表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/49

小話 溶けない雪だるま

 この年の冬はとても寒かった。

 雪がたくさん降って、大人たちはなぜかその度に困っていた。わたしには嬉しいことのほうが多かったけれど。

 庭で何度も雪遊びができたし、昨日なんかフィルの家に遊びに行った後、夕方から天気が荒れて吹雪いたせいで、そのままお泊まりができたのよ。

 我が儘を言って昨日の夜はフィルと同じ部屋にしてもらって、おしゃべりをしてから眠りについた。とても楽しくて嬉しい。

 翌朝、窓の外の光景を見たわたしは興奮した声を上げてしまった。

「フィル! ねぇフィル! すごく積もっているわ、ほら! それに晴れてるわ!」

 洗顔用のお湯を持ってきてもらうために、呼び鈴を鳴らしていたフィルがきょとんとする。

「ああ、そうだね」

 首を傾げて、どうしてそんなに嬉しそうなんだという顔をされてしまう。

 もう、わかってない。

「いっぱい積もっているのよ。それに晴れてるからたくさん雪で遊べるわ」

「そうだけど……。最近は積もっている日のほうが多いくらいだろう? アイリーンは雪遊びさせてもらえてなかったの?」

 今更珍しくもない。そう言いたげなフィルにわたしはがっかりしてしまった。

「していたわ。でもばあややエミリー……メイドたちとよ。大人としか遊んでないのよ。……フィルはジェームズと一緒に遊んでいたでしょうけど」

 口を尖らせてわたしはやさぐれた気持ちを表現した。

 わたしには年の離れたお兄様しかいない。だからいつも乳母やメイドと遊んでもらっている。雪が積もる度に、フィルと遊べたらいいのにと思っていたけど、フィルは一つ下の弟ジェームズがいるからそんなこと思わないわよね。

「そうだね。雪玉の当て合いはしたかな」

 何食わぬ顔で言われてショックを受けた。そりゃあ、遊ぶでしょうけど。雪が降ったら弟と当然遊ぶでしょうけど。でも浮かれたわたしが馬鹿みたいじゃない。

「でもそれしかしてないよ。あれはアイリーンとはできないし」

「どうしてできないのよ!」

 腹が立ってわたしはフィルを睨んだ。

「だってあれ当たると結構痛いよ。あんなのアイリーンに当てたくないし」

 フィルの言ってることがすぐに理解できなくて、ちょっと混乱した。

「……ジェームズはいいの?」

「ジェームズはいいかな。男だし」

 フィルはたまーにジェームズの扱いが雑になる時がある。ちょっと不機嫌な時とか。今はそうじゃないみたいだけど。

「それしかしてないよ。他の遊びはしていない。雪だるま作ろうか?」

 ちょっと納得できないところもあったけど、まあいいかと思ってわたしは頷いた。

「じゃあ、早く朝ごはん食べよう。おじさんがいつ帰るって言い出すかわからないから早くしないと」

 それからフィルはわたしを何度も急き立てた。



「さむぅーい!」

 外に出てみれば、予想以上の寒さに体か震えた。

「そうだね。晴れてるからもう少し暖かいかと思ったよ」

「お日様出てるのにー」

「まだ朝だからかな。アイリーン、大丈夫?」

「うん、へーき」

「…………おい」

 低く苛立った声が聞こえてきて、わたしはそちらへ顔を向けた。そこには口元を引つらせたジェームズがいる。

「へーき、じゃねえよ! さっさと屋敷に戻って厚着してこいよ! なんでフィルに抱きついているんだよ、お前は!」

 ものすごい勢いで怒られてムッとした。

「別にいいじゃない。なんでダメなのよ」

 外に出てみたら思ったよりも寒かったのよ。そしたら目の前にフィルがいるでしょう。そりゃあ、抱きつくでしょう。

「だから厚着してこいっての! 遊ぶんじゃないのかよ。フィルも当たり前みたいにされるがままになってんなよ!」

 本当にジェームズは怒りっぽい。ちょっとフィルで暖を取ってから遊ぼうとしただけじゃない。それにフィルだってわたしを抱えるように手を回しているのだから、同じように寒いに決まっているわ。嫌なことされてるみたいな言い方しないでほしい。

 もしかしたら拗ねているのかしら。

「ジェームズもしたかったの? でも残念ながら早い者勝ちよ」

 わたしは見せつけるようにぎゅうっと力を込めてフィルに抱きついてやった。ジェームズに関しては、わたしはフィルを分け合うという優しさなんて持ち合わせていない。すぐに怒る卑屈っぽいジェームズなんて、一緒に遊ぶことを誘っただけで十分な譲歩だわ。

「なっ……! そんなわけないだろ!」

 顔を真っ赤にさせてジェームズは怒鳴った。いつもよりも更に怒りっぽくないかしら。

「もう、知らねぇ! 勝手にやってろよ!」

 捨て台詞のように言って、ジェームズは屋敷の方へ走って行ってしまった。

「ちょっと待て! ジェームズ!」

 フィルが追いかけたから、わたしも慌ててついていく。

 ジェームズは部屋にこもってしまった。フィルが何度も扉越しに宥めたり謝ったりしても、もう一緒に遊ばないと言い張る。うるさい放っとけって、そればっかり。

 わたしは俯いてフィルの袖を引っ張った。

「ねぇ、フィル。わたしやりすぎたの?」

「……うーん。そうだね」

 フィルは困った顔をした。こういう時に公平なフィルがそう言うのならそうなのだわ。

 わたしとジェームズはいつも口喧嘩をしているから、お互いにいつの間にかやりすぎてしまうことがある。今回はきっとわたしの言葉が悪かったんじゃなくて、三人で遊ぼうとしているのに、一人だけ除け者みたいにしたことが悪かったのよね。

「ジェームズ、ごめんなさい」

 ちょっとだけズルいなぁとは思う。ジェームズはフィルと同じ家に住んでいる兄弟なんだから、遊ぼうと思えばいつだって遊べる。でもわたしが一緒に遊べるのはたまにだけ。そんな時くらい、フィルを独り占めしたっていいじゃないって気持ちがある。

 でもだからってそれで一人にされちゃうのは、わたしだって嫌だわ。

 ジェームズの返事はなかった。

「一緒に雪だるま作ろう」

 しばらくすると扉が開いて、ジェームズが顔半分だけ覗かせた。

「……お前がちゃんと厚着してくるなら、遊んでやる」

 高圧的な言い方に少しイラッとした。でも今回はわたしが悪いのだから我慢、我慢。

「わかった。すぐ着てくるから待ってて」

 わたしが折れると思っていなかったのか、ジェームズは驚いた顔をした。

 正直な気持ちとしては、何よりもまずフィルと遊ぶ時間がなくなってしまうことが嫌なわたしは、メイドたちのところへすっ飛んで行った。

 もこもこに重ね着させられた後、三人でもう一度庭に出る。

 雪の塊をまっさらな白い絨毯のような地面の上でコロコロ転がして大きくした。雪だるまはまん丸の塊が三つ必要だから、三人で競争して作る。

「もうそろそろいいんじゃないの?」

「まだダメ。もっと大きくするの」

 ジェームズの提案に、わたしは即座に首を振った。

「あのなぁ、こういうのは大きければいいってもんじゃないんだよ。形が大事なんだ」

「いいの。おっきいのがいいの。冬の間ずっと溶けないくらいおっきいのがいい」

「はあ?」

 呆れ果てたような声が返された。

「馬鹿かよ。そんなん溶けるに決まってるだろ」

 もう、なんでジェームズはいつもこんな言い方なの。

「そうかな。できるかもしれないよ。今年は雪がたくさん降ってるし。溶けかけたら新しい雪をくっつければいいんだよ」

 フィルが真面目に考えながら言ってくれたから、わたしは嬉しくて顔を輝かせた。

「できるわよね。たくさん降っているもの」 

「うん。僕がちゃんと見ておくよ。なくならないように。やってみよう」

 やっぱりフィルは違うわ。わたしは笑顔でフィルに抱きついた。

「ふふふー。ぃたあっ!」

 肩に衝撃がきて、驚いて振り返った。

 するとジェームズが何かを投げた後の格好から腕を組んで、フンと顔を逸らしている。

 間違いなく雪玉を投げられた。

「ジェームズ!」

 フィルが怒ってわたしを守るように背後に立たせた。

 かなり痛かった。ガチガチに固めたに違いないわ。雪玉ってもっと崩れやすいものだと思っていた。あれがフィルとジェームズの普通なのかしら。どんな危険な遊びよ。

「って、アイリーン! 応戦しようとするな!」

「嫌よ! 絶対にやり返してやるんだから!」

「これは負けるからやめろ!」

「負けないもん! 負けても一発はくらわしてやるから!」

「本当にやめろ! 雪だるま作るんじゃないのか!」

 フィルの言葉に、わたしは雪をぎゅうぎゅうに固めていた手を止めた。

 仕方がないわ。とてつもなく悔しいけど、今は雪だるまが優先よ。

 わたしはジェームズの出方を窺うために、さっきまで立っていたところに目を向けた。でも見当たらなくて、あれっと思ってきょろきょろすると玄関先にいた。

 目が合って、べえっと舌を出される。それからわたしが反応できないでいるうちに、さっと屋敷の中へ入ってしまった。

 あいつ!

「何なの、もう!」

 腹が立って地団駄を踏んだ。

「……君たち本当に相性が悪いな」

「あんなの相性っていう問題じゃないわよ! ジェームズがわたしのこと嫌いだからよ!」

「あぁー……。うん、そうかもね」

「わたしだって嫌いよ、あんな奴!」

「……とりあえず後はもう二人で作ろうか」

 フィルは今度はジェームズを連れ戻そうとは思わなかったみたい。多いに賛成だわ。

 気を取り直して、フィルと二人で雪をたくさん転がして大きくした。がんばって大きくしたから、頭の部分を乗せる時は届かなくて、庭師のおじいさんに手伝ってもらう。

 腕になる枝を差して、厨房でもらってきた人参を鼻に、炭を目にくっつけたら完成。ちょっと形が歪だけどちゃんと大きいわ。

「溶けちゃダメよ。冬が終るまではここにいてね」

 雪だるまに小さな声で話し掛ける。

 なぜかと聞かれたら困るけれど、わたしはどうしてもそうしたかった。できるだけ長い間、この子にここにいてほしかった。

「大丈夫だよ。ちゃんと毎日見ておくから」

 フィルが優しく言ってくれたから、とても嬉しくて笑顔でフィルを見た。

「ありがとう、フィル」

 フィルも目を細めて笑い返してくれる。外は寒いけれど、胸が温かくなった。

 その温かさは、家に帰った後も、次の日を迎えても、まだわたしの中にあって、何度も嬉しい気持ちにさせてくれていた。



 ◇ ◇ ◇



「あー、寒かったですわ」

 家に帰り着いて、まずそんな言葉が漏れてしまう。

 今年の冬は本当に寒くて、まだ始まったばかりだというのに、もうそればかり言っている気がする。

 でもここはまだエントランスだから暖かいわけではなくて、わたしは暖炉の火が入っているはずの居間へと急いだ。

「お帰り、アイリーン」

「フィル! ただいま帰りましたわ」

「冷たっ!」

 たまたま廊下にいたフィルに迷わず抱きついたら、悲鳴みたいな声を上げられてしまいましたわ。

「コートを着たまま抱きつくな!」

 外の冷気を存分に吸ったコートでしがみついたら、そりゃあ冷たいですわよね。わかっててやりましたけど。

 仕方なくコートを脱いで後ろにいた侍女に預けてから、もう一度フィルにしがみつく。

 するとフィルが小さく笑った。

「完全に復活したな。その寒いと抱きついてくる癖」

「いいでしょう。もう誰にも叱られませんもの」

 寒がりのわたしは子供の頃、よくフィルに抱きついて寒さを凌ごうとしていた。フィルは温かくて安心したから、成長してからもなかなか止められなくて、よくはしたないっていろんな人から怒られていましたのよね。

 でも今はもうそんなことでは怒られない。代わりに生暖かい目で見られることはありますけど。

「ふぅん……」

 フィルは何やら含みのある言い方をして、わたしがしがみついていないほうの腕でわたしの肩を抱いてから、耳元へと口を寄せた。

「そんなに寒いなら、体の芯まで暖めてやろうか?」

 吐息と共に艶めいた声が吹き込まれる。肩がビクリと震えた。

「……フィル!」

 一拍遅れて何を言われたのか理解した。顔が赤くなるのを止められず、フィルを睨む。

「別に誰にも叱られないだろう?」

「まだ昼間ですわ!」

「うん、だからブランデー入りのホットチョコレートでも飲んだら体の芯まで暖まるんじゃないかと思ったんだけど」

 言葉をなくす。

 とぼけた顔で言われて、わたしは更に頭に熱が集まった。

「知らないわ! 馬鹿!」

 こんなからかいかたをするなんて。腹立たしいことこの上ないわ。仕返しにしてもたちが悪いですわよ。

 笑いながら頬を撫でようとしてくるフィルの手を払い落として、さっきよりも強く睨む。

「今のは本気で怒りましたわ。笑ってるんじゃないですわよ」

 威嚇するように言ったというのに、フィルは全く焦りもしないし、困った様子もない。

「本気って言われても説得力がないだろ。怒っても可愛いだけだし」

 またしても言葉を失った。人が真剣に怒っているというのに、説得力がないとは何。

「可愛いって何ですの! 怒ってますのよ!?」

「怒ってるのにそんな風にしがみついたままなんだから、可愛いとしか思えないって」

 フィルはわたしの腕を指差して言った。フィルの腕に絡めておまけに体までぴったりとくっつけている状態を指摘される。

「これはっ……!」

「うん、寒いんだよな。早く居間まで行こうか」

 くすくす笑いながらフィルは歩き出した。言い返せなくなったわたしは黙って引きずられるしかない。フィルはこちらを見ては、思わずといったように笑っている。声を抑えていても体が震えているからわかる。せめてもの抵抗に、わたしは顔だけは見られないように必死に隠した。

 居間へ行ってソファーに座ると、フィルはわたしの顔を上げさせようとする。

「アイリーン、悪かったからもう拗ねるな」

 からかうような口調がなくなって真面目に謝るから、わたしは躊躇いつつそっと見上げてみた。

 フィルは笑っていたけど、可笑しいからとかではなくて、結婚してからよく見るようになった愛おしそうな微笑みがあったから、その顔を見るとわたしはいつも同じ感情が溢れてきてしまう。

 こうなったらもう、わたしが降参するしかないのよ。

「……だって嫌なんですもの」

「うん、悪かった」

 わたしは首を振った。

 そうじゃない。

「せっかく毎日一緒にいられるようになったのに、喧嘩して離れているのは……嫌なんですもの」

「…………」

 フィルから返事がない。

 恥を忍んで、もう怒っていないの代わりに言ったというのに、無反応ってどういうことですの。

 でもしばらく停止していたフィルは、急に片手で顔を覆って首を逸らした。耳が少し赤くなっているような気がするわ。

「……やっぱり寝室に連れて行くかな」

「っ何か言いましてっ?!」

 ポツリと漏れた独り言はしっかり聞こえていましたけど、聞こえていないのだということを強く主張した。

 でないと実行に移されかねない。やっぱりって何ですのよ。

「あーうん……何でもない」

 かなり迷ってからフィルはその前に謝っているという経緯があるからか、諦めるようにそう言った。

 こういう時は話題を逸らすに限りますわ。

「そういえば、今夜は雪が降るらしいですわ。今年は特に寒い日が続きそうだって皆さん言っていましたわよ」

 あからさまでしたけど、フィルは苦笑して、そうみたいだなと頷いた。

「こんなに寒いのは十数年ぶりだと誰かが言っていたな。確かに子供の頃に雪がたくさん降って大人たちが困っていたことがあったのを思い出したよ」

「ありましたかしら。いくつぐらいの頃ですの?」

「……雪だるまを作った年だよ」

 雪だるまなんて作っていない年のほうが少なかったはずですけど、わたしはピンときた。

「溶けない雪だるまですわね」

 懐かしさに笑った。

「そう、アイリーンが冬が終るまで溶けないくらい大きな雪だるまを作るんだって言い出したんだ」

 本当に懐かしい。あの雪だるまは結局、冬が終るまでというのは無理があって、その前に溶けてしまいましたけど、皆が驚くぐらい長い間、フィルの家の庭にあったのだったわ。

「フィルだけではなくて、いろんな人が手伝ってくださったのでしたわね」

「ああ、初めは俺が一人で小さくなっていないか確認していたのに、いつの間にか庭師のじいさんやら御者やらメイドが、どんどん新しい雪をくっつけてくれていたんだ」

 今思えばわたしも随分面倒なことを言い出したものですけど、何人もの大人が知らないうちに手伝ってくださったらしいの。子供の他愛ない思い付きのために、雪だるまが溶けていないか崩れてはいないか、寒空の下まで確かめに来て、直してくださっていたと聞いた時は驚いたわ。

 普段はただ仕事に忠実な面しか見えていなかったフィルの家の使用人たちが、本当は優しい人たちなのだとわかって嬉しかったのを覚えている。

「ジェームズまでこっそり隠れてやっていたみたいだし」

「あの人もわからない人ですわね」

 溶けるに決まっていると馬鹿にしていたくせに。気が変わって手伝うことにしたというならまだ理解できますけど、誰にも見られないように隠れて手伝っていたなんて、わけがわかりませんわ。

「そうか? あいつらしいけど」

 フィルは納得なのね。わたしはジェームズのことをそんなに理解しているわけではありませんから、フィルがそう言うならそうなのでしょう。

「でも一番驚いたのは父さんだな」

「お義父様? 何か言われましたの?」

「あれ、言ってなかったか?」

 首を傾げるフィルにわたしは頷いた。この件に関してお義父様が話題に出てきたのは初めてのはず。覚えていないだけかもしれませんけど。

「偶然見てしまったんだよ。屋敷の窓から雪だるまの人参が取れていることに気づいて、直そうと思って外に出たんだ。そしたら父さんがいて、落ちていた人参を拾って鼻に付けてくれていた。それだけじゃなくてまた落ちないようにしっかり補強までしてくれていたんだよ」

「まあ、そんなことがありましたの」

「ああ、まさか父さんがそんなことをするなんて思わなくて、びっくりしすぎて幻覚かと思ったんだった」

「それは言い過ぎでは……ないかしら」

 とはいえ、お義父様のあの厳しいお顔で、雪だるまの人参をくっ付けている姿を想像するだけでも難しくはあるわ。

「翌年にアイリーンがまた作るって言い出したけど、雪が少なくて断念したんだったよな」

「ええ、今度はわたしの家の庭に作るって張りきっていましたのに、雪が積もっても毎回二、三日で溶けてしまってがっかりしましたわ」

 それはもう張りきっていたのに、あの特別な雪だるまはあれっきりになってしまった。

「今年は作れるかもしれないよ。たくさん積もったら作ってみようか」

 フィルが珍しく子供のような表情で言った。

 それはとても素敵な提案だった。顔を綻ばせたわたしに、フィルも同じように笑う。

 今度は二人で雪だるまが溶けないように見守って、そしたらまた優しい誰かがいつの間にか、手を貸してくれているかもしれない。

「作りましょう。雪がたくさん積もったら」


 


ジェームズがかわいそうな子なのか自業自得なのか、よくわからなくなってきました。


完結してしばらく経つのに、見つけて読みに来てくださった方々、ありがとうございます。楽しんでいただけましたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ