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Eclipce  作者: モニャニャチコ
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第1話「ゴミを拾いました」

第1話 「ゴミを拾いました」




1


ミドガルド皇国、商業の町オルテーア。のとある建物で、俺はどんどん空の皿を積み上げていく一人のチビっ子を前に嘆いていた。


「なんでこんなことになったんだ・・・・・・」






2時間前。

「ゴブリン急増中。近隣の住民への被害を防ぐため、至急10匹退治せよ。」という依頼書の元、俺は仕事に向かった。

場所はオルテーアの北街道。周りをさっと見回すと、なるほど目に見えるところに魔物がいる。

それが依頼書のゴブリンと一致していることを確認して早速狩りに取り掛かった。

ゴブリンは動きがとろい。手に持つ鈍器は警戒すべきだが、背も低いし剣を振ればたやすく吹っ飛んでいく。C級クエストというからもう少し手応えがあるのかと思えば。どうやら数の多さを考慮してD級クエストに分類されなかった、というだけのようだ。


「よっし依頼完了!これでC級クエストだから報酬は3万リンくらいかな。なんにせよ2,3日は飯に困らねえぜー!」


10匹目を縄標で軽く仕留め、その場をあとにしようとした時。

軽い運動だったなあ、とぐぐっと伸びをすると、ある物が目に入った。


「ん?なんだあれ」


5mちょっとありそうな木の枝に、ズタ袋のようなものがずっしり垂れかかっていた。


「でかいゴミだな・・・・?」

動く気配は一切ない。砂かなにかかと思ったが微妙な凹凸があるのが気になる。手を伸ばしてみても到底届かない。木を揺らしてみるか。

ゴミなら捨てればいいや。

好奇心のままにそのズタ袋を調べてみようと木の幹を強く蹴った。

ばいんと湾曲した木の幹の反動で枝がゆさぶられ、ズタ袋はうまい具合に俺のほうに飛んできた。腕に引っ掛けるようにすかさず片腕でキャッチしたら袋が鳴いた。


「んぎゃっ!」

「・・・・・・・・・ん?」

人の声?

訝しみながらズタ袋をのぞき込むと、突然袋が起き上がった。

「いったーーーい!背中折れる!なんなのもー!!!」

「うわっ!?」


姿を現したのは、蒼い髪をした小さな少年。ズタ袋だと思っていた布は服で、まるで大きな袋に身を入れているようだった。髪と同じ色の目を瞬かせ、「・・・・ん?」と少年は怪訝な顔で俺を見た。俺も多分変な顔をしていたと思う。



そして現在。

「くそ・・・俺の2,3日のメシ代が・・・・・・」


話を聞くと腹が減っているというからとりあえず食事場につれてきて飯を提供したのだが、子供だとおもって好きに食べろと言ったのが間違いだった。こいつ、とんでもなく食う。


「助けてもらった上にもぐごはんももらえるもぐなんてもぐほんと命のもぐ恩人だよありがとうお兄さんもぐもぐ」

「食うのか喋るのかどっちかにしてくれ・・・・」


目の前には空になった皿の山。ここの食事提供はサブ的な役割で本来飯を食う場所ではないのだが、こいつはお構いなしにメニューを見てどんどん注文を追加していく。


「あ、お姉さんこのパスタお願いー!それとそれと~」

「遠慮っつー言葉を知らないのかお前は!それでラストオーダーにしてくれ!」


目の前の料理をひとしきり平らげ食べるものがなくなった少年は、指をぺろりとなめてから辺りを見渡した。

「ねえ、ここはどこ?酒場に見えるけど・・・ん、あそこに掲示板がある?」

「酒場じゃねー、リーだ」

「りー?」

「リーってのはセント・リーの略称で・・」

「せんとりー?」

「え、知らないのか!?」

「うん知らない!」


嘘も感じられないはっきりとした物言いに言葉が詰まった。「あー、」と続ける。


「セント・リー、通称リーは、そうだなぁ、15年くらい前かな。に、うまれたギルドだ。このミドガルド皇国ほぼすべての町に支部を構える大きな組織。国民の悩みを募ってそれを依頼とし、このギルドに加入したやつがそれらをこなしていく・・・うーん、まぁお悩み相談の仲介所だな。」

とここでパスタが運ばれてきた。少年は「ありがとー!」とにこやかに礼をいってそのまま流れるように食べ始めた。

「知名度ほぼ百パーといわれるこのギルドは皇国の要であると言っても過言じゃない。仕事の内容も3種類あっ て、老若男女だれでもこなせるような仕事もあるから小遣い稼ぎにやろうとするやつも・・ってきいてる?」

「もぐきいてるきいてる」

「はあー、まあいいや・・リーについて説明したらキリがない。しかしお前ちっとも知らないって相当だぞ・・・いったいどんなド田舎で暮らしてたんだ」

「ごっちそうさまーー!!お兄さんありがとー!!」

「きいてねえし」

「おいしいご飯くれたお礼になんかしてあげる!なんか、なんか・・」

「礼ィ~?おまえみたいなガキんちょになにができるってんだよ!金返せ!」

「お金はないよ~ごめんね~!!」

「だろうな!!もう金はいいよ去れ去れ、俺はお前にぶんどられたメシ代を取り返しに行くから」

「取返し?どこいくの?」

「さっき言っただろ。『依頼をこなす』んだよ。魔物の一体でも倒せばうん万入ったりするからな~。」

ガキんちょは、魔物・・と俺の言葉を反芻するように呟く。

「ついていきます親分!」

「いやなんなのそれ親分って。ガキは狩場には連れていけねーからさっさとどっかいっちまいな~。」


しっしと手で追い払う素振りを見せ、会計を済ませようと俺はカウンターの受付嬢のもとに行った。受付嬢は依頼のやり取りを承る重要な役職だ。依頼内容のランク分けなども彼女らが行うのだが、素人には判別のつかない内容も多いため、その管理職につくには厳しい試験を乗り越えなければならないといわれている。

その厳しい試験を乗り越えただろうこのオルテーア支部の受付嬢、カステは艶やかな黒髪をきれいに切りそろえた、どこか異国風の雰囲気を纏った穏やかな女性である。


「レオルさん」


その彼女が俺の名を呼び、和やかに言った。


「いつのまに子供なんてつくっていたのですか?」

「ぶふっ!」


ガキんちょに食われたメシ代2万リンをカウンターに出したところだった。勢いよく振り返るとさっきの少年がにこにこと俺の背に構えていた。


「しかもそんな大きな子供・・・・11歳くらいかしら・・・」

「頭働かせろよ!そしたら19歳の俺は8歳の時にガキ作ったことになるだろ!おいお前どっか行けって言っただろなにしてんだ!」

慌てて言うが、少年は変わらずにこにことさっきと同じ申し出をしてきた。

「魔物なら僕慣れてるからさ!騙されたとおもって連れて行ってみてよ!」

「お前が慣れてんのは死んだフリぐらいだろ」


こんな俺の胸辺りまでしか身長のないチビっ子を仕事に連れて行くなんてまったくごめんだ。しかしどうにも聞き訳がいい様子ではない。これは断ってもたぶんストーカーまがいについてくるだろう。


「ごはんのお礼がしたいんだ!だいじょうーぶ、僕が殺されてお兄さんが胸くそ悪い思いをするような展開にはならないから!僕の命は気にしなくていいよっ!お兄さんの命も気にしないけどね!」

「てめえ」


もしかして魔物がどんなものかも知らないほどの無知な子供なんだろうか。

カステはまだ「レオルさんも隅におけませんわね、一体どこの女とそんな良い関係になったのですか」なんて言ってるし。はあ、もうめんどくせえ。


「・・・そこまでいうなら来いよ、何があっても知らんからな」

「まっかせてー!」

不安しかない。












2



「お子さんを連れて行くのでしたらこちらの依頼はどうでしょう」と既に訂正がめんどくさくなった俺がカステから無言で受け取った依頼書には、「出現 ギガントマンティウス」と書かれていた。対象モンスターのイラストは・・カマキリ。


「鋭い鎌をもった前足が脅威で動きも速いですが装甲は硬くありません。レオルさんの双剣なら、見つからないように陰から攻撃すれば簡単に倒せますわ。あと卵を産むかもしれませんわね」

「卵!?」

「はい。詳しい情報がなく申し訳ないのですが、もしこのマンティウスがメスだった場合、そしてさらに産卵期だった場合・・そうですね、1メートル弱くらいの卵を何十個と産んでいると思います。彼らの卵はすぐに孵りますので、以上の二つの条件を満たした場合レオルさんは数十個の卵とそのお母さんを退治しなければいけません」

「どこが子供連れに優しい依頼!?おいこれB級クエストっ・・」

「C級に近いB級クエストですわ。Bマイナスのライセンスをお持ちのレオルさんにはちょうどいいかと思います。まぁそんな奇跡的な場面にでくわすようなことは滅多にないとは思いますが・・。それに、」


カステは俺の隣で依頼書を眺めている少年を見て言った。


「彼に浪費させられた2万リンを取り返しかつ利益をあげるにはこのくらいのレベルでないと・・」

「まぁ、たしかに・・・」

「即お金が手に入るような近場で、依頼内容も数時間で完了しかつそれなりに高報酬を求めますとこれくらいしかありませんわ。」

「お姉さん、このモンスターはどれくらいの大きさなの?」


それまで依頼書をじっと見つめていたガキんちょが顔をあげて言った。


「そうですね・・、レオルさん二人分くらいでしょうか」

「単位俺!?」

「4メートルくらいかぁ~、なるほどギガント」


特に驚く様子もなく「レオル、これ行こうよ!」と俺にぴらぴらと依頼書を振りかざす。どうでもいいけど呼び捨てかい。あと4メートルのカマキリと1メートル弱の卵って相当でかいしキモイぞ。いいのかそれで。

まあ実際に依頼を受けるのは俺だしな、とそのまま依頼を受け取ることにした。


「あら、そういえば聞きそびれていましたわ。少年、ライセンスは持っておられますか?」

「ライセンス?」


ライセンスは依頼を受ける際に求められる身分証明書みたいなもので、ギルドに加入している者がもつカードだよ。と教えてやると、

「もってない!」

と予想通りの答えが返ってきた。


「ライセンスはおつくりになられますか?」

「え~、うーん興味はないなぁ~」

「高いライセンスランクを持つ者はいろんな場面で重宝されることもあるんだぞ」

「興味ないなぁ~・・」


街の子供の大半は一流シーラ(ライセンス保持者のこと)になることを夢見ているというのに、レアな奴もいるものだ。子供だからそのへんの価値はわかっていないのだろうか。もしくはただ無欲なのか・・。


「この国の生まれであればだれでも作ることができますが・・」

「あ、じゃあむりだ!

・・・僕はこの国で生まれてない」


彼がセント・リーを知らない理由が今腑に落ちた。この幼い不思議な少年は異国の生まれだったのだ。それなら無理もない。




かく理由で、ゴブリン退治で北上した道とは反対に、俺とガキんちょは街の南に降りてきた。辺りは鮮やかな草原。時刻は昼過ぎで、風が気持ちよい頃だ。


「この開けた草原の・・岩の近くで見かけたって話だったな。岩ってこれか。」


ちょっとやそっとじゃ壊れそうにない1メートルくらいの岩が草の絨毯の上にどんと据わっていた。ふつうのカマキリは木の枝に卵を構えたりするが、このギガントマンティウスはどうなのだろう。カステの話しぶりだと、一つ一つ大きな卵をぼとぼと産み落とすような感じだったが。

ていうかカステ・・・こんな開けた草原じゃ「背後から攻撃する」ってムズカシイと思うんだ。


依頼書は少年に持たせていた。彼はそれをムズカシイ顔で睨んでいたが、やがて俺のほうを向いて、

「ねえねえ、これなんて書いてあるの?」

と訊いてきた。


「ああ、字が読めないのか?」

彼は頷く。

「うん、まったく。」

「まぁ子供ならしかたないよな、俺もあんま難しいのは読めないんだけどな。えーっと、『注意。ギガントマンティウスは肉食。とくに子供が大好物で』・・・・・・・・」


おい。だめじゃん。ちょっとカステどこ見てたんだよなにが「お子さんを連れて行くのでしたらこちらの依頼はどうでしょう」だよ、子供をエサにする気か!「お子さんを心配して簡単な依頼を持ってきましたよ」っていう意味じゃなかったのね!


「レオル?」


依頼書をしっかり確認しなかった俺も俺だな。

ズタ袋にみえた、体全体を覆うほどの大きな布を身にまとった小さな少年が、突然固まった俺を不思議そうな目で見ていた。少年の前に座り、その肩をがしっと掴む。


「ガキんちょ・・・・・、逃げたほうがいいぞ」

「うん?」

「このモンスターはお前を・・・」

「レオルレオル」

「なんだ」

「うしろ」

ん?と後ろを振り返ると。



大きな緑色の複眼が、俺を、いやガキんちょをじっと見つめていた。



「なんてこった!!!!おい逃げろおまえ!」

「えぇ?でもこれを倒しに来たんでしょ?」

「いやそうだけど!!こいつはお前みたいなやわそうな子供を狙ってるんだ!俺一人でなんとかするから逃げろ!」

「『何があっても知らんからな』って言ったのに心配してくれるんだね!優しいねお兄さん!」

「だーっ、もうなんでそんな危機感ないの!?防衛本能置いてきたの!?!」


ギガントマンティウスは動きが速いとカステが言った。この子供を遠くへ逃がすのに動きを止めたくても縄標じゃこいつのカマに紐を斬られて終わる、動きを止めることはできねえ!

とりあえずマンティウスが動き始める前にガキんちょを横に抱えて岩の裏に隠れた。岩の裏、地面には大きな穴が開いていた。地中にもぐって隠れていたのかカマキリのくせに!


マンティウスはまだ動かない。このガキんちょを岩の裏なり地中なりに隠して俺が応戦するか、と考えを巡らせていると横から、

「レオルがおいしそうじゃないから僕が狙われてるってことだね!じゃあ僕が囮になればいいんだ!」

とのんきな声が聞こえた。


「前半のさりげない毒発言はもうスルーするけど!お前武器も持ってなければあの鎌を防げるような装備もしてねーだろ!その布服の中に暗器でも隠してんのか!?」

「しつれいな~。武器なんて持ってないよ、あと鎌を防げるような装備もしてないのはレオルも一緒だよね!」

そりゃ鎧も兜もつけてねえけど!俺は剣で防げるからいいんだよ!

「なんももってねえならすっこんでろ!俺の双剣一本貸してやるからそれで自分の身守ってな!」

「武器はこわいからやだなあ~!」

「武器が怖くて魔物倒すなんてよく言ったな!!」


はっ、と風の切る音を感じた。上からだ!


ガキンッ、と岩の後ろ側からマンティウスが下ろしてきた鎌を、既に取り出していた双剣で受け止める。ガキんちょはきょとんと目をまんまるくして突然降りてきた凶器を眺めている。逃げろや!


「俺が行く!これ一本置いていくからしっかり隠れてろよ!」

右手に持っていた剣をガキんちょの前に投げ落とし、岩を足場に俺はマンティウスの前に飛び出した。





レオルが飛び出していったのち小さな少年は武器に一切触れようとせず、ぽつり呟いた。

「武器は・・・・人を殺すからこわいんだよ」

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