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女の子たちの話。短めです。


 夢のような星祭りから数日後。

 ランビック団長は、私に1日休みをくれた。

 その日は自室にこもりきりになるから、せっかくだし休めばいい、ということだったけれど、後でドルトムンダー副団長が「お前が根性みせてヘレス殿に食らいついていったからなー。褒美だ褒美」とこっそり教えてくれた。

 褒めてもらいたくてやっていたわけではないけれど、こうして頑張りを認めてもらえるのは嬉しいことだ。


 さらには、その昔、帰り道にちらっと同期の女中の話をしただけなのに、ランビック団長はきっちり覚えていたようで。


「ティナー!シルヴィ!早く早くー!もう並んじゃってるよー!」

「もう、リオナったら急ぎすぎよ!ケーキは逃げていかないわ!」

「逃げるわよう。ちょっと目を離すとすぐ女の子たちのお腹に逃げて売り切れになっちゃうもの」


 こうして、久々に休みがあった同期3人で街に繰り出したというわけだ。






「なあんか、久しぶりよねえ」

「そうね…。同じ仕事をしているはずなんだけど、いや、しているからこそなかなかお休みが合わないものね」

 大人気店のケーキを無事にお腹に収め、しみじみと久しぶりの時間を噛みしめる。


「そういえば、ティナ。あれは大丈夫なの?」

 徐にシルヴィが声を潜めて私に問う。

「あれって?」

「あれよう、あれ」

 今度は、リオナも難しげな顔で声を潜めた。


「シラミ」「会計省の悪魔」


 しかし、二人が私に問いたかったのは違うことだったようだ。

 言った当人たちも、顔を見合わせる。


「シルヴィったらシラミって…。ティナ・ウォルター特製シラミ避けハーブブレンドがあれば、1週間もたたずに解決してるわよ。それに、こんな素敵なところでそんな話題出さないで」

「リオナこそ、会計省の人がどこで聞いてるかわからないわよ。それに、星祭りは終わったんだし、会計省の悪魔につきっきりの生活だって終わったでしょう」


「「そうでしょう!?ティナ」」



 とりあえず、二人がどうやら非常に心配していてくれたことはよくわかった。

 一口、紅茶を飲み、口を湿らせてからゆっくり言葉を紡ぐ。


「例の虫は、無事解決したわ。リオナの言う通り、私のハーブブレンドで一撃だった」

 まあ、一部の先輩から「どうにかしてボック・ドルトムンダーの部屋だけシラミを残しておけないか」という熱い要望があり、その対処に少々困ったのはまた別の話。

 最終的に、シラミに境界線を設けることは難しく、副団長の部屋だけ残しておくと、ランビック団長をはじめとした他の素敵な騎士たちも被害を受けるだけでなく、ゆくゆくは先輩たちの部屋まで汚染される可能性があると熱弁をふるったら、すぐにその要望を翻してくれたが。


「ヘレス様も少し歩み寄ってくれて、星祭りは無事に乗り切ったわ。まだ後処理もあるし、これを機会に騎士団の会計処理も見直してくれているから騎士団に来る機会はまだまだあるけれど、これまでみたいにずうっとつきっきりではなくてもいいはずよ」

 それになにより、ランビック団長がとても気遣ってくれたから、今となってはそれほど苦と感じなかった。


「だから、もう大丈夫。元気で楽しくやっているわ」

 そう言ってにっこりと笑うと、二人ともあからさまにほっとした顔をする。

 やはり心配してくれていたようだ。

 二人に幽霊さんのことは隠しているし、心配をかけて申し訳ない気持ちはもちろんあるが、我がことのように二人が心配してくれたそのことが嬉しかった。



 しかし、再び和やかな雰囲気になったのも束の間、今度はリオナが顔を曇らせる。

「けどねーティナの問題が片付いて万々歳ともいかないのよねえ」

「どうしたの?」

 彼女は、浮かない顔のまま、声を潜めて私たちに告げた。


「王宮にね、幽霊が出たらしいのよ」






「幽霊?今さら?王宮の怪談話なんて山ほどあるじゃないの」

 珍しいことじゃないわ、とシルヴィが鼻を鳴らす。

 それでも、リオナの顔は晴れない。

「それはわかってるわよ。そういう話が苦手な私ですらすぐにいくつか思い浮かぶもの」


 だが、今回はそんな眉唾ではないのだという。


「私の叔母様が王妃様付きの侍女をやっているのだけれど、そのときに暗闇に浮かぶ幽霊を見たらしいの」

 

 いつ現れたのかはわからない。

 気づいたときにはいたそれは、リオナの叔母様と目があうと、にいっと唇だけ笑みの形を作ったのだという。

 怖くて目をそらし、再びそこを見たときにはすでに消えていたのだとか。


「見間違えじゃないの?私たちも夜勤のときはよく幽霊と間違われるわよ」

「絶対見間違えじゃないわ!叔母様、それから体調崩しちゃって、今王妃様の側仕えから離れて実家で静養しているのよ…」

 叔母様は王妃様にも報告したらしいが、その場にいた者達には箝口令が敷かれたのだという。


「ちょっと待ってよ。箝口令が敷かれているのなら、その話したらダメじゃない?」

「箝口令が敷かれたのは侍女達に対してだもの。家族は関係ないわ」

「いや絶対関係なくないと思うけど…」


「だって!…だって、私…怖いのよ…」

 リオナは、泣きそうな顔で言う。

「今までだって夜勤は怖かったわ。王宮でも夜は暗いし、怪談話もたくさんあるもの。けれど、この話は今までと違う」

 リオナの叔母様は芯の強い女性なのだという。

 王妃様に仕える侍女としての誇りと自信を持ち、下手な噂になど惑わされない。

 

 それなのに。


「そんなしっかりした叔母様ですら、今うなされて寝込んでいるのよ。そんなものに私が夜一人で遭遇したらどうなっちゃうんだろう…」

 その話を聞いてから、怖くて怖くて、仕方がないの。


 そうリオナが言ったきり、その場に、沈黙が満ちた。


「大丈夫よ、リオナ。夜当番はしばらく私が変わってあげるから…」

 沈黙を破ったシルヴィがなだめるようにそういうが、リオナは激しく首を振る。

「そうじゃないの!私があうのはもちろん怖いけど、私、掃除女中のみんなにそんな目にあって欲しくないのよう…」

 

 お店の他のお客さんたちは楽しそうに笑いさざめいているのに、私たちだけ、さっきまでが嘘のように黙りこくっていた。


「…とりあえず、しばらく夜勤を二人体制にできないか女中頭に進言してみましょう?」

 あえて明るくそう提案してみる。

「そんなことできるの…?」

「ランビック団長経由で女中頭に提案してもらえないか、頼んでみるわ。騎士団の方が危ないからって言ったら聞いてもらえそうじゃない?」

「そうね…」

「そのためには、ランビック団長にも今の話を伝えなきゃいけないけれど…それは大丈夫?」

「ええ…。広めちゃいけないんだろうけど…話さないとどうにもならないものね」

「話したところで幽霊なんて信じてもらえるか分からないけれどね」

 シルヴィが苦笑いするが、私は頭を振った。

「きっと信じてくれるわ」

 今まさに、幽霊に悩まされている団長ならば。


 それに、きっとこれは団長と無関係じゃない。

 何をするわけでもなく、じっとそこにいる。

 遭遇すると、生気を吸われているかのように体調が悪くなる。

 そんな話を、私はリオナから聞くよりずっと前に、団長から聞いたのだから。


 嫌な予感が頭をめぐる中、少し持ち直したリオナが明るく言った。


「ね、ティナのハーブブレンドに気力回復ー!とかないの?」

 ティナのハーブブレンドはどれもよく効くし、優しい香りがするから、叔母様へのプレゼントにしたいの。

 そう、リオナがいいことを思いついた、というように顔を輝かせて尋ねてくる。

「そうね…気力回復、というものはないけれど、恐ろしい目にあったのなら、何か心休まるブレンドを考えてみるわ」

「ほんと!?ありがとう!」

 ようやくリオナに笑顔が戻ってきた。

 ほっとすると同時に、隣のシルヴィの空気も緩んだのを感じた。

 ムードメーカーのリオナの元気がないと、心配になるのは私もシルヴィも一緒。



 それにしても、とリオナは先ほどとは打って変わって悪戯げに笑う。

「すっかり騎士団長様と親しくなったのねえ。羨ましいわ」

「本当に。頼みごとができる仲なのね」

 シルヴィにもからかうように言われ、頰が熱くなるのを感じた。

「そんなんじゃないわ。ただ、ランビック団長が優しいだけ」

 否定しているのに、二人はにやにやしたままだ。


「まあでも、近くにいられるうちに、いっぱい話しておいた方がいいわよ」

「え?」

「だって、シラミも駆除したし、星祭りも終わってヘレス様も会計省に戻ったのなら、ティナももうすぐ通常業務に戻るんでしょ?」

 通常業務に戻ったら、騎士団長様なんてなかなかお目にかかれないわよ?


「…そうね」

 そうだ。

 幽霊さんのあれこれがある前は、私も団長を遠くから見つめてかっこいいなと思っているたくさんの女性の一人だった。


 だから。


 幽霊さんのことが終われば、私は再び団長を遠くから見つめるだけになる。



「ティナ?大丈夫?」

「…え?」

 シルヴィとリオナが心配そうにこちらを覗き込む。

「私、余計なこと言っちゃった?」

「…いいえ」

 近くにいられるうちに、いっぱい素敵なお姿を目に焼き付けておかなきゃって思っただけよ、と笑ってごまかす。


 一緒に二人で廊下を歩いたことも。

 私の頭を撫でてくれた団長の大きな手の温かさも。

 二人きりで星空の下踊ったことも。


 全部私の心の中で、きらきら輝く思い出として残っているから、もしこれから先、遠くからでしかお目にかかれなくても、きっと大丈夫。



「ね、リオナの叔母様の心が安らぐようにポプリを作ろうと思うの。材料を集めるの、手伝ってくれる?」

「え?ええ…もちろん…」


 まだ心配げな二人ににっこりと笑って見せ。

 一気に飲み干した紅茶は、冷めていたせいか、あまり美味しくなかった。





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