第一話 最大の防御は、攻撃です。
王城に、ブータン子爵を初め、イシスタ伯爵暗殺に加わった貴族達の首が届けられた。
王城では、騒ぎの中、反応が三つの派閥に分かれた。
一つは、イシスタ伯爵暗殺に驚愕し、怒りを見せるものの、マリアの容赦ない復讐劇に畏怖を覚える貴族達。
二つ目は、いかに復讐とは言え、やりすぎと非難し、マリアに処罰を与えるべきと主張する貴族達。
そして三つ目は、静観を装うもマリアに王の配慮がなされることを許容しない貴族達。
簡単に言えば、驚き、怒り、嫉妬、である。
俺は、王城に密かに設置した〘盗聴カメラ〙で、この一部始終を見ていた。
王城でいち早く動いたのは、怒りの貴族達。
ブレイメン侯爵を中心に、ホース伯爵、クック子爵などの貴族達である。
「陛下、まずは、貴族当主を失い、統治者が不在となっている貴族領に、治安回復のための代官と騎士団を送り込むことが肝要かと存じます。
また、イシスタ伯爵家に対する威圧が必要不可欠と存じます。
ついては、この難しい役目、ブレイメンにお任せください。」
「ブレイメン、かの地に代官を早急に派遣することは必要ぞ。しかし、騎士団を送り込み、イシスタ伯爵家を威圧するとは、解せぬな。
なんのための威圧であるかな?」
「それはもちろん、王国としての秩序を守らせるためでございます。イシスタ伯爵家の娘、マリアがしたことは許しがたく、暗殺の一味を捕らえなりして、王城へ訴えるべきものでした。」
「ふむ、そちは、マリアにそれができたと申すか。」
「一味を皆殺しにする力があるなら、可能なことでありましょう。」
「もし、一味の相手が、竜であってもか?」
「はっ、はっ、はっ。イシスタ伯爵家が竜である訳がありませぬ。」
「侯爵、マリアは女神クロート様にすがり、助けを得たと申したぞ。そちは、それをなんと心得る?」
「たかが小娘の戯言、気にかけるほどのことはありませぬ。万事お任せを。」
「 · · · · 。」
ブレイメン侯爵は、ホース伯爵、クック子爵に、領地に帰り騎士団を率いて、三日後に出発するように命じた。
俺は、マリア、パットン、レンジャー部隊の小隊長3人を集めて、この事態をどうするか話し合った。 防御を固めるか、途中で襲撃するか、先制攻撃をするかである。
結果、先制攻撃に決めた。三家の騎士団が合流する前に叩くべきだ。それに攻撃目標は、人じゃない方がいい。
ホース伯爵は、整列した騎士団を閲兵すると、出発を命じた。
その時である。館のあちこちから爆発が起こり、火の手があがると見る間に業火となって、館を跡形もなく燃し尽くした。
伯爵は、呆然とその光景を見ていた。そして心の中では、女神クロートに逆らう意味を思い知ったのである。
同じことは、ブレイメン侯爵の城と、クック子爵の館でも起きた。シンジの転移により、侵入したレンジャーの三部隊が、高濃度火炎瓶を仕掛たのである。
これにより、家族や家人の大半と、城や館を失い、これが戦争だということを思い知ったのである。
報告を受けたアレク国王は、他の貴族を集め、イシスタ伯爵家に対するいかなる干渉も禁ずることを命じた。
アレク国王からの手紙を持った使者がやって来た。俺とマリアの結婚を認め、俺にイシスタ伯爵家を継ぐことを正式に認めるという内容だ。
ただし、滅ぼした近隣領をイシスタ領に併合し、復興を行なえとの条件付きだ。
復興と言っても、貴族当主達を亡きものにしただけで、土地や街を荒らした訳じゃないから、要は振興しろってことだ。
俺は、受けることにした。俺とマリアの結婚は、王国に認めさせなければならないし、近隣にまた変な貴族が来ても厄介だ。
俺達が倒した貴族家の遺された妻子は、平民としてだが、生活費を支給し、保護することにした。




