第一話 異世界出会い系サイト
俺の名前は、門田真二、平凡なサラリーマンをやっている30才独身。彼女歴なし、恋愛歴、近年なし。
男ばかりの職場で残業の毎日。こんな楽しみもない生活から、抜け出したいと思ってはいるが、適当な手立ても思いつかない。
そんなある日、残業から帰り、いつものように、頭にこびり付いた仕事の記憶を打ち消すために、音楽でも聞こうとPCを開いたところ、妙なバナー広告が、目に飛び込んで来た。
《異世界の出会い系サイトで、彼女を見つけよう》
なんだこれ? 出会い系サイトは、覘いたことがあるけど、《異世界の》ってなんだろう?
興味に惹かれるまま開いてみる。
『異世界出会いサイトへようこそ、初めにサイト規約をお読みください』とある。
有料課金の念押しかな?
とりあえず規約をクリックして開く。
そこには、次のようなことが書かれていた。
第一条 このサイトでは、普通とは異なる人生を経験できますが、命を落とす危険もあります。登録後の取消はできません。
第二条 このサイト、及びサイト内での内容は、他言できません。違反すると全ての記憶が失われます。
第三条 このサイトは、女神クロートにより、運営されています。
女神からの指示は、貴方の進むべき正しい道を示していますから、極力従うこととしてください。
トップ画面に戻ると、「入場」・「退出」の選択画面がある。
運営者の《女神クロート》というのは、単なるペンネームだろう。
違反したら、記憶を失うというのは、このゲーム?の記録が消去されるということで、特に危険はないだろう。
そうして、俺は「入場」を選択した。
突如として、画面が赤い閃光に包まれ、周囲は、ぼんやりと霞んだ空間となり、俺とパソコンだけが、はっきりとした現実のものとなっていた。
そして画面には、、、異世界出会いサイト〘クロート〙へ、ログインしました。
お相手の選択方法を選んでくださいとある。
➀ 個別選択 ➁ キーワード選択
⓷ 女神クロートーの運命選択
個別選択をクリックすると、種族・年齢・身長・体重・BWH・目の色・髪の色・肌の色ETC。
なんか20項目くらい並んでる。長女・次女・一人っ子なんてのもある。
性格が項目にないのはなんでだろう。
あいまいな部分が、あるからかも知れない。
試しに、エルフ・25才・身長155~165・一人っ子を選んでみる。
選択をクリックすると一枚の写真が登場。
うんっ、すごい美少女っ。胸は写ってないからわからないけど、エルフだから、貧乳じゃないかなっ。
それに、かなりの幼女。エルフは、長命だから、25才でもまだ子供なのかも知れない。
獣人族・犬・猫族とか、ドワーフとか、種族をいろいろ変えて、写真を眺めて楽しむ。
おっと、夢中になりすぎた。明日も仕事だし、そろそろ止めて寝なくちゃ。
そう思って、ログアウトを選択したら、警告画面が出た。
曰くお相手を選択してから、ログアウトしてくださいだと。
ええっ、そんな簡単に選べないよ。
種族の写真を見ただけで、もう2時間くらい過ぎた。どうしようか。
仕方ない、自動選択の]《女神クロートの運命選択》とかを選ぶか。
《ポロローン》という音がして、その瞬間、俺の周りの景色が一変した。
そこは、見たこともない、壮大な大理石できた場所で、正面の壁に巨大な浮彫のレリーフの人物画が描かれ、厳かな雰囲気の場所だった。
そして、突然また、《ポロローン》音が鳴り、俺の横に一人の女性が現れた。
現れた彼女は、俺をいぶかしげに見つめている。
えっ、もしかして、このひとが女神クロートの運命選択の相手だろうか?
そう、俺が躊躇していると、相手の女性から話しかけてきた。
「あなたは、女神クロート様に、招かれた方でしょうか?」
「ええ、女神に選ばれた相手が、あなたなのかな?」
「はい、私も女神様に召喚されて、ここへ参りました。」
「はじめましてだね、俺の名前は、カドタ・シンジといいます。」
「カドタ·シンジ様ですね。初めてお目にかかります。マリア·イシスタと申します。」
「何から話せばよいかな、申し訳ないけど、全く何も理解せず、ここへ来てしまってね」
「私は、女神クロート様に、私を助けてくださいとお祈りし、助けてくれる方に巡り会わせてくださると、ご神託をいただき、ここに参りました。」
「俺は、偶然みたいだけど、俺の世界の《サイト》というところに入ってところ、相手を選ばないと出られなくなって、《女神クロートの選択》というのを選んだら、ここに来たという訳なんです。」
「そうなのですか、でも女神様があなたと引き会わせてくれたことに、間違いはないです。どうか私を助けてください。」
「助ける? なにか困っているのかい?
俺にできることなら、なんとかやってみるけど。」
「はい、私は今、父を何者かに殺され、近隣の貴族のだれかに嫁がされそうになっているんです。」
そう言って彼女は、話し始めた。
この国の名はアルバス王国、異世界ユーフラテス大陸のほぼ中央にある温暖な気候の国で、約200にも及ぶ貴族領の連合国で、
彼女はその中の一つ、王国最東部にあるイシスタ伯爵家の一人娘であるとのこと。
彼女が生まれてから21年間、特別な災いもなく、領民は農業と魔物狩り中心の平穏な生活をしてきた。
ところが1ヶ月前、突然、魔物の大量発生であるスタンピートが起こり、その混乱の最中、父親のイシスタ伯爵が、何者かによって殺されてしまった。
スタンピートは、国王が派遣した騎士団により平定されたが、領主が亡くなったイシスタ領の後継については、周辺貴族、及びその子息との、マリアの婚姻した者に継がせると、王家から使者が来たとのこと。
ところが、婚姻後は、婚姻先へイシスタ領が吸収されるなど、聞いていない話になっているとのこと。
通常は、マリアに婿を取り、イシスタは伯爵家を存続させるのが常識であるが、スタンピートを抑えられなかった責任を理由に、実質領地没収との動きである。
マリアは、ずっと父親殺害の犯人を、捜し続けてきた。
そして殺害の手口から、暗殺教団アサルトの手の者が行ったに違いないと、確信するに至ったそうだ。
しかし、誰がアサルト教団を動かしたのか、また、何の目的で父を殺害したのか、そこまでは、到り着くことが出来ずにいる。
そして、マリアの婚儀先については、周辺五貴族領の代表者が、剣の試合で決着を図ることが決定され、それは、3日後にだという。
困り果てたマリアは、彼女が信奉する女神クロートに助けを求め、その結果、俺が選ばれたという訳だ。
「待ってくれ、俺にできることがあるとは思えないんだが、女神様は、何か言ってなかったかい?」
「はい、女神様のご神託には、その者そなたの夫となる者、すべてをゆだねよと。」
そう言って、マリアは顔を赤く染めた。
ええっ、それって、マリアと契ってしまえってことに聞こえる。そんなことしたら、国王の命に背いた俺は、命がないだろう。
女神、無責任すぎないか。
「マリア、ちゃんと聞いてほしいのだが、確かに、俺たちは、女神の運命の選択か、それによって巡り会わされた。
だからと言って、いきなり好きだとか恋愛とかになるものじゃないだろ。」
「普通はそういうものだと思いますが、未来を知る女神様のご神託ですから、私は、シンジ様が夫になる方だと、信じていますわ。
シンジ様は、私がお嫌いですか?」
「はぁ、そんなことはないさ。マリアはとても可愛いと思ってるし、マリアが困っているなら、なんとかして助けたいとも思うよ。
でもほんとうに、いいのか? 会ったばかりの俺と結婚するなんて。」
「シンジ様、私はシンジ様を信じます、だから、シンジ様も私を信じていただけませんか」
こんなに突然に、結婚することになるとは、思っても見なかった。
でも、いつかは結婚するだろうと、思っていたし、今がそれでもおかしくはない。
結婚は始まりで、終わりではないと誰かが言っていた。
「じゃあ、マリア、ちゃんと言わせてくれ。
俺と結婚してください。」
そう言うと、マリアは口をおおい、目をうるませて、じっと俺を見つめた。
「あなたと出会えて、幸せだったと思える人生を送りたいです。
よろしくお願いいたします。」
そう言って、マリアは俺に抱きつき、俺は初めて口づけをした。
うん。マリアを守って見せるぞ。
それが、女神が俺を転生させた意味なんだろう。
俺は、責任の重大さに身震いしながら、心に誓った。