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第三話 アレキシス王との謁見、無能なザール宰相

 この国アルバス王国の王都は、人口約2万人程で、広大な街並を城壁が囲んでいる。

 マリアに転移先を、王都の人通りの少ない場所をイメージしてもらったところ、貧民街のはずれ辺りに転移した。

 「マリア、ここから王城までは、相当あるのかな?」

 「いいえ、そんなでもないです。

 でも、この辺りは、治安が良くないので気を付けないといけません。」

 「そうか、今のところ、武器は200㎖火炎瓶しかないしな、変なのに絡まれるとまずいな。」


 そう話しているところへ、向こうから人相の悪そうな、二人連れの男達がやって来た。

 すれ違おうとしたら、正面に立ち塞がる。

 「おい兄ちゃん、可愛い娘を連れてるじゃないか。

 俺たちに、ちょっと貸してくれないかな?」

 これは、異世界お馴染みの《イベント》ってやつだな。

 仕方がない、転移っ。その場からマリアの腕を抱えて、俺の部屋へと戻り、彼らに対抗する準備をする。


 殴り掛かって来るか、剣で切りかかって来るか、ここは、粉末小型消火器をもって行くことにする。

 あと、マリアに金属バットを持たせ、小型消火器を構えて、再び彼らの前へ転移する。

 転移した直後、彼らが同時に切りかかって来る彼らの顔めがけて、小型消火器を噴射する。

 『ブシュッ、シュー。』吹き出した粉塵を顔に掛けられ、目が見えずに『ゴホッ、ゴホッ。』と咳込んでいる。

 マリアに持たせていた、金属バットを受け取ると、彼らの剣を持った腕に叩きつける。

 骨が折れたかも知れない。

 二人とも悲鳴を上げて、剣を手放す。

 その剣を足で弾き飛ばし、さらに奴らの両足の脛を打ち据えると、たまらず転倒して「助けてくれぇ」と叫び出した。

 俺とマリアは、拾った剣を彼らに突きつけ 「お前たちの命までは取らん、剣は貰っておく。

 命が惜しかったら、さっさと消えろ。」

 それを聞くと、二人は足を引きずりながら、退散して行った。

 「なんとかなりましたね、でも、シンジさんが強くて感心しました。」

 「うん、転移できる強みだね。ても、問題は不意を突かれるとまずいことかな。」

 「ええ、私も転移できれば、シンジさんの助けになれるのに。」


 貧民街を抜けると、商店が軒を連ねる大通りに出た。 

 人々が行き交う道を進むと、王城の正門に辿り着いた。

 衛兵にマリアの身分を明かし、詰め所で謁見を依頼すると、担当役人が取り次いでくれた。 

 しばらく待たされると、秘書官らしき人が来て、謁見の間へ案内され、二人で膝まづいて待つと、王と数人が現れた。

「イシスタ伯爵が娘、マリア・イシスタか。

 イシスタ領の措置について、具申があるとのことであるが、どのようなことか。

 アレキシス陛下に申し上げよ。」

「はい、本日は謁見を賜り、お礼を申し上げます。

 先日、陛下のお使者のエジル公爵より、近隣の貴族たちの中から、私の夫に相応しい貴族を選ぶように申し渡されましたが、その後オットー伯爵が見えられ、私の夫となる者を、決闘によって、選ぶことになった、と告げられました。

 また、婚儀ののち、イシスタ領は結婚先の領地に吸収されると伺いましたが、これはほんとうに、陛下のご意志でございますか?」


 「なんと、そのような仕儀を申し渡したのか?ザール卿。」

 「いえ陛下、そのようなことを指示した覚えはございません。

 このザール、宰相として、イシスタ伯の後継者は、マリア嬢に婿を選び、マリア嬢の同意のもとに、イシスタ伯爵家を継ぐものとする、指示を行っております。」


「周辺の貴族どもめ、企みおったな。

 無理やり婚儀をさせ、継いだ者の実家に吸収させ、乗っ取るつもりか。」

 「陛下、如何にいたしましょうか? 

 このままでは、イシスタ領がどこぞの貴族の手に渡ってしまいますぞ。」


「陛下、もう一つございます。

 私は、女神クロート様のご神託を授かり、ここにいる異世界から招かれた、シンジ様と婚約を交わしました。

 それ故、他の者に嫁ぐ意思はございません。」

「なんと、異世界の御仁に嫁ぐと申されるか。 

 して、イシスタ領と伯爵家は、いかにするつもりか?」

 「陛下、宰相閣下。初めてお目にかかります。

 カド・シンジと申します。女神クロート様のご意志により、この地へ参りましたが、父親を暗殺され、自身も選択の余地もなく嫁がされるという状況にされた、マリアを救う為です。 

 もし、この国の政治が、このような状況に手をこまねいているのであれば、この世界など放置し、マリアを私の世界へ連れて行くこともやぶさかではありません。

 しかし、マリアは父親のイシスタ伯爵亡き後の領民の生活を心配しております。

 また、伯爵暗殺の犯人は、周辺貴族の中におり、その意図はまだ判明しておりません。

 そのような状況のもとで、犯人に嫁ぐかも知れない婚儀など、到底受け入れられません。」

 

 「その方は、如何にせよと申すのか。」

 「はい、暗殺の首魁が誰なのかは、わかりません。

 しかし、周辺貴族は皆、イシスタ伯爵家の乗っ取りに加担しております。

 それ故、根絶やしに致します。

 その後のことは、王家のご裁量にお任せ致します。」

 「なんとそのようなことをすれば、その方らも処罰なしでは済まぬぞ。」

 「処罰ができると思われるなら、お遣りになってください。

 しかし、それはこの国の王家が女神クロート様に反逆をされるということですよね。

 陛下には、王家が亡ぶという重大な覚悟を持って行うべきことかと、存じます。」

 「・・・・・・ 。」

 「今日、謁見をお願いしたのは、陛下のご意志を確かめることと、事実をお伝えするためでした。

 なにも望んではおりません。

 貴族のいいように誑かされる、頼りない宰相閣下では、宰相の資格はないでしょうし、いずれ放っておいても、この国は亡ぶでしょうから。

 ではこれで失礼致します。」

 そう言って、マリアの腕をとり、転移した。


 その場に唖然として、立ちすくむ王と宰相、しばらくして宰相がいう

 「陛下、彼の者の脅しに屈してはなりませぬぞ。

 各地にいる魔法師を呼び戻し、かの者に対処させます。」

 「ザールよ、何か間違えておらぬか?

 その方を謀かったのは、貴族どもであるぞ。 

 それにイシスタ伯を殺めた者が、我らを狙わぬという保証もない。」

 「しかし陛下、陛下の御前でのあのような無礼、捨て置けませぬ。」

 

 この男、確かに使えぬ。貴族たちの支持を得ていると思うたが、単に利用しやすい男として宰相に祭り上げられただけに相違ない。

 現にイシスタ領の騒ぎを治める手立てを持っておらぬ。 

 この度の失態を理由に左遷するしかあるまいな。

 そう、アレキシス王はつぶやいていた。


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