第三話 シンジの第一次イシスタ改革 その一
イシスタ領の改革にあたり、まず基幹産業である農業について調べたところ、主食は小麦で作る俺の世界では
《ナン》のようなパンだ。
気候は温暖で四季もあり、少ないが雪も降る。
俺はまず、イシスタに無い農作物の試験栽培を行うことにした。栽培を委託したのは、領主館の周辺の10軒の農家で、できるだけ見廻りがしやすい所にした。
選んだ作物は、ジャガイモ、サツマイモ、トウモロコシ、かぼちゃ、サトウキビ、甜菜、キャベツ、大根、人参、玉ねぎの10品。
もちろん、種や球根は、日本から持ち込んだものだ。10軒の農家で、それぞれ1品ずつ栽培してもらうことにした。
次に特産品となるものだが、この世界の酒は、果実から作るワインが主だ。
試験栽培を始めたジャガイモやトウモロコシは、まだ育つかどうか分からないので、取り敢えず小麦から焼酎を作ることにした。
領都の鍛冶ギルドを訪れると、ギルド長が俺を迎えてくれた。
「伯爵様、初めてお目にかかりやす。ギルド長のワーカーと申しやす。」
「ワーカーさん、初めましてだね。今日は、頼みたいことがあって、訪ねさせてもらったんだ。」
「へえ、あっしにできることなら、何なりと言ってくだせぇ。」
「実は、新しい酒造りを頼みたいんだ。原料は小麦。ただ造るには、大掛かりな鍋を継いだような設備が必要でね。鍛冶ギルドでなければ、頼めないと思ってる。」
「伯爵様、酒と聞いちゃ、外に任せる訳にゃ行かねぇ。是非、俺達にお任せくだせぇ。」
「うん、そうか助かる。ここに設備の設計図を持ってきたから、見てくれるかな。」
「こりゃ詳しいですなぁ、伯爵様はこんなことも出来なさるんで。」
「どのくらいの期間で出来そう?」
「へえ、一ヶ月くらい見て頂ければ造って見せやす。」
蒸留設備は、これでよし。出来上がるのを待つばかりだ。
次は商業ギルドだな。さて、ここは正念場だ、気合いを入れて行くぞっ。
「伯爵様ようこそ。ギルド長のマーケットと申します。」
「マーケットさん、今日はギルドの売上を10倍にしようと思ってね、相談に来たんだ。」
「それは只事ではありませんな。いったいどうなさるお積もりでしよう?」
「うん、今までの場所代としての税を廃止する。」
「それでは単に伯爵様の税収が減るだけでは?」
「そうとも限らないよ。ギルドの売上が10倍になれば、ギルドからの税収が10倍になる訳だし。農作物や商品の売上も増えるじゃないかな。」
「ふ〜む、確かに商売がやり安くなりますな。」
「これは、決定だ。実施は明日から。商業ギルドは直ちにこれを周知してください。
これが布告書です。」
「最初からお決めになっていたんですね。分かりました、さっそく布告致します。」
さて、この効果が出始めるのは、3ヶ月後くらいかな。
今までの三つの施策は、効果が出るまで待たなきゃならない。でも、それまでの間に資金と商業の活性化を図る施策を実施することにした。
その施策とは、外食産業。まずは、これから商売を始めたい者達を募集して、彼らに料理を仕込む。
20人程の応募者うち、5名に《ラーメン》を作らせる。大鍋を設置したラーメン工場で、ダシのスープを作り、各店舗で仕上げる。
各店は、味噌味、醤油味、塩味、辛味噌のタンタン麺、冷やしつけ麺に分けて競合しないようにした。麺だけは、俺が供給。
各ラーメン店は、一週間後開店した。
次の5名には《ピザ》を仕込んだ。基本に3品を教え、各店のメニューは基本3品とオリジナル5品にさせた。これも開店は一週間後。
その次の5名には、《うどん》と《蕎麦》の店とした。麺打ちを教え、つゆは俺が供給する。
最後の5名には、《天ぷら》を教えた。油は俺が供給する。うどん屋と蕎麦屋に何品か回すことにさせた。
これらの開店は、5日後だ。
街は、外食店の開業で一気に活気づいた。昼時はもちろん、朝から列ができる。
今や全店を食べ歩くのが、この街のトレンドになってる。
ご多分に漏れず、マリアも食べ歩きをしたいと言い出し、試食で辟易していた俺は、侍女達にお供をお願いし、支払い俺持ちで勘弁してもらった。
おかげで侍女達に俺の人気が絶大になったなんて、知らなかった。




