第一話 王国に暗躍する影
アルバス王国の遥か西に、砂漠とモスク(きょうかい)の国、クムール聖教国がある。
文字通り、クムール教を国教とする宗教国である。
今、モスクの一室では、この国の王であるバビデ教皇が、数人の覆面をした者達から、報告を受けていた。
「ほう、アルバスでは、そのような者達がおるのか。」
「はい、ブレメン侯爵を初め、武力で従えようとした勢力を返り討ちにしたそうに、ございます。」
「国王もその者達には、手を出すなと命じたそうですわ。」
「また、最近のアルバス王国での、新しき商品の数々も、その地で生み出されておるようにございます。」
「王国に歯向かうことのできる、勢力か。面白い、利用してみる価値はあるかも知れん。
その地に、人を送り込め。例のものを使うのだ。そして、少しずつ毒を盛るのだ。じわりじわりと効くようにな。」
「はっ、そのように手配致しましょう。」
その日の深夜、イシスタ領の警備に当っているレンジャー部隊から、緊急の連絡が入った。
深夜、イシスタ領に何者かが侵入してきたとのこと。その数、7名。領堺に設置した暗視カメラが捉えた。
すぐさま俺は、捕捉と尾行を命じ、侵入者の正体を暴くべく、接近を試みることにした。
侵入者達は、イシスタ領に入った森の一画に潜み、朝を待つようである。俺は、転移で侵入者達の周囲に、盗聴器を仕掛けた。
『豊かな土地だな。作物が実っている。』
『そんな土地の民は、お人好しだからやりやすい。』
『まずは、酒場からだ。』
たいした情報は得られなかったが、侵入者達は、酒場で何か企んでるらしい。
俺は、罠を仕掛けることにした。ブルータスの酒場のうち、5軒を除き開店時間を遅くするよう手配した。
通常どおり開店させる5軒には、警備隊長のクラウド達に私服での張り込みを指示。そして、夜を待った。
侵入者達は、二人ずつ3軒の酒場に分かれて入り、酒を飲んでる。次第に客が増え、酔いが喧騒を生んで行く。
頃合いと見たのか、侵入者の一人が、大声で話し始める。
『よおっ、これ知ってるかあ。これを吸って、女を抱いてみろっ。めちゃくちゃ気持ちいいし、女もめろめろになるぜっ。』
客を装ったクラウドが話し掛ける。
「それ、ほんとかよ。そりゃなんだ? おめぇ達、見ない顔だな。どこから来た?」
『俺は、西方の国から来た商人さね。これは向こうで仕入れた精力増強の秘薬さね。どうだね、一つ使って見ないかね。』
アヘンの類いだ。〘捕縛しろ、確保だ。〙無線で指示を出す。一斉に私服の警備隊員が侵入者を捕らえる。
他の店の二組も同時だ。そして、残りの一人にも。
捕らえた男達と女1名を尋問しても、何も喋らないので、あることを試すことにした。
クラウドが言うには、酒場で話した相手には、クムール聖教国の訛りが感じられたというので、クムール教の教典を用意し、彼らに踏むように命じたのだ。そう、踏み絵の2番煎じだ。
案の定、誰一人踏むことをしなかった。宗教というのは、まったく個人の命より重いから厄介である。




