表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
京の魍魎退治 始末の日記  作者: 夢小路 一瞬
5/8

序章 龍炎 誕生 5

 「じゃが、晴明。そなた、無事ではないか?」


はぁ、とため息をついて、晴明が答える。


「申し上げたこと、お分かりいただけておりませぬか? 遅効性の毒を持っているものだとすれば、私めがこの場を辞して、屋敷に戻ってからその毒で倒れるやも知れませぬ。当然、一日や二日では何も症状が出ぬことだって……」


「えぇい、うるさい。うるさい! 何度も言わいでも、分かっておるわ! 父親に似て、小賢しい! ワシに指図するでない!」


半ば狂ったように叫ぶ帝を冷ややかに見つめ、晴明はこう言った。


「ならば、お好きになされませ。わざわざ私を呼ばずとも、さっさとお一人でお召し上がりになれば良かったのです。『不老不死』の効力に惹かれても、毒を喰らう勇気のない貴方に、そのようなことが出来ようはずもない。だからこそ、目の前で私がさっさと戴いたのです。この身をもって、その肉の効果を示すことが出来れば、と」


まだ、何かを言おうとしていた帝の前で、突然晴明が立ち上がった。


「どうしたのじゃ、晴明?」


ぐっ、と言うくぐもった音に続き、ぐぼっ、と何かが吹き出るような音が、晴明の口から漏れた。


「せ、晴明。お主、その髪……。」


後ろから見ると、女性と間違えるほど、長く美しい黒髪が、あっという間に変化していった。

まるでストローで色つきのジュースを吸い上げていくかのように、長い黒髪が、銀のスプレーを振ったようになっていったのだ。

立ち上がった状態で、前のめりになりながら、晴明は自分の顔を押さえて苦しげな呻き声を上げた。


「だから言うたでございましょう、帝。毒の効き目はいついかなる時に現れるのか分からんと。

それに、毒のせいでどのような変化が起こるのかも、分からんのです……。ぐぅっ、め、目がッ!!」


そう言うと、目の辺りを押さえてしゃがみ込んだ。


「晴明! どうしたらよいのじゃ、ワシに出来ることはあるか!」


うろたえる帝と、廻りの者たちに、晴明は、荒い呼吸をしながらこう答えた。


「こうなる可能性があろうと言うことは、予想はしておりましたので、慌てないでくださいませ。

だが、それでも、ココまで強烈とは思いませなんだ。

申し訳ござらぬが、我が屋敷まで、駕籠をお願いいたす。ここで医者を呼んでいただいては、騒ぎになりまする。

それから、帝も、皆様も、このことはくれぐれも内密に、重ねてお願いいたす。私が、この酒宴の席で、良いがひどうて、途中で失礼した、と言うことにしておいてくだされ。

それから帝。何度も同じ事を申し上げるので、また怒られそうですが、この肉、惜しゅうございますが、決して口になさいませんように。

お分かりのこととは存じますが、『不老不死』とは真逆の結果がまっておりますからな?」


そこまで言うと、顔を押さえていた手を離し、銀色に染まってしまった長い髪を、後ろ手一つに結わえると、大きく息を吐き出して、帝を見た。


「よろしいですな、帝?」


「ひっ……」


そう、晴明に言われた帝は、声とも息とも見分けのつかぬ音を、口から漏らした。

それもそのはず、晴明は、髪の毛が銀色になっただけではなく、左の目も真っ赤になってしまっていたからだ。


「そ、その目……」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ