4 それは困ります
さて、本日はお茶会です。
女性の集まりですわ。フィルはおりません。
規模の大きなものですが、若い女性が多く見られて、年配の方があまりいらっしゃいませんね。
これは意図的にそうしたわけではなくて、今日はもう一つ大きなお茶会と日程が被ってしまったので、母娘で招待を受けていたこちらに、娘だけ参加させている人が多いのでしょう。
お茶会は出席できない場合、とても気の利いた断り文句で招待状の返事を書かなくては、次回から誘っていただけなかったりする。参加するほうが楽なのですわ。かく言うわたしも、母がもう一つのお茶会に参加している。
招待主のお屋敷に到着して、案内された自慢の庭園を眺め回していると、最近夜会で知り合ったご令嬢二人に話かけられた。
「アイリーン様、こちらで一緒にお話ししましょう」
「ええ」
親しい顔が見あたらず、断る理由もなかったのでついて行く。二人ともわたしより一つか二つ年上のはずだけど、外見があまり目立たず親の爵位も低いせいなのか、腰が低くて媚びるような態度をとる時がある。
夜会でわたしと一緒にいると、男性から注目されるかもしれないという魂胆があるからでしょうね。わたしはフィルの婚約者ということもあって、今は少し注目されていますもの。
これくらいの打算はあって当然なので、別に気にしません。性格が悪いわけではありませんわ。
席順が決まっていない自由なお茶会なので、空いている席に座り、紅茶の用意をしてもらうと、彼女たちは待ちかねたように質問をぶつけてきた。
「大丈夫なんですの? アイリーン様」
顔を寄せてきて、内緒話をするようにこっそりと聞く。どうやらもともとわたしと話したいことがあったみたいですわね。
「・・・何のことですの?」
「まあ、メリッサ様のことですわ!」
さっき声をひそめたのは何だったのかという音量で答える。そこら中で皆さんおしゃべりをしているので、誰も聞いていないでしょうけど。
二人は心配と好奇心が入り混じった表情をしていた。
もう知られてしまったようですわね。気をつけていたのですけど。
でもわたしとメリッサ様が話をしている所を目撃されただけのはずですわ。会話の内容は聞かれないように、細心の注意を払っていましたもの。
「メリッサ様がどうかいたしまして?」
小首を傾げて、優雅に紅茶を飲む。二人は困ったように顔を見合わせた。
「何か酷いことを言われたのではなくて?」
「正直におっしゃってください。あの方、准男爵の娘のくせに、ちょっとキレイだからって大きな顔をしすぎなんですわ」
何だか個人的な恨みも込められているような気がしますが・・・。
わたしは正式な婚約者で、しかもこんな顔ですから、端から見ればわたしがいびられているように見えるのでしょうね。
「いいえ、楽しくおしゃべりしていただけですわ。酷いことなんて言われておりませんわよ」
驚いた顔をして言ってみるも、疑わしそうに見つめられる。
まあ、特定の男性を狙っている女性と、その男性の婚約者が楽しくしゃべっていたと言われても、そりゃあ信じられませんわよね。
「庇う必要などありませんのよ、アイリーン様。どうかわたしたちに打ち明けてくださいな」
「わたしたち協力しますわ! あんな見た目だけが取り柄の田舎者なんて、あなたの敵ではありませんわよ!」
やや暴走ぎみに熱弁される。
純粋なる優しさというわけではなさそうですけど、わたしの為にそう言ってくださっているのはわかる。
それはとても嬉しいのですけど、正直なところかなり困ります。
だってこちらが多勢でメリッサ様に立ち向かって行っては、どう考えてもメリッサ様が圧倒的に不利ですもの。
あちらにも味方がいらっしゃるならそれも楽しそうですけど、メリッサ様の立場から推察するに、それはなさそうですわ。
有利な状態で戦って勝っても、嬉しくも楽しくもないですわよ。いえ、すでにわたしの方が有利ではあるのですから、これ以上は結構なのです。
「お二人とも誤解していらっしゃいますわ。本当にわたしたち仲がいいんですのよ」
おろおろしながら悲しそうに言うと、彼女たちはようやく少し我に返ってくれた。
「え・・・?」
「でも・・・」
わたしは周囲をきょろきょろと見回した。
このお茶会にメリッサ様も招待されていることは把握済みです。
ちょうど一人でいるところを発見しました。いいタイミングですわ。
「メリッサ様があちらにいらっしゃいましたわ。わたし呼んで来ます。お話ししていただけたら、きっと誤解も解けますわ」
わたしは戸惑っている二人を後目に、メリッサ様の元へ向かった。
「メリッサ様」
わたしが話しかけると、彼女は警戒心を露わに睨みつけてきた。
こんな所で敵意むき出しにしないでくださいな。
「よかったわ。お一人なんですのよね。あちらにわたしの友達がいるんですの。一緒にお話いたしましょうよ」
笑顔で彼女の腕を取って軽く引っ張ると、固まられてしまった。
「は・・・?」
そんな未知の生物に出会ったみたいな顔しないでくださいな。
「あちらですわ。さあ」
今度は遠慮なくぐいぐい引っ張った。
「ちょ、ちょっと! どうしてわたしがあなたの友達と話をしなくてはいけないの!」
メリッサ様は一体どんな想像をしているのか、顔に恐怖を滲ませて抵抗している。
リンチでもされると思っているのかしら。お茶会でそれはないでしょう。
「何を言いますの。わたしとメリッサ様の仲ではないですか。そんな意地悪おっしゃらないでくださいな」
「どんな仲よ?! わたしは行かないわ!」
「ふふふ、駄目ですわ。わたしの友達がわたしとメリッサ様の仲が悪いのだと、悲しい誤解をしているのです。ちゃんと誤解を解かなくてはいけませんでしょう」
「どういうことよ?!」
察してくださいな。
だいたいわたしと敵対していることが周囲に知られれば、困るのはあなたの方なのですから、表面取り繕うぐらいはなさいましよ。
わたしはにこにこと笑いながら、力付くでメリッサ様を連行して行った。
この方、かなり非力ですわね。