「ねぇねぇ、私のためのデザートって、なにを買ってくれたのかしら。さっきのソフトクリームみたいなものは、私の精神に良くないと思うのよ。
だって、食べたあともずっと、食べたときの美味しさを思い出して、《ぼー》としてしまうんですもの。」
「それは困ったね。早く美味しいものに慣れて、《ぼー》とならないように、しなくちゃいけないね。」
「そうね、結局は食べて慣れるしかないのね。」
そんなことを話しながら、家路につく。
今夜の夕食は、《すき焼き》だ。長ネギと豆腐を切って、椎茸を水洗いしてヘタをとれば、準備完了だ。
タレを入れた鍋の前で、待ちかねているマリアさんに、『お待たせっ』と言って、鍋に具材を入れていく。ぐつぐつと煮えてきたよ。
「マリア、そろそろ煮えてきたから、食べるとしようか。すき焼きの具には、この溶いた生卵をつけて食べてね。」
「《ハフハフ》なんて味なのかしら、甘辛くて美味しいたれね。それを生卵がまろやかにするの。お肉は、これが豚肉? 牛肉より苦味がなくて、こっちほうが好きだわ。」
夕食の《すき焼き》は、どうやらマリアにヒットしたようだ。
僕はそんなに酒好きじゃないので、夕食には出さなかったけど、この次は、日本の《ビール》を味わってもらおうかな。