下らない最重要案件
オフィスに爽やかな朝日が差し込む。
今日もいつもと変わらない一日が始まり……
「部長、お電話が入っております」
こんな早くに電話だと?
早速トラブル案件か。爽やかな朝が台無しだな。
「わかった、繋いでくれ」
「お繋ぎします」
……めんどくせぇ。
これは非常に面倒くさい事になってしまった。無下にはできない相手というのもあるが、それを差し引いても
「めんどくせぇなぁ……」
さて、どうしたものか。数日中には誰かに白羽の矢をたてなくてはいけないか。
信用できる……いや、信頼出来る人間か。しかもほぼ打ち合わせは出来ない上に一発勝負。更には人を偽る技術がいるとなると、ううむ、まいった。
「部長? 大丈夫ですか?」
「うん?」
「いえ、先ほどからずっと苦笑いで携帯電話を開いたり閉じたりで」
自分でも気が付かないうちに携帯電話を取り出していたようだ。職場の若い子達からはスマートフォンを薦められたが、ビジネス的な機動力でいうならば携帯電話だって負けてはいない。
何より頑丈で使い易い。
「すまん、大丈夫だ。ちょっと特殊な案件が入ってな」
「先ほどのお電話ですか?」
「うむ、明日から俺が専属でこの案件に取り組もうと思う。すまないが緊急の案件以外は後回しにしてくれるか」
「わかりました。通常案件はこちらで処理しておきます」
「決裁権限は君に預ける。よろしく頼むよ」
「お任せください」
さて、これから策を練らなくてはならないな。とりあえず、いつもの店で考えるとするか。
店に入ると高校生だろうか、カウンターでマスターと話しながら何やら話している。
彼も常連なのだろうか、マスターも非常に自然体だ。
「おや、いらっしゃい。久しぶりじゃないか」
「最近はご無沙汰だったかもしれませんね。ミルクティーを」
マスターは手を挙げると奥へ消えていった。高校生は私を見ると軽く会釈してきた。手を挙げて答えてやる。
ふむ、なかなかいい顔だ。若いのにだいぶ苦労がにじみ出ている。うちのバカ息子にも、もっと苦労させるべきだったか。
「お待たせ。難しい顔をしているね。トラブルかい?」
「どうも。特殊な案件が転がり込んできてしまってね。いや、まいった」
まぁゆっくりしていってくれというとマスターは再び高校生のほうへ戻っていった。
ミルクティーを一口含む。うん、美味い。やはりここのミルクティーは格別だ。
さて、落ち着いたところでこの案件について考えるか。大雑把にまとめるとイギリス名家のいざこざに巻き込まれてしまった挙句、偽りの許嫁をでっち上げて、かつ相手に悟られずに事を運ぶと。
くだらん……。
しかも日にちはないし、どうすんだよこれ。
相手は13歳というところもネックだ。なるべく近い年齢でないと説得力がない。つまりは学生が一番近い年齢となるが、それだと経済的な背景がない。更には相手のお嬢様とも接点が全く生まれない。
必然的に俺が接点にならないと繋がりが生まれない。ほとんど詰みじゃないか。
「バカ息子しかいない……か」
大学生だがギリギリセーフにしておこう。俺の息子ってことで接点もOK。度胸は……まぁ、あるほうだろう。贔屓が入っているかもしれないが、それでも意外といい男に育ったからな。
と、いうかもう息子以外の選択肢が無いんだよな。やれやれだ。
「さて、そうと決まれば白羽の矢をたてるとしよう」
使い込んだ携帯電話の電話帳から息子を検索する。
頼んだぞ。俺の自慢のバカ息子よ。




