序章 龍炎 誕生
安倍晴明の息子、二代目の晴明。
彼が安倍家を離れ、孤独な戦いを余儀なくされる。
持っている才能と、身につけた力とで、都の平和を守り抜く!
安倍の屋敷に、時の帝(後に、諡を北白川、と称される)の使いがやってきた。
名前は息子に譲っても、家督はまだ譲っていないので、この安倍家の当主である、初代晴明が、使いの者との応対をした。
「帝からの直々のおつかいでございまするか。この安倍晴明の屋敷に、いかなるご用でござりましょうか?」
使いのうちの一人が、丁寧に頭を下げ、持参した手紙を晴明に差し出した。
「帝からお預かりいたしました、晴明様宛の文でござりまする」
手紙を読み終えると、晴明は息子を呼びつけた。
呼びつけた息子こそ、名前を譲り、二代目を名乗らせている、晴明である。長い黒髪は、後ろからその髪だけを見れば、女と見まごうばかり。背丈は父よりも高く、今で言う175㎝くらいであろうか。
本来ならば、名前だけでなく、家督も一緒に譲ればよいのだが、初代晴明は、考えるところがあり、名前だけを息子に譲ったのだ。
初代には、息子が二人おり、名前を譲ったのは弟の方である。なぜ、弟に名前を譲ったかと言えば、陰陽師としての力量、技術、どれをとっても兄よりも優れていると判断したから、だそうである。
二代目の晴明からすれば、その点は疑問を抱いているらしく、常々周りの者には
『俺よりも兄上こそ、晴明の名にふさわしい』
と、言っていたという。
「なんでございますか、父上?」
当主である父親に、恭しく頭を下げ、二代目の晴明は、ニッコリ笑ってそう尋ねた。
「わざわざ呼び立ててすまぬ。今から、この方たちと一緒に、帝の所へ行ってくれぬか?」
「帝? 帝が、この晴明になんのご用でございましょうか?」
「うむ。この文によると、珍しいものが手に入ったゆえ、一緒に膳を囲みたいとのことじゃ。しばし、手間をかけさせるが、行ってはくれぬか?」
父の問いかけに対し、晴明は意地悪く笑ってこう答えた。
「行ってはくれぬか、とお聞きですが、私にはそれに否や、を言うことはできぬのではありませんか、父上??」
「まぁ、そう言うな。帝のお呼びじゃ。行ってくれ」
「最初からそのように仰ればよいのに……。さて、それでは、参りましょうか」
晴明は、そう言いながら立ち上がると、帝の使いたちに頭を下げ、合図をした。
ぞろぞろと彼らが部屋を出て行った後、当主の晴明はため息をついた。
「全く。相変わらずの物言いじゃ。無事に帰ってこれるといいんじゃが……」
そう言いながら、晴明は、帝から預かった文ではなく、自分が書き記した短い書き付けを、二代目の晴明がちゃんと持っていったことを確認し、ほんの少しだけ安心していた。
まだまだ、おかしなところがあるかも知れません
少しずつ書き続けるつもりですが、修正した方が良いところがレバ、教えていただけると助かります。